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4. 高梨 颯太

「颯ちゃん、今度の土日どっちか空いてない?」

「どっちも都合着くけど?」

「買い物付き合ってもらえないかな?お願いだからハルとミツには内緒ね?」


 可愛い妹の久しぶりの可愛いお願い。

 今日の夕食は炊きたてご飯と具沢山の豚汁、メカジキの照り焼きとお浸し。久しぶりに食べる和食。美味い。

「いっぱいあるから、颯ちゃんも慈朗ちゃんもお代わりしてね。」

 鍋にはまだたくさんの豚汁が残っている。照り焼きは盛り付けられた量がいつもの倍。

「仕方ないよね、春樹と充は自業自得。あいつらの分も美味しくいただこうぜ、颯太。」

 慈朗と2人で、春樹と充の分も美味しく頂く。葵の作る飯は美味い。離婚後、仕事が忙しい母親に変わって丸4年家事をこなしてきたのだ。いや、その前から慈朗の母や伯母や祖母に仕込まれていた。




『葵ったらね、「私は家政婦じゃ無い」なんて言うのよ?一人暮らしも反対したんだけどね、誰も住んでいないのに管理費払ってるんだから葵が住んだ方が合理的だって。勉強と家事の両立は大変じゃ無いかって言ったら、もうすでに、3人分の食事作って掃除洗濯をしているのは葵だからむしろ今より楽になるですって。母親失格よね。そんなことにさえ気付いていなかっただなんて…。虐められて辛い思いしているのを知ったのも合格通知が来てからだし…受験の手続きも全部1人でやってしまうんだもの。颯太、葵を宜しくね。あの子、辛くても何も言わないから…。』





 日曜日、葵と買い物に行くことになった。青藍の生徒に見られてはいけないので、少し離れた百貨店に行くことになった。

 幼馴染の遼太郎(慈朗と充の兄だ)に頼んで、車で送ってもらえることを伝えると、ほんのり頬をピンクに染めている。ああ、やっぱりまだ遼太郎が好きなんだな。小さい頃葵は、遼太郎のお嫁さんになるとずっと言っていた。それに対して、慈朗と充が葵に求婚していた。充は今でも葵に暇さえあれば好きだ好きだと言っている…葵は冗談とかただチャラいだけとしか思っていないが、彼は大真面目。年齢イコール彼女いない歴の童貞なのだから…。彼の名誉の為に葵には内緒にしておく。


 当日、約束の時間にマンションまで迎えに行くと、葵はそわそわしながら待っていた。

「颯ちゃん!」

 満面の笑みで駆け寄る葵。

 気合入ってるなぁ…。学校とは全くの別人だ。前髪は斜めに流してはっきり見えた顔はメイクしているし、長い髪は緩く巻いている。デコルテの開いたワンピースにヒールのサンダル。明らかに年上の遼太郎を意識している。背伸びしているのが可愛い。もちろん、髪型もメイクも格好も可愛い。俺も春樹もシスコンだと言う自覚はある。慈朗もそれに近い。遼太郎もまぁ同じだろう。だが充は違うんだよな…。遼太郎のためにこんな姿をしていると知ったら色々大変そうだ…。


「遼ちゃん、久しぶり。今日はありがとう。」

「葵、大きくなったね…なんて言ったら失礼だね。すっかり大人っぽくなって…綺麗になったね。」

 またこいつは期待させる様なことを言う。中沢兄弟の中で1番チャラそうに見えるのは充だが、実際1番チャラいのはコイツだ。

 葵はと言えば、顔を真っ赤にして喜んでいた。


 途中で友人を乗せるからと言っていた。乗ってきたのは年上らしいキレイな女性だった。

「エリカ、こっちが幼馴染兄妹。颯太と葵、2人とも高校生。」

「こんにちは。可愛い〜!肌ピッチピチ!若いって良いわね。」

「だろ?俺の妹みたいなもん。ちっちゃい頃は俺のお嫁さんになるって言い張ってすげぇ可愛かったよ。」

 葵は一生懸命笑っていた。


 百貨店につき、礼を言って車を降りる。

 目的だった父の日のプレゼントを一緒に選んでやって、2人分買う。実の父と再婚相手の早瀬さんへのプレゼントだ。

 それから、葵の服を一緒に選ぶ。父が葵と出かけるなら何か買ってやれと言って商品券をくれたのだ。


「今日の格好は変だよね?似合わないよね…。こんな無理してさ、バカみたいだよね。」

 足が痛いと言うので、買い物が一通り済んだ所でベンチに座って休んでいたら葵がポロポロ涙を流していた。

「そんなこと無いよ。今日の葵は可愛いから…。」

 気が済むまで泣けば良い。葵のこと、ちゃんと思っている奴がすぐそばにいるんだから…。嗚咽をあげて泣く葵をぎゅっと抱きしめる。すると安心したのか徐々に落ち着いてきた。

「颯ちゃん、ありがとう。ずっと知ってたんだ。私は子どもで、遼ちゃんにとっては妹みたいなもんだって。でも、はっきり言われちゃうと辛かった…。遼ちゃんのタイプは年上って言うのも知ってたのにね。」

「葵、美味しいものでも食べて帰ろうか?なに食べたい?」

「フルーツパーラー行きたい。パフェと、フレッシュジュースとサンドイッチ。」

「ショートケーキは良いの?」

「食べる…。」


 お腹がいっぱいになったら葵は元気になった。それから、足が痛くならない靴を買って履き替えて帰ると、葵の部屋には拗ねて膨れる超面倒臭い充と春樹がいた。

「なんで俺たち誘ってくれないの?」

「こないだのこと反省してないもん…。」

「もうしません…。」

「じゃあ許す…。」

「葵ちゃん、大好き!チュウしても良い?」

「ミツ、そんなことしたら許さないからね!?」


 葵はすっかりいつも通りの葵に戻っていた。

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