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49.高梨 春樹

「せっかくの貴重なお休みに呼び出されたんですよ?辛くて仕方ないのに、がんばってここまで来たので…なんか美味しいものでも奢ってください。」


 昨日の颯太と充の修羅場の件を報告する為、ノリちゃんを呼び出した。しかし、待ち合わせ場所には予定外の人物までいた。


「春樹ー!俺にも奢って!」

「なんでこいつもいるわけ?」

「さっき偶然会って、あまりにしつこく絡まれたもので…今から春樹くんと葵に関する情報交換をするとついうっかり言ってしまい…今に至ります。」

「実は俺が1番情報持ってるって知ってた?」

 友晴がドヤ顔で言う。

「あぁ、昨日颯太がそんな事言ってた…。」

「マジっすか?じゃあ是非ご一緒しましょう。」

「何?ノリちゃん俺のこと信じて無かったの?」

「いえ、面倒な人に捕まったものだと思っていただけです。」

「葵ちゃんの友達だけあって面白いね!普通、青藍の女子だったら、俺と春樹と3人でデートって言ったら鼻血出して倒れちゃうよ?」

「へぇー。すごいですね。」


 見事な棒読み。友晴にこんな態度取れるってある意味すごい。


「春樹、個室のあるとこがいい。結構やばい話だからさ!」

「友晴先輩、個室ならば焼肉とかどうでしょう?」

「ノリちゃん、ナイス!春樹、焼肉奢って!」

「無理。今日は割り勘で!どうしても奢れと言うなら後から充に請求してくれ。」


 今回の原因は充なので充に押し付けることにする。


「もういっそ、みっくんも呼び出せ!」

「あ、それ良いかも。春樹くん、電話電話。」

「確かに…それが1番手っ取り早いかもな…そういや昨日充って友晴に電話した?」


 ここで俺らが情報を共有するよりも、あいつが事実を知る方が建設的だ。


「無いよ?颯太からはあったけど。」

「マジか…もう呼び出すしかねぇな。」


 そんなわけで充に電話をかける。


『何?』

「今から焼肉。金持って来い!」

『やだ…。』

「来ないと、友晴が葵を慰めに行くって。お前、友晴の『慰める』って意味分かってるよな?」

『………。』

「葵、喰われるぞ?」

『…行く。どこ?』


 30分後、現れた充は頬がまだ腫れていた。

「みっくん、ゴチ!」

「ご馳走様です!」

「何この組み合わせ…。友晴と春樹とノリちゃん?」

「焼肉同好会ですが何か?」

「そうそう、肉好きの集まり。」

「とりあえず、タン塩4人前で良いですか?カルビも?ライスは大盛りですよね?」

「キムチも!」

 友晴とノリちゃんの組み合わせは意外にもナイスコンビと言う感じだった。


「みっくん、昨日なんで俺に電話くれなかったわけ?俺、さみしかったんだけど?」

「私、今日呼ばれた理由がイマイチわからないんですけど…なんで充先輩頬腫らしてるんですか?クリスマスはデートじゃなかったんですか?」

「充が言わないなら俺が言うぞ?」


 不貞腐れたままの充がやっと口を開いた。


「颯太に殴られた。」

 皆から目を逸らしてボソリと呟く充。

「理由分かってるか?」

「俺が葵をほったらかしにしてバイトしてたから?」

「それも多少ある。」

「クリスマスデートする約束破ったから?」

「それも多少あるけど、それ以前に、バイトしてたとこが良くなかったよね?」

「三上の家?賄い食って葵が3日かけて俺の為に作ったシチューを食べなかったから?」

「うわぁ…よりによってあの人か…。」

「三上?なんで?」


 充は三上がずっと好意を寄せていたことに気付いていないらしい。鈍い。鈍すぎる。


「マジで気づいてないとか…葵が可哀想すぎる。」

「しかも、昨日バイト終わって一緒に買い物してたらしいじゃん?葵ちゃんが見ちゃって大変だったらしいよ?無理やりタクシーに押し込んで連れて帰ったって颯太言ってたし。」

「え…?それ聞いてない…。だから葵ちゃん…あんなこと…。」


 葵はあの人と選んだものなど見たくもない。そう充にはっきり言ったのだ。


「充がバイトしてる間、葵が何してたか知らねぇだろ?今日から心置き無く遊べる様に、年末の大掃除して、遊んでる間、慈朗が食う飯作って冷凍してって…朝から晩まで立ちっぱなしで家事してたんだぞ?」

「うわぁ…葵ちゃん良くできた嫁!俺が結婚したい。」


 友晴が珍しく真面目な口調で言う。


「慈朗にもそれ言われた…。」

「だいたい、私たちが遊びに行った日、送ってもらった帰りに葵に言った事覚えてます?葵が付き合ってくれないのって、それが原因ですよ?それについても考えていなかったんじゃないですか?」


 ノリちゃんが例の件について大ヒントを出す。


「葵ちゃんとの約束の話?俺が傷付けて…なんで傷付いたか考えるってやつ?…忘れてた…。」

「忘れてたとか最低ですよ。だいたいその時言った事のせいで葵が充先輩の気持ちに自信が持てないのに…その上あの人のせいで更に色々不安になって…なのにあの人と買い物とか…。葵へのプレゼント選ぶのに何であの人なんですか?あの人と選んだプレゼントなら何も無い方がマシですよ!」

