64. 高梨 春樹
「どうやらあのポンコツも随分マシになったみたいだね?」
「今更ながら最大のライバルの存在に気づいたらしいぜ?」
「何?今度は慈朗先輩?」
「いや…颯太。」
「意味わかんない…。実の兄じゃん…絶対ライバルになり得ない人じゃん…。」
「まぁ…充だから仕方ない。それにしても最近やたらと慈朗にも噛みついてるんだよな。」
「でも良かったよね。葵と充先輩上手くいってるみたいで。」
「ハナちゃん達程じゃないと思うけどぉ?何しろねぇ?フフフ…。」
「ノリちゃん!?」
「何?何?何かあったの?」
「もしかして、太一がついにアレを卒業したとか?」
「それってつまり…。」
「もちろんアレしかないでしょう?ね、春樹さん?」
「だよなぁ…。」
「ノリちゃん!春樹くんまで!?」
新学期が始まった。今日は半日だったので葵とノリちゃんとハナちゃん、そしてなぜか俺も一緒に学校の近くに割と最近出来たカフェでランチをしている。
1000円で、サラダ、前菜、スープ、パスタか肉料理か魚料理かピザ、ブルスケッタ、ドリンク、ドルチェがセットになっており、結構なボリュームだ。
俺と葵はパスタとピザをそれぞれ頼みシェアしている。
ノリちゃんは肉料理、ハナちゃんは魚料理だ。
「あれだけ私たちがアドバイスしたんだもんね?あれで分からなかったら人として終わってるよね。」
ブルスケッタを頬張りながらノリちゃんが言う。
「まぁ、丸く収まってよかったじゃん?」
ピザを齧りながら俺が言う。
「なんか前よりも葵と充先輩いい感じだよね?葵、幸せそうだし。」
「ハナちゃん達ほどの進展は無いけどね?」
ハナちゃんの発言にノリちゃんが返し、ハナちゃんが顔を真っ赤にしている。
「まぁ、葵と充は慈朗が必死で邪魔してるし、進展どころじゃないよな?」
俺がそう言うと葵は苦笑い。
葵と充が年末に仲直りをして、2人は付き合うようになった。そして、まぁいい雰囲気になる度に誰かしらの邪魔が入ると充がぼやいている。
充自身は、まだ最後までするつもりではなく、ただイチャイチャしたいだけなのだと言う。お互い経験が無いので、葵の負担になりたくない、大切にしたいのだと。
そんなイチャイチャする2人をからかっているのか、慈朗は絶妙なタイミングで現れちょっかいを出しているらしい。実は慈朗も葵が好きで本気で邪魔しているのかもしれない。慈朗の理想のタイプは葵らしいからな。
最近慈朗が遼太郎っぽいと言うか友晴っぽいと言うか、葵をからかい、弄んで楽しんでいる節がある。颯太もそれを推奨と言うか、葵と充がどうにかなるのは複雑らしく便乗して邪魔している。
一方の充はと言うと、颯太をライバル視している。2学期の期末テストも、球技大会も、ギリギリの所で颯太に負けた上、正月恒例のネタの件でも建前とは言え、颯太に負けたのが堪えたらしい。
「でも何で颯太先輩をライバル視するの?葵の実兄なんだから、別に意識する事ないんじゃない?」
ハナちゃんが言うことは最もだ。
「昔から、私は颯ちゃんにべったりで頼ってばかりだし…。時々みっくんの前で颯ちゃんかっこいいって言っちゃうし…。颯ちゃんも面白がってみっくんのことからかうからなのかも…。」
「前から思ってたんだけどさ、葵ってかなり重度のブラコンだよね。」
「颯太に対しては間違いないな。最近それに改めて気付いた充が凹んだっていうか、気にしちゃってさぁ、颯太っぽくなろうと頑張ってんの。」
「遼太郎さんの次は、颯太先輩か…。」
「よくわからないけれどみっくんが頑張ってるから嬉しい。」
「まぁナンダカンダ言っても、葵はみっくん大好き!だもんね。」
ノリちゃんの発言に葵が笑っている。葵は充への気持ちを素直に認めるようになった。
充はそんな葵が嬉しくてたまらないらしく、今まで以上にだらしない顔をしている。
充は元が良いだけに、勿体無い。きりりとした顔をしてさえいたら葵にカッコいいと言ってもらえそうなものだが、葵の前では全くそうではないのだから…。
少し前に葵が漏らしていた。「みっくんは私には王子様スマイル見せてくれないんだよ…。」と。王子様スマイルとは、充が学校などで面倒ごとから逃げたり、笑ってごまかす時に見せる笑顔だ。思いっきり作り笑顔なのだが、葵の前ではそんな顔を充は絶対にしない。葵にとってはそれが新鮮で見たくて堪らないらしい。
「ところでハナちゃん、色々聞かせてよぉ…。」
ノリちゃんが急に話題を変える。
「ちょっと…ここでは無理だって!」
「大丈夫、皆自分達の話に夢中だもん?」
「やっぱり…痛いの?」
「葵まで!?」
「いつ?どこで?」
「春樹くんも!?」
ニヤけ顏のノリちゃんと俺、そして妙に真剣な葵に囲まれ困っているハナちゃん。
きっと葵だってそのうち…という覚悟がないわけではないのだろう。苦手な筈の話にやけに食いついている。
「そりゃ、葵さんは気になっちゃうよな、そう言う話。」
「ほら、ハナちゃん、葵に色々教えてあげなきゃ?いつその時が訪れるかわからないもんねぇ?」
「べ…別にすぐにそういう事がしたいわけじゃないからね?…さ…参考までに…だよ?」
明らかに動揺する葵。
「まぁ、照れるなって。慈朗とか友晴の実技指導よりハナちゃんから話聞いた方が良いんだろ?」
葵はやたらと2人から直接指導をすると絡まれる事が多い。その度に、葵は軽くあしらってうまく逃げているが、充が2人を威嚇しまくってまぁ大変だ。
「友晴先輩だけじゃなくて慈朗先輩まで?そっちの方が勉強になって良いんじゃない?せっかくだから2人として比べてみたら?」
「まぁ、実践も大事だしな?」
「ハルもノリちゃんも酷いよ!そんなの絶対無理!嫌だもん。…それにみっくんが…大変な事になっちゃうよ?ハナちゃん、助けてよぉ…。私を助けると思って是非ご指導お願いします。」
「そうそう、葵の為に是非!」
「なんで春樹くんまで…。」
「ハナちゃん、これは春樹くんじゃなくて春子だよ、春子!今日は女子会!」
「こんにちは、春子です☆今は女の子!葵ちゃんに教えてあげて♪」
「ほら、葵のために!」
ノリちゃんと葵の口車に乗せられ、ハナちゃんは渋々重い口を開いて話し始めた。




