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56. 早瀬 葵

「あら?葵ちゃん!?帰ってきてたの?久しぶりねぇ…髪の毛切っちゃったの?」

「こんにちは。大掃除ですか?美津子さん、お手伝いしても良い?」

「助かるわ!悪いけどお願いしてもいい?」


 パパの家に帰って4日目。

 熱を出して寝込み、久しぶりの再会を果たした友人とカラオケに行き、ハナちゃんノリちゃんが遊びに来て過ごした3日間。今日は何しようかと庭に出たところ、お隣の庭で網戸を洗う美津子さんに声をかけられた。

 美津子さんは私の育ての母。昔はお母さんと呼んでいたが、いつの頃からか呼び方が変わった。理由は覚えていない。


「慈朗と充は元気?いつもありがとうね。充、葵ちゃんのお陰で成績上がったらしいじゃない?本当に助かるわ…。悪いけど、窓磨いてもらってもいい?やり方覚えてるかしら?」

「はい。美津子さんに教えてもらった方法でうちのも掃除したから…。」

「じゃあ、1階の外側、全部お願いしても良いかしら?終わったら声かけてね。音楽でも聞きながら楽しくやってね。」


 私が美津子さんに気付いてイヤホンを外したのに気付いていたのだろう。ありがたくそうさせてもらう。


 昨日、ハナちゃんとノリちゃんが帰ってから、ずっとみっくんの事ばかり考えてしまっている。会いたい様な会いたくない様な、声が聞きたい様な聞きたくない様な複雑な気持ち。


 私は自分で自覚していた以上に彼のことが好きみたいだ。


 今日を含めて3日で今年が終わる。

 みっくんは私との約束を考えてくれているのだろうか。きっとノリちゃん、ハル、友晴先輩に色々言われて約束を覚えてはいるだろう。

 早瀬の父には、ヒントを与えるように言われた。しかし私はその機会を逃してしまい、代わりにノリちゃんがヒントを出してくれた様だけど、彼女の怒りっぷりからは良い返事を期待出来ない気もする。


 もし、みっくんが答えを出さなかったら私はどうするつもりだったのだろう?


 そもそも、答えてくれる前提で言ったお願いだった。答えてくれなかった場合の事など考えていない。今となっては何て我がままをいってしまったのだろうって後悔している。そもそも、言われた時になんで自分の気持ちをちゃんと伝えることをしなかったんだろう…。

 これ以上、期限を伸ばしたらおそらく考えてもらう事すら出来ないだろう。かと言って、私が言うのも癪だし、ノリちゃんが言う様に見限る事も私には出来ない気がする。結局、意地っ張りな私が悪い。みっくんに変わって欲しいと思う前に、私が変わらなくちゃいけないんだって思うけど…思うんだけど…。


 だからこそ、彼女が友晴先輩を勧めるのかもしれない。

 あの人はちょっと苦手だけど、基本的に悪い人じゃない。

 ズルズル付き合っていたらきっとみっくんの事を忘れさせてくれるのだろう。女の子の扱いはすごく上手いみたいだし。

 だからと言って、とてもそうする気にはなれない…。


 そんな事する位なら、ちゃんと私を見てくれなくても良いから、みっくんの側に居たい。

 例え、三上さんという存在に怯えることになったとしても…。


 参考までにと思い、こっそり早坂くんに三上さんについて聞いた。心配かけたくはないので、ハナちゃんには内緒。


 聞いたことを後悔した。


 三上さんは、みっくん仲が良かったこと。

 三上さんはずっとみっくんが好きだったこと。

 明らかに他の部員に対する態度とみっくんへ対する態度が違ったこと。

 彼女気取りが気に食わないと、例の先輩達からやっかみを受けていたこと。


 三上さんの家は地鶏料理の店だということ。


 おそらく、今回のバイト先は三上さんの家だったのだろう。1度、ローストチキンをバイト先でもらったと持ち帰ってきた。私が朝ごはんのサラダとお昼ご飯のサンドイッチにリメイクした。


 そして、早坂くんは、球技大会で私が負傷したのは事故では無いと言う。

 あれは故意にぶつけたんだと…。

 味方に声かけをしなかったし、あの距離であの投げ方は不自然だった。


 それが実際あの場所で客観的に見ていた早坂くんの見解。




 私は、ヘッドホンのボリュームを上げる。

『葵に聞かせたい曲』

 今流れてくるのはこのプレイリストの3曲目。みっくんが遼ちゃんの影響で聴き始め、みっくんが凄くいいから!って私に勧めてくれて私も聞くようになったロックバンドの、カップリング集アルバムの中の1曲。

 何となくは聞いたことがあったが、じっくり聴くことは無かった曲。

 軽快で、明るいメロディで、重すぎず、軽すぎない歌詞。

 今の私に、元気をくれる。

 みっくんもこう思ってくれているのだろうか?今もそうならどんなに良いだろう。


 このプレイリストの曲は、今の私にしっくりくる曲ばかりだった。


 それに対して、今の私にとって、『葵が好きな曲』の曲はどれも聞いていて辛かった。

 叶わぬ恋の歌。失恋の歌。別れた恋人へ向けたであろう歌。不誠実な男の歌。

 歌詞をじっくり聴けばそんな内容の曲ばかり。


『葵のオススメ』これはアップテンポでガムシャラに頑張れそうな曲ばかり。




 入っている曲の雰囲気などやみっくんの性格から考えると、このiPodは1年半から2年前に同期してそのままみたいだ。


『葵に聞かせたい曲』

 これは、当時のみっくんが私を思って聞いていた曲。そして、今、私がみっくんを思って聴いている曲。


『葵の好きな曲』

 これは、おそらく当時の私が遼ちゃんを無意識に思って好んで聞いていた曲だ。


『葵のオススメ』

 これは、おそらく私が「みっくんっぽい」って言ってた曲だ。




 私は、『葵に聞かせたい曲』を聴きながら、黙々と掃除をしていく。

 あっという間に時間が過ぎてゆく。

 屋外の窓が綺麗になったので、美津子さんに声をかけると、屋内からの掃除を頼まれる。




 室内に移動し、1階の窓が全て綺麗になると、休憩しようと誘われた。

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