35. 早瀬 葵
「早瀬さんのお陰!本当にありがとう!!」
「いえいえ、お礼を言うのはこちらですから…。」
学祭のミスコンでお借りしたドレスを返すべく(もちろんクリーニング済み)、放課後渡部さん、吉田さん、中村さんを訪ねて家庭科室へ行った。
すると、3人はもちろん、興奮気味の同好会のメンバー全員に取り囲まれ、お礼を言われた。初めは全く状況が飲み込めず、「はぁ…?」としか言えなかった私。それを見兼ねた渡部さんが周りを落ち着かせてくれて、説明してくれた。
どうやら、ミスコンでドレスを着てパフォーマンスをした事と、その後も高梨・中沢兄弟プラスαを不本意ながら引き連れて校内、洋裁同好会の作品展示スペース近くを中心にウロウロしたところ、入会希望者が複数現れ、晴れて『洋裁同好会』から『洋裁部』へと昇格したらしい。
「ウェディングドレスでミスコン出た出場者が早瀬さんの他に4人もいたのに、私達のドレスが1番素敵だったって言ってくれる人がすごくたくさんいたの!絶対、モデルが早瀬さんだったからよ!!」
「他の人達のドレスがすごく派手で華やかだったから不安だったけど…早瀬さんを見たら不安が吹き飛んだわ。すごく似合ってたもの。」
「他の人達のは取ってつけたような感じだったしね!」
「まぁ…演出は派手でしたけど…。颯ちゃんにエスコートしてもらったし…。でもやっぱりドレスが素敵だったんですって。丁寧に作られてましたし、私はすごくこのデザイン好きです。繊細で…すごく綺麗で…。」
未だ興奮冷めやらぬお三方。先程皆様を落ち着かせてくださった筈の渡部さんがやたらとハイになってます。
「他のドレスを着ていた人達、それぞれ高梨・中沢兄弟にエスコートをお願いしていたらしいよ?全員断られた上に、その全員プラス準ミスターの俺まで引き連れて優勝パレードしちゃうなんて、さっすが葵ちゃん。」
「…友晴先輩!?」
急に話に入ってきた友晴先輩。洋裁部の皆さんも驚いているけれど、私が1番驚いている。
「やだなぁ…俺と葵ちゃんの仲じゃん?トモくんって呼んでよ?」
「なんでここに?」
「みっくんが葵ちゃん探して大騒ぎしてるからさぁ…教えてあげようと思って。」
そう言い終わる前に、ドタバタと家庭科室に入ってきたミツ。
「葵ちゃん、探したよー!!」
急に抱きつかれ、条件反射で鳩尾に1発。
あ!?みんな見てた?どうしよう…引いてる?
「葵ちゃん流石!今日も鉄壁のガードだね!」
友晴先輩爆笑。
「早瀬さん…やっぱそのツンツンしたとこ、堪らないわ…。」
「あ、麻生の姐さん!この前の葵ちゃん用のメイド服…譲って貰いたいっす!」
麻生さんも洋裁部へ新規入部した1人。そして、いつの間にやらミツがすっかり麻生さんと意気投合したらしい。学祭で私が着たメイド服を譲ってくれと交渉中らしいが、私がお断りしている。
「モデルが拒否してる以上、充先輩に譲るメリットが無いんで…。」
「ここでは恥ずかしがってるだけだから!」
「じゃあ週1で早瀬さんが着ている写真送ってくれるなら…¥5000でどうですか?」
「商談成立!」
「絶対着ません。春子ちゃんに着せて下さい。」
この人達、勝手になんて約束をしているんだろう…。私の冷ややかな視線に気付いた友晴先輩がゲラゲラ笑っている。
「春子の写真はいらない。と言うわけでこの話は無かった事に。」
麻生さんの一言に落ち込むミツ。
このままここに居ても不毛な会話の繰り返しにしかならないので、ミツを連れて帰ることにする。
「お騒がせしてすみません。本当にありがとうございました。」
ペコリと頭を下げて家庭科室を出るも、ミツは手を繋いでくれなきゃ帰らないとかふざけた事ばかり。
仕方無いので渋々手を繋いで引きずり出す。
恥ずかしいことこの上ない。
どこでどう間違ったのか、学祭のミスコンで私はグランプリを獲ってしまった。おそらく、ドレスと颯ちゃんとミツの力。
そのミツこそがミスター青藍。
ちなみに、準ミスターが友晴先輩で、3位が春樹。
準ミスは3年生でオペラを歌った人で、3位も3年生。
出来たら校内をミツと一緒に歩くのは避けたい。目立って仕方ない。手を繋ぐとかどんな罰ゲームだろう。家庭科室を出たら離す筈だったのに、がっちり握られて離してもらえず。しかも友晴先輩も一緒とか見世物でしかない。
廊下を誰かとすれ違うたびに感じる生温かい視線。
辛い…辛すぎる。
学校から出てしまえば、ミツと手を繋ぐのは苦痛ではない。むしろ嬉しいし、繋いでいたい。でも校内では勘弁してほしい。そう言ってもミツは聞いてくれない。それどころか、颯ちゃんも慈朗ちゃんも、春樹までもがそれ位大目に見ろと言う。
お陰ですっかり私達は学校1のバカップル扱い。
実際は付き合っていないんだけどね?
そう言っても、みんな信じてくれない…。