「三上?そんなにダメ?良い奴だよ?」


 充は分かっていない。見ているだけでイライラする。


「私、あの人許せない。」

 ノリちゃんの目がマジだ。

「ノリちゃん、きっと俺、もっと酷い話知ってるよ?」

「俺も慈朗も知らない話って何?」

 颯太が昨日言っていた意味はそう言うことだったのだ。

「何?意味がわからないんだけど?」





「まず、みっくんは葵ちゃんとの約束の話を考えようか?早坂達が来た日、葵ちゃんに何言った?」

「覚えて無い…。」

「うわぁ…最低。」


 本当に救いようがない。


「じゃあそれは自分で年内に思い出すこと。思い出せないなら、俺が葵ちゃん慰めるから。」

「私としては友晴先輩よりも慈朗先輩のお嫁さんを葵にオススメしたいです。」

「俺も慈朗派。」

「えー?なんで?俺、めっちゃ幸せにするよ?みっくんみたいに鈍く無いし、浮気しないし。」

 友晴の浮気しないはイマイチ信憑性にかけるが、相手が葵ならまぁわからなくも無い気もしないでもない。

 充のテンションは下がるばかり。




「その上で、なぜ三上 あおいが問題なのか、と言うこと。まず、みっくんが葵ちゃんに言った事で、葵ちゃんは『みっくんは本当に自分の事が好きなのか』と言うことがわからなくなりました。みっくんが純粋に葵ちゃんが好きなのではなくて、ある人への対抗心のせいで、葵ちゃんに執着しているんじゃ無いか、そう思っちゃったわけね。葵ちゃん不安だよ?そんな時、三上が現れました。そして、葵ちゃんにあることをしました。さて、なんでしょう?。」


 友晴が更にヒントを出すも充は気付かず。ここまでポンコツだとは思わなかった。


「葵にボールぶつけて怪我させた。」


 ノリちゃんの冷ややかな声。


「は?あれ事故でしょ?手元が狂ったって俺にまで三上謝ったよ?」

 充はちっとも疑っていない様だ。

「残念ながら故意。しかも、優勝したくてって事よりも個人的な感情が理由。ちなみに、お人好しの葵ちゃんも事故だと思ってる。流石に昨日の件で、気づいたかもしれないけどね。」


 友晴は本人に確かめている。それで開き直るとか本当にタチが悪い。そんな奴だとは思ってもいなかった。


「そして、これは春樹達も知らない話。打ち上げで行ったカラオケで、葵ちゃんは三上に酷いことを言われて泣いていました。」

「急に用事思い出して帰るって…そういう事だったんだ…。」

 ノリちゃんが悲痛の表情で呟く。

「葵ちゃんは泣いて耐えてたよ。三上の相手して言い返したところで無意味だって分かってたんだね。それに対し三上は俺が2人のやり取りを目撃してたのに気づいて、俺にさっさと葵ちゃんを口説いて喰ってしまえと言いましたとさ。 」


 最低だ。


「友晴先輩、葵…何言われてたんですか?」

 ノリちゃんが恐る恐る聞く。

「みっくんを弄ぶな、だってさ。ついでに、葵ちゃんはみっくんの事好きじゃないくせに、みっくんの彼女だとチヤホヤされて気分良いから切れないんでしょ?颯太の妹ってだけでみんなチヤホヤしてくれるから大丈夫だ、だからさっさと別れろ的なこと言ってたよ。ついでに、葵ちゃんよりも三上の方がみっくんの事好きなんだってさー。

 三上からしたら葵ちゃんは『みっくんの事を中途半端な気持ちで弄ぶムカつく女』らしいよ?」

「それ聞いてどう思います?充先輩。」

 黙り込む充。


「どう考えても葵ちゃんはみっくん大好きで仕方ない!って感じなのにね?三上って、愛情の裏返しとかツンデレって言葉の意味知らないみたい。みっくんがバイトしてる間の葵ちゃんの健気な姿を思うと、そりゃ殴りたくなるよね?死ねとか言いたくなるよね?颯太みたいにさぁ。」


 友晴の話は俺たちの想像を絶するもので、それを踏まえた上で葵の気持ちを考えたら、充を殴っただけでは到底気が済むとは思えなかった。


「充…俺もお前殴りたい…。」

「いっぺん死んでください。」

「颯太はさ、簡単には葵ちゃんに謝らせてくれないと思うよ?俺、あいつがあんなに怒ったところ初めて見たし。」

 きっと充を葵と会わせないだろう。


「俺…どうすれば良いんだ…。」

 項垂れる充。

「とりあえず、三上には会わない事。葵ちゃんにしたこと本当か確かめたいかもしれないけど、どんな理由であれ、三上に会うことは葵ちゃんにとって辛いと思うよ?」

 きっとこれ以上会ったら、充に対する信頼なんて無くなってしまうだろう。


「充先輩、葵に何て言ったか思い出すのが1番先じゃないですか?ここまでヒントあげたのにわからないとかあり得ません。」


 全くその通り。こいつは今まで何をしていたんだろう?まず、それについて考えるべきだったのに。


「あのプレゼント、さっさと返品して来いよ。あんなの見たくないって葵が言ってるんだからな。」

 あんなものあったら葵が思い出してしまうだろう。




 充は、自分のしてしまったことの重大さにようやく気付いた様だった。

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