62. 中沢 充
「葵ちゃん、クリスマスプレゼント何が良い?俺的にはペアリングとか良いなぁって思ってんだけど…。」
「ペアリングは嫌…他のにしようよ?」
「え…なんで?良いじゃん、付き合ってるって感じでさぁ…。」
「だって、お料理する時邪魔だし…学校では付けてられないし…失くしたら嫌だもん…。」
「じゃあ、なんかお揃いにしよ?何が良いかな?」
「腕時計…学校でも出来るし…ね、みっくん?」
彼女になった葵との初めてのデート。まさかクリスマスプレゼントを買うのに年を越すとは思わなかった。
原因は俺の軽率な行動と、葵の気持ちを考えずにいたこと。
それでも、俺が好きだと言ってくれた葵。マジで幸せ過ぎる。苦節10年、遼太郎という最大のライバルだった存在がただの兄に戻った今、俺は絶好調。
美津子に「充に葵ちゃんは勿体無い」などと結構ボロクソに言われたが、颯太にも、春樹にも、慈朗にも受け入れられ、何より葵が俺を拒まないのが嬉しくて仕方ない。
相変わらず、ツンデレは健在。とは言え、それは、誰かがいる時の話。
2人きりの時はびっくりする位甘えてくるし、ものすごく素直。なんだか幼い頃に戻ったみたいだ。
しかも、『みっくん大好き』と言わんばかりの瞳で見つめられるのだからもうたまらない。顔の距離も近いし、キスだって2人きりの時はし放題。その代わり、絶対人前でするなとは念を押されまくっているが…。
「葵ちゃん、気に入ったのあった?」
「うーん、あったような無いような…。みっくんは?」
「これは?ペアっぽいし、可愛いじゃん?」
ショーケースを真剣に探す葵に声をかける。なかなか時計も難しい。学校でも使えて、服を選ばないもので予算を考えると選択肢は限られてくる。
「みっくん、これとこれにしよ?」
そう言って、葵が指差したのはメンズの腕時計2つだった。同じデザインで柄違いの文字盤。
「これだったらこっちにしたら?」
俺が女物を指差すが、葵は首を横に振る。
「こっちがいいの。こっちの方が可愛いし…時々交換できるでしょ?…ちょっと予算オーバーだけど。」
「いいよ、葵ちゃんが気に入ったのにしよ?時々交換ってのも魅力的だし。」
予算をオーバーしてると言っても、許容範囲内。
メンズで、葵には大きかったので、ベルトを調整してもらう。待っている間、適当にフラフラする。
フラフラしている俺の目に留まったのは、シンプルなネックレス。葵に似合いそうだ。
手持ちでも買える値段。葵がトイレへ行くと言うので、その間にこっそり買う。
葵はトイレが混んでいたと少し遅れて戻ってきた。なので、ラッピングしてもらって受け取ることができた。いつ渡そうか?ついにやけてしまう。
「みっくんどうしたの?時計もうできたかな?」
指定された時間少し過ぎていたので受け取りに行く。
俺が葵の腕に付けてあげると、満面の笑み。可愛い…可愛すぎる。
『幼馴染み』から『彼女』になるとこうも違って見えるのかと感動を覚えた。
「ねぇ、帰る前に一度家に寄ってもいい?福袋の中身見たいし…荷物軽くしたいし、それに取りにいきたいものもあるから…。」
「俺も行きたい。腹も減ったし、なんか買って家で食べよっか?」
「ケーキがいい。食べたかったんだけど、カフェがすごく混んでたから食べたいって言えなかったの。」
葵が食べたいというタルトを2つ買って俺たちが住んでいる葵の母所有のマンションに寄る。
福袋を開け、ああだこうだと言いながら仕分けをし、葵が淹れてくれた紅茶と一緒にタルトを食べた。
