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36. 横山 花恵

「えっと…実は…この度…俺たち…お付き合いを…始めました…。」

「葵とノリちゃんには、ちゃんと報告しておこうと思って…。」

「えぇぇぇぇ!?おめでとう!!2人、最近なんか良い感じだったもんね?ノリちゃん?」

「ふーん、やっぱりそうきたか…って感じ?で?どっちから?」


 日曜の午後。ランチタイムのピークを過ぎたファミレスに、私達はクラスでも仲良くしている友人2人を呼び出した。


「どっちからって…まぁどちらからともなく?一応俺からになるのか?なぁ、花恵?」

「うわぁ…早坂が『花恵』だって?」

「いつからそんな事に?」

「正式に…って言うか、付き合おうってなったのは昨日の部活帰り。たまたまテニス部とバスケ部の終わる時間が同じ位で…。」

「葵が言いたいのは、いつからそう言う風に意識したのか?ってことだと思うよ?」

「ノリちゃん、その通り!」


 ニヤケ顏の友人2人を見ているとこちらが恥ずかしくなる。


「きっかけは…葵の件かなぁ…?」

「夏休みの最終日。早瀬の悪い噂を耳にして…あの辺りから。」

「あぁ、あの日ね。」


 早瀬を信じよう、そう言い切った太一に惹かれていた。その反面、太一は葵が好きなんじゃないかと思い込んで苦しかった。葵は色が白くて、可愛くて、スタイルも性格も良くて…私なんてとても構わないと卑屈になっていた。


「花恵ってさ、すげぇ早瀬のこと心配して…初めは改めて良い奴だなって思ってたんだけど…だんだん気になって…よく見ると可愛いし?…って言うかよく見なくても可愛かったんだけど。」


 太一は私を可愛いと言ってくれる。日焼けして肌が黒くても、そばかすがあっても、髪が短くても、女の子としてちゃんと見てくれていた。


「で、ハナちゃんは?」

 ニンマリ笑いながらノリちゃんが横目でこちらを見る。

「葵を信じようって言った太一がすごくカッコ良くて…一緒に居ても楽しいし、すごく優しいし…気付いたら好きになってたの…。」

「きゃー!!太一だって!!」

「ご馳走様!!」


 ノリちゃんと葵が手を握りあってきゃっきゃ騒いでいる。2人ともにやけ過ぎて顔面崩壊しているけれど大丈夫だろうか?


「なんだよ?お前らだって彼氏いるだろ?」


 太一が呆れ顔で2人に突っ込む。

 ノリちゃんには付き合って3年目の年上の彼氏がいるし、葵には充先輩がいる。先日の学祭で、ミスター青藍になった充先輩とミス青藍になった葵。


「それがさぁ、こないだ別れたのよ。二股かけられてて。」

「マジか…。」

「気にしないで。薄々気付いてたし。実際目にして一気に冷めたから全然平気。」


 葵は聞いていたらしい。別に驚きもしなかった。

しかし、彼女の口から驚愕の事実が飛び出した。




「私、みっくんとまだ付き合ってないよ?」


 葵の爆弾発言。私も太一もノリちゃんも驚愕し、耳を疑った。


「は?意味がわからないんですけど?じゃあいつものあれは照れ隠しでもなんでも無いと?」

「それ、本気で言ってる?」

「充先輩お気の毒…。今日もヘアメイクしてもらったんだよね?」

「うん。服もみっくんに選んでもらったよ?」


 驚く私達に、当の本人はしれっと答える。


「充先輩も早瀬と付き合っていない自覚あるのか?」

 太一が訝しげな顔で聞く。それもそのはずだ。学校で充先輩は葵を追いかけ回していて、事あるごとに「俺の葵ちゃん」アピールをする。それに対して、葵は「彼氏ヅラするな」と一蹴するのだが、みんな葵が照れ隠しで冷たくしているのだと思っている。毎日登下校は一緒だし、手だって繋いでいる。それに学祭のミスター&ミスコンでの2人はもう理想のカップル像って感じだった。観客の前で充先輩はプロポーズまでした。颯太先輩にソッコーで断られてたけど…。

 その後も、充先輩はウェディングドレス姿の葵の隣をずっとキープして校内をウロウロしていたのに、付き合ってないとか言われても信じ難い。


「もちろん知ってるよ?今日も付き合ってって言われたから断ったし。」

「もう意味が分からない…。」

 太一が頭を抱えている。

「でもさ、葵は好きなんでしょ?充先輩の事。」


「もしかして…遼太郎さんのせい?」


 ノリちゃん、結構はっきり言うなぁ…私と太一の方がドキりとしてしまった。


「今思うとさぁ…最後に遼ちゃんに好きだって言った時、すでにみっくんの方が好きだったみたい。実は遼ちゃんにキスしてもらった時に、みっくんの顔が浮かんじゃったんだよね…。なんだろう…遼ちゃんとみっくんって顔がそっくりでしょ?なんか認めたく無かったんだよね。みっくんが好きだって。遼ちゃんにフラれたから好きになったみたいで。颯ちゃんから見たら、私は随分前から遼ちゃんよりもみっくんが好きだった風に見えたって言われたけど…。」

「余計わかんねぇよ…。」

「そもそも、付き合うって何?なんでハナちゃんと早坂くんは付き合おうって思ったの?」


 付き合うってなんだろう?大好きで、一緒に居たくて、自分だけを見て欲しいから?


