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41. 三上 あおい

『三上さんって…あおいって言うんだ?バスケ好きなの?』

『うん。見るのもするのも好き。父の持ってた漫画がきっかけで興味持って…。本当は私も練習に参加したいんだけどね…。』

『じゃあ、一緒にしたら良いじゃん?顧問に頼めば?俺、聞いてみようか?』

『いいよ…。中等部に女子バスケ無いの知っててここ選んだの私だし…。』

『でもやりたいならやれば良いじゃん?あ、センセー!』


 彼に対する第一印象はあまり良くなかった。中等部へ入学してすぐなのにすでに茶髪だったし、部活だって真面目に練習をしているイメージは無い。1つ歳上の兄の慈朗先輩の弟だとはとても思えなかった。

 私はバスケが好きで、練習したいのに、マネージャーだから練習には参加出来ない。だから練習出来る彼が真面目に練習しないことが許せなかった。


 彼は先生に掛け合ってくれ、そのお陰で私も時々練習に参加させてもらえる様になった。マネージャーの仕事がメインで、その合間にほんの少しだけ。

 それでもすごく嬉しかった。


 1年の頃は、身長も私と殆ど変わらなかったし、線も細くて、整った顔立ち、髪も男子にしては長めだっったから女の子みたいだったのに、気がつけばいつの間にか私よりも10cm近く背が高くなって、筋肉だってついて、声も低くなっていた。

 部活での練習は相変わらず真面目にはしていなかったけれど、バスケはとても上手だった。

 悔しいけれど、そんな彼にいつの間にか強く惹かれていた。

 気付けば彼を目で追ってしまっていた。実は影で努力をしていた事を知り、ますます彼が好きになっていった。


 彼本人だけでなく、彼の兄や、同じバスケ部に所属する彼の幼馴染の兄弟も、顔が良い上にバスケが上手いし、いつも4人でつるんでいたから目立っていた。

 彼らは学校中の女子生徒の憧れの的で、ファンクラブができる程。その中でも、特に愛想の良い彼は1番モテた。私が彼の彼女になれるとは思ってはいなかったけれど、2年ではクラスが一緒だったし、バスケ部員とマネージャーという関係ではあるが、仲は良かったので、彼のファンの子達に僻まれたりもした。私はそれにさえ優越感を感じていた。


『三上ー!今日練習遅れる!監督は適当にごまかしといて!よろしく!!』

『充、またなの?勘弁してよ!』

 彼の本人に向かって呼び捨てにしている女子は私位だった。彼は私の事を苗字で呼び捨てにしていた。




『あーあ。青藍の中等部に女子バスケ部あったら良かったのに…。そしたらアオイだってさ…。』

『充、それ何回言えば気が済むわけ?もう聞き飽きたし。』

 ある時、彼が幼馴染と話しているのを偶然聞いてしまった私は、自分の耳を疑った。

「あおい」…?

 女子バスケ部…?

 私の事を話している。そう思って疑わなかった。

 その後も、度々彼の口から、「あおい」という名は聞かれた。私本人を目の前にしては、決して「あおい」とは呼ばなかったけれど、私の話をしていると思い込んでいた。

 その度に、嬉しくて堪らなくて、密かに喜んでいた。

 それが自信につながり、積極的になれた。漫画の貸し借りとか、買い物(バスケ関係の…だけど)とか、試合を見に行ったり、彼女では無いけれど、そうなるのも時間の問題、そう信じていた。


 1年以上も信じていたのに…。


 3年の冬、現実に打ちのめされた。

『俺、ずっと好きな子がいるんだよね。颯太の妹。葵っていうんだけどさ、葵もバスケ好きで…』

 よく考えたら、買い物も、試合を見に行くのも、2人きりと言うことは絶対無かった。誰かしら一緒だった事にやっと気付いた。

 私は、彼にとって特別でもなんでも無かった。

 なのに、告白してもらえるんじゃないかと期待して、学校でたまたま2人きりになった時、私は彼に好きな子はいるのかと聞いてしまった。

 丁度、彼の兄や幼馴染兄弟に続々と彼女が出来た時だったから、彼も彼女が欲しいんじゃないか、私の事が好きだったら、話の流れでそうなるんじゃないかと思った私が馬鹿だった。


 彼は、私じゃない『あおい』にベタ惚れだった。彼からその名を聞く度、辛かった。苦しかった。

 苦しかったけれど、笑顔で話を聞いて、今までの関係が壊れない様に必死で繕った。


 高等部に入ると、彼はバスケ部に入らなかった。クラスも違ったし、私は彼と一気に疎遠になった。

 それでも、私は彼が好きだった。

 彼には好きな子がいると知っていても、諦められなかった。




 そして、彼女は現れた。

 紆余曲折あったらしいけれど、今では周りに持て囃され、ちゃっかり彼の隣に居座っている。

 確かに、ミス青藍になってしまうだけあって、容姿には恵まれている。

 相変わらず、彼は彼女にベタ惚れで、彼自身もミスター青藍に選ばれたので、すっかり2人は校内では誰もが知るカップルとなってしまっていた。

 それなのに、彼女は彼に対して「彼氏ヅラするな」だとか、冷たくあたっているらしい。

 あり得ない。




 彼女は今、目の前にいる。

 彼の隣に居座っているだけでなく、彼女は毎日必死で練習する私を嘲笑うかの様に、コートの中を華麗に走り回り、シュートをどんどん決めてゆく。

 なぜ、努力せずに、そんな事が出来るのだろうか?

 なぜ、そんな彼女にみんなチヤホヤするのだろうか?

 神様は不公平だ。


「葵、行けー!!」

「葵ちゃん、ナイッシュー!!」

「ちょっと…敵じゃなくて自分のクラスの応援したら?いくら妹が可愛いからって、それはないでしょ?」

 彼女の兄颯太と何故か友晴までが彼女の応援をしている。胸糞悪い。


 彼がいないのが幸いだった。彼も今、試合をしている。ここではない、もう1つの体育館で。


 苛立っているせいか、私はシュートが決まらない。外したボールを彼女が拾って、あっという間に得点を決めてしまう。

 気付けば、もう、20点も得点差が出てしまっている。


 私の前を、彼女が走っていく。そして、その向こうには私の味方の選手。

 私は、味方にパスを出す様に見せかけて、思い切りボールを投げる。

 彼女は前を向いている。


「葵!大丈夫!?」

「早瀬ー!!」

「葵ちゃん!!」

「痛っ…。後頭部でボール受けるとか恥ずかしいわ…。」

 彼女は笑っていた。私が投げたボールは見事、彼女に当たった。そして、バランスを崩した彼女は転倒した。その際、足を捻ったようだ。


「ごめんなさい。手元が狂ったみたい。」

「いえ、私も周りを見ていなかったので…。」

 ボールをぶつけた私に対してさえ微笑みかける彼女に嫌悪感を覚えた。


 彼女は、クラスメイトと兄に付き添われて保健室へ行った。

 兄が私に対して、冷たい視線を向けたが気にしない。


 足を捻った彼女に代わり、控えの選手が入り、試合は続けられた。

 彼女がいなくなってからは、私の調子は上がり、20点差を埋めるのは容易かった。

 そして、10点以上の差をつけて、私のクラスが勝利し、準決勝へと駒を進めた。




「三上、さっきのワザとだよね?パス出す時、声かけて無かったし…あの状況でお前の手元狂うっておかしいだろ?そこまでして勝ちたかった?それとも、個人的な感情?」

 試合後、1人になった時を狙っていたのか、そうなった途端に友晴に声をかけられる。


「だったら何?」


 開き直るなんて自分でも驚いた。勘のいい友晴には口先で何と言っても無駄だと本能が判断したのかもしれない。


「だったら何かって?別に?サイテーだなって思っただけだけど?」

 友晴はそう言い、冷ややかに笑うと、去っていった。

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