「これあげる。」
俺は葵に小さな包みを手渡す。
「なあに?」
「開けてみて。」
葵が包みを開け、ネックレスを見た途端、目を輝かせて俺を見る。
「私にくれるの?」
「貸して。着けてあげる。」
葵は泣いて喜んでくれた。
「泣くことないでしょ?ほら、笑った方が葵は可愛いよ?」
「だって…嬉しいんだもん。」
「でもそんな良いもんじゃないよ?遼太郎がくれたやつより間違いなく安物だし。」
言ってから後悔した。遼太郎の名前なんて出すんじゃなかった。
「やっぱりあれ着けてたら嫌?」
葵が笑いながら訊く。
「そりゃあ…嬉しくはない。」
「じゃあ処分する。」
「いいの?」
「だって、こっちの方がいいもん。それに、あれ偽物だし。使い勝手良いから使ってたけど、もっと可愛いのあるからもういらない。」
そう言って部屋に戻り、小さな青い袋に入ったネックレスを俺に渡す。
「みっくんが処分して。」
よく見ると、確かにブランドのロゴの綴りが1文字違っていた。
「これ、私もあげる。」
葵が持っていたのは青い小袋だけではなかった。そして俺に差し出したのは綺麗に包まれた箱。
「あげる…っていうか一緒に使おうと思って…みっくんのやつ、結局毎日私も付けてたし…。」
包みを開けると香水だった。
「柑橘系の香り…いつものとかぶっちゃうけど…。」
「葵ちゃん、ありがとう!」
マジで嬉しい。衝動的に葵を抱きしめる。
「みっくん、苦しい…。」
「ごめん。あまりの嬉しさについ…。」
そう言って腕の力を緩めると、葵はにっこり笑っていた。
「葵ちゃん…チュウしてもいい?」
「えぇ?どうしようかな?」
どうしようかな?と言いながら、葵の両手が俺の頬を抑える。
「やっぱりダメ。私がするから。」
そして、近づく葵の顔。
チュッ。
「葵ちゃん可愛すぎ…それ反則。」
「何それ?ちょっと、みっくん?」
「チュウするだけだから…。ね?」
「もう…。」
思わず葵をソファに押し倒して、キス。キス。キス。
唇を重ねれば重ねる程、葵の表情はとろけてうっとりとしてくる。調子に乗って、舌を入れてみる。葵の舌に絡ませてみると、控えめながらもそれに応えてくれる。つい、どんどん激しくなってしまう。
「ん…もう辞めて…そろそろ帰らなくちゃ…。」
「もうちょっとだけ…。」
今まで見た事も無いような葵の表情をまだ見ていたい。幼い頃から葵を知っているが、こんな葵は初めてだ。
頬をうっすらピンクに染め、濡れた唇、熱を帯びた吐息。ほんのり潤んだ瞳はうっとりと蕩け、俺を映している。
ガチャリ。
「あ、悪りぃ。」
「……慈朗…ちゃん…。」
なぜかリビングに慈朗が入ってきた。
慈朗の存在に気付き、耳まで真っ赤にして慌てて俺を押し退けて起き上がる葵。
「俺のことは気にせず続けて?」
何食わぬ顔でさらりと言ってのける慈朗。
「いつからここにいるんだよ?」
気づかなかった。いつやってきたんだろう?
「朝から。今まで昼寝してた。喉が渇いたから水でも飲もうと思って来てみたら…お取込み中で邪魔をしてしまった次第。」
にやけながら慈朗が言う。
「みっくん、もう帰ろうよ…。」
「葵、帰る前に髪だけ直してもらえよ?それとも、葵だけ残る?充と最後までやる前に俺が色々教えてあげようか?」
朝セットした葵の髪は崩れていた。そして、悪戯っぽく笑う慈朗。
「慈朗…テメェ…。」
「慈朗ちゃんのイジワル…。」
葵は真っ赤な顔で呟いた。
お話の中では新年を迎えてしまいました…。
現実世界との時差…仕方ないですが変な感じです。