「好きだし、一緒にいたいって思ったから…それに、花恵が他の奴と付き合うの嫌だったし。」


 太一が同じ事を思っていてくれたのが嬉しい。なんかはっきり言われると恥ずかしくて…きっと私、顔が真っ赤だ。


「私の場合だよ?現状大好きで、一緒にいるし…特に付き合うメリットがないって言うか…。」

「付き合ってても、浮気される時はされるしね。」

「桜井…自虐はやめろ…。」


「葵は充先輩とキスしたいとか思わないの?」


 私、何てこと聞いてしまったんだろう。これじゃまるで太一とキスがしたくて付き合ってるみたいじゃないか…。


「別にしたくないわけじゃないけど…今まで、みんなさ、付き合ってなくてもされちゃったし…。」


「「「みんな?」」」

 思わず3人ハモってしまった。


「遼ちゃんもさ、みっくんもさ、友晴先輩もさ…って今の無かった事にして!」


 今、聞いてはいけない人が1人含まれていた気がする…。


「早瀬、友晴先輩は特殊。あの人は手段選ばず、からかうのが趣味なだけだから。」

 太一がフォローする。フォローになっているか謎だけど…。


「それにさ、付き合ったら…それ以上の事もしちゃうわけでしょ?なんか抵抗あるし…。」


 葵がそう言うのも無理はないと思う。そういった経験が無いのにも関わらず、罵られて辛い目をしてきたのだから。


「初めは痛いけど、慣れると悪いもんじゃないよ?好きな人と超近づけるから…相手を好きなうちは嬉しいし。」


 経験者は語る。ノリちゃんは葵に優しくそう言った。


「でも、やっぱりネガティブイメージ強くて。今までビッチ扱いされていたせいもあるけど…。実は母が産婦人科医で、色々脅されたというか…恐ろしげなことを散々吹き込まれてきたと言うか…軽くトラウマ。」


 葵の顔が暗い。相当脅されてきたらしい…。それがあるから、充先輩を下宿させる事を葵の母は許可したのだろう。


「嫌だったら別にしなくて良いだろ?あの人、すげぇ適当だけど早瀬の嫌がる事はしないんじゃねぇの?なんだかんだ言っても良い人だし。俺だって…そのつもりだし。」

「おぉ、早坂男前。ハナちゃん愛されてるねぇ…。」

 ノリちゃんの顔のにやけっぷりが…恥ずかしい。


「実は、結局のところ…自信がない。いろんな意味で。自分の気持ちも…私自身、本当の本当にみっくんが好きなのかよくわからなくて不安。遼ちゃんに似ているから…それで好きなんじゃないかって聞かれたら100%否定出来るか分からない。みっくんもさ、昔からの惰性で私に好きって言ってるんじゃないかって思うし…みっくんって昔からやたら遼ちゃんに対抗意識持っててさ…私が好きじゃなくて、遼ちゃんへの当てつけって言うか、そう言うのだったら悲しいし…。それから…私だけじゃなくてハルとか颯ちゃんにも…もちろん冗談でだけど…普通にキスしようとするの…他の女の子にもそうなんじゃないかって思ったら不安だし…。ただでさえすごくモテるのに…私で良いのかな…って思う。私には王子様スマイルってやつ見せてくれ無いし…。それに…。」


 急に葵が悲しそうな顔になった。


「みっくんに、少し前に言われた事がショックだった。」




『遼太郎のこと考える暇があるなら俺と付き合ってよぉ…ほら、俺と遼太郎って顔似てるし?同じ髪型にしてもっと似せるからさぁ…。喋り方も真似するし…。』




 葵が充先輩への気持ちをはっきり自覚した直後に充先輩に言われた言葉。葵はこの言葉に酷く傷付いたらしい。


「確かに、充先輩の『好き』には有り難みが無いよね…。その上でそんな事言われたら仕方ないわ。」

 ノリちゃんが葵に同情する。

「はっきり言えば?遼太郎さんじゃなくて充先輩が好きなのにそう言われたのがショックだったって。」

「いや、自分で気付くべきだよ。葵、次告白されたら以前充先輩に言われた事で傷付いたって言ってさ、どんな言葉にどうして傷付いたか考えてもらった方が良いよ。じゃないと同じ事何度もするよ?男なんて。」


 最後の男なんて…のくだりで太一が苦笑いをしている。葵は、成る程、そうしてみる、と言って、ようやく笑顔になった。




 すっかりファミレスに長居してしまった。随分日が短くなったせいで、まだ5時だというのに外はもう薄暗い。

 葵とノリちゃんと別れ、太一と2人、手を繋いで歩く。


「早瀬も複雑だよな…。」

「葵、うまくいくと良いねえ…。」

「なぁ、花恵もキスしたいとか思っちゃうわけ?」

「え…?」

「ごめん、変な事聞いて。」

「………うん。…思っちゃうよ。。。太一が大好きだもん…。」




 初めてのキスは、メンソールのリップクリームの味がした。

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