59. 早瀬 葵
「ずっと不安だった…。自分の気持ちも。みっくんが私の事本当に好きなのかも自信がなかった。」
上手く伝える自信なんてない。
でも言わなければわからないから言葉にする。
「でも、私はすごくみっくんが好きだって、大好きだってわかったから。なのに…。さみしかった。苦しかった。プレゼントなんか要らない、ただ一緒に居たかった。早く帰って来て欲しかった。」
支離滅裂なのはわかっている。上手くまとめられない。口をついて出てくるそのままの言葉。
「さっきの…みっくんに見られたくなかった。みっくんが大好きだから。私はみっくんが他の女の子と一緒にいたら嫌。なのに…。」
それまでずっと黙って、私の目を見て聞いていてくれたみっくんが、私を引き寄せ、抱きしめてくれた。
「ごめん。俺も葵が他の男に抱きしめられてるとか無理。さっきも遼太郎がすげぇムカついた。」
ちょっと苦しいけれど、強くギュってされるのは嫌じゃなかった。すごく嬉しかった。
「葵、俺の彼女になって。俺とちゃんと付き合って。大好きだから。」
みっくんは私の目を真っ直ぐに見てそう言ってくれた。
今まで何遍も彼は大好きだって言ってくれたけれど、こんなに言われて嬉しいのは初めてだ。いつもの大好きとは全然違う。
私もみっくんの目を真っ直ぐ見つめる。そしてにっこり笑って頷く。
「私も大好きだから。みっくんの彼女になりたい。」
みっくんは嬉しそうな顔で笑って、私の涙を優しく拭いてくれた。
それから、優しく触れるようなキスをしてくれた。そしてまたギュって抱きしめてくれた。
「葵ちゃん、いっぱいチュウしてもいい?」
「…いいよ。」
何度も何度も、唇を重ねてゆく。回数を重ねるごとに、触れるだけだったキスがそうではなくなってゆく。
「充、帰ってきたの?」
みっくんの部屋のドアが開いた時、かろうじて唇が触れていなかったものの、みっくんの両手は私の顔を固定していて、私の両腕はみっくんの背中に回っていた。
「えっと…どういう事かしら?」
私とみっくんだけでなく、美津子さんも驚いてフリーズしている。
しばらくの間沈黙が流れる。
「はぁ…複雑だわ…。」
リビングに3人で移動して、美津子さんの質問に私とみっくんが一通り答えるとため息混じりに美津子さんが呟いた。
「心の準備ってものがね…。」
「何?俺と葵が付き合うのに反対なわけ?」
みっくんが不機嫌そうに訊く。
「賛成か反対なら勿論賛成よ。でもああいうのは見たくは無いわね…。」
美津子さんは私がずっと遼ちゃんに憧れていて、何だかんだ、彼にからかわれつつも結局相手にされていない事を知っていた。
そして、みっくんがずっと私に好きだ好きだと言っている事も勿論知っている。
そして、先ほど仲直りして、お互い素直になって、気持ちを話しあった結果、正式にお付き合いをすることになった事を報告した。
「ケンカもまさか痴話喧嘩だとは思わなかったわ…。まさか本当に付き合うことになるとはねぇ…。」
美津子さん曰く、ママと2人で、私とみっくんがそうなったら面白いのにね、という話を昔から良くしていたそうだ。
「じゃあなんで溜息吐きながら複雑だとか言う訳?」
みっくんは不貞腐れた顔をしている。
「充の母としては素直に嬉しいわよ。でもね、葵ちゃんの母としてはもっといい人がいるんじゃないかって思っちゃうのよね…。充ってお馬鹿だし…。」
はっきり言ってスッキリしたのか、豪快に笑うと、急に真面目な顔になり、私とみっくんを諭すように話し始めた。
「いい、父親たちにはしばらく言っちゃダメよ。絶対。もしバレたら、充は葵ちゃんとこに住めなくなるわよ?そうなると私も困るのよ…。って母親がこんな事言うのもおかしいけどね…。優子さんと私は、あなた達が恋愛関係になったとしても別に同居することになんら問題ないと思っているの。颯太と慈朗がいれば安心だからね。」
美津子さんが言わんとしている事は理解出来た。うちのパパだ。
「樹さんが大騒ぎするわ…。葵ちゃん大好きだからね…面倒でしょ?それにね、父親達は慈朗派なのよ。」
「は?」
みっくんが眉間に皺を寄せている。
「母親達は、葵ちゃんと充がくっ付けば良いなって話を昔からしていたのね。それに対して、父親たちには、葵ちゃんと慈朗が良いって言ってたのよ。皮肉にも、当時葵ちゃん本人が憧れていた遼太郎は親的には不人気だったのよ。それは置いといて、あの人達の事だから、自分の予想が外れて母親達の予想が当たったとわかったら色々面倒よ?」
私の知らないところでそんな話がされていたとは驚いた。みっくんは少し不機嫌そう。
「でも大丈夫よ。今まで通りで良いのよ。充はそのままで大丈夫。葵ちゃんは今まで通り、基本は面倒くさそうに接しつつも仲良くしていたら大丈夫。あの人たち、結構鈍いから。要するに、あの人達の前でさっきみたいな事をしなきゃいいだけよ?」
思い出しただけで恥ずかしい。ふと横を見ると、真っ赤な顔のみっくんがいた。




