39. 中沢 充
「葵ちゃん…一緒に帰ろう…。」
「…み…みっくん、大丈夫?」
「…え?いつも通りだけど…?」
「そ…それなら良いけど…帰ろっか。」
いつも通り葵を迎えに1-Cの教室へ行く。珍しく葵から手を繋いでくれた。嬉しいけど、素直に喜べない。
今日、2学期の期末テストの成績の順位が貼り出された。いつもならそんなものに興味はない。でも、今回はこの日を心待ちにしていた。
中学受験以来、必死で試験勉強なんてものした覚えがない。今回は数年振りに必死で勉強した。今までは寝ているか、漫画読んでいるか、サボっていた授業も真面目に受け、家に帰ってからは寝る間も惜しんで、慈朗や颯太に教えてもらいながら勉強した。葵に必死な姿を見られたくなくて、葵が寝てからしていたので文字通り、「寝る間を惜しんで」だった。
実際、テストではあり得ない程に手応えを感じていたし、返ってくる答案の点数もかなり良かった。
今朝まで、これは間違いなくいける!そう思っていた。
全ては葵と交わした約束の為。
「テストの合計が学年で10位以内に入ったら、おやすみのチュウをしても良い」、なんていう俺にとっては夢のような約束。
その為に一心不乱に頑張ったと言うのに…結果は11位。
しかも、俺の1つ前、10位は颯太で、得点差は1点とか…。マジで辛すぎる…。
周りに言わせたら、俺の成績が急に上がった事自体が奇跡だとかで、俺のこの苦しみを分かってくれる奴は居そうに無い…。
今までは、補習を免れたらそれでOKだったので、その為の勉強…と言うよりも確認を、テスト直前にちょこっとするだけでよかっただけ。実際それしかやっていなかった。
俺が本気だしたらこんなもん。今まで本気出して無かっただけ。このご時世のスタンダード、省エネとかECOってやつ?
「みっくん、見たよ?11位…すごいよね?私、みっくんの担任のせんせに聞いたよ?すごく頑張ってたって。クリスマスどこに行こうか?みっくんどこに行きたい?」
気付いたら家についていた。葵と喋った記憶が無い…。家にはまだ誰も帰って来ていなくて、暖かいココアを渡しながらニコニコして葵がそう言ってくれた。
「葵ちゃんの行きたいとこ…。」
普段なら葵にそんな事言われたら嬉しくて仕方ない筈なのに、今日はあまりのショックに素直に喜べない…。
「ねぇ、20位以内に入ったらって約束覚えてる?」
「葵ちゃん…大好きだから付き合って。」
あり得ない位の棒読みな告白。こんなんで良い筈無いのはわかってる…わかってるだけに思う様に言えない俺自身に腹が立つ。
「みっくん…大好き…。」
気付いたら、目の前に葵の顔。すごく心配そうな顔で俺を見つめる…そして、ゆっくり目を閉じて…俺の唇に葵の唇がそっと触れる。
天にも昇る心地とはこういう事を言うのだろう…。
俄然テンションが上がる。
「葵ちゃん、もっかい言って欲しい!!」
勿体無い、もっとちゃんと葵の顔を見つめて、唇の感触を…確かめたい!俺のバカ!何をボケっとしていたんだ!
「あのね、実は前にみっくんに言われた事がずっと引っかかってるの。泣いちゃう位悲しかった。それが何か気付いて欲しいなぁって…。ダメかな?ワガママかな?…それに気付いてくれたら、もう一回言ってあげても良いよ?」
俺…葵を傷付けていたらしい…いつだろう…心当たりがある様な無い様な…思い出せない。
ヒントが欲しい、そう言おうとした途端、
「私からはノーヒントだよ?」
そうさみしそうな笑顔ではっきり言われてしまったのだった。
しかし、その後葵が発した言葉に、俺はすっかり元気を取り戻した。
「みっくん、すごく頑張ってたんだよね?私、頑張ってるみっくんが好き。もうすぐ球技大会でしょ?みっくんが出る種目で優勝したら、1日に1回ほっぺにキスしても良いよ?私の気が向いたら…たまには…良いよ…唇でも…。その代わり、私がどうして悲しかったのか、ちゃんと考えてくれる?」
途中から、目を逸らして、真っ赤な顔で恥ずかしそうに話す葵が可愛くて仕方なくて、思わずギュッと抱きしめた。
「充…葵になにしてくれてるわけ?」
「やだ…颯ちゃん…。見ないでよ…」
葵は真っ赤な顔をさらに耳まで赤く染めて、自分の部屋に行ってしまった。
「また邪魔するのかよ…颯太のアホ!」
「アホは充だろ?葵傷付けておいて未だ気付かないとか…。最低だな…。」
こいつ、どこから聞いてたんだ?
「球技大会で優勝するのは俺だ、例えホッペとはいえ、そんな事にも気付けないアホにキスさせる訳にはいかねぇんだよ、バーカ。」
「葵ちゃーん、俺が球技大会優勝したらチュウしてー!もちろん唇ね?」
葵の部屋に向かって叫ぶ友晴。
「なんで友晴までいるんだよ!?」
「ずっといるのに気付かないみっくんがおかしいんでしょ?それに葵ちゃん泣かしといて気付かないとかサイテー!」
友晴にまでサイテー呼ばわりされる始末。
確かに俺は最低だ。いつ、何と言って葵を傷付けたかさえ分からないのだから…。
「マジで心当たり無いわけ?」
「なんだよ、颯太は分かるのかよ?」
キレ気味で俺に尋ねる颯太に、俺もキレ気味で返す。
「分かってるに決まってるだろ?因みにその話は葵からじゃなくて、お前の口から聞いたけどな!」
「マジか…。」
もう何も言い返せない。自分の馬鹿さ加減にうんざりだ。
その日、葵は夕食の準備をするとすぐにシャワーを浴びて部屋に篭ってしまった。
因みに髪はちゃんとブローしていたらしい。




