30. 早瀬 葵
「早瀬さん…今までごめんなさい。信憑性の薄い、誰が書いたかも分からないBlogなんかに踊らされて、今まで酷い事して…。学祭のミスコンも押し付けて…実は私が委員長と口裏合わせてたの…。」
10月頭のある日、クラスメイト達に続々と謝られた。その中でも、私と早坂くんを学園祭のミスター&ミスコンに推薦した井上 亜梨沙ちゃんにやたら謝られた。
「別に終わった事だから気にしないで。誤解が解ければそれで十分だから…。」
そう言うと、亜梨沙ちゃんは泣いてしまった。
「ちょっと…泣かないでよぉ…本当に気にしてないからさぁ…。」
あの日以降、あっという間に私が颯ちゃんとハルの妹だと言うことが学園中に広まってしまった。誰かが故意に広めたのではなく、あくまで自然と広まったそうだ。
あの日、私とミツが手を繋いで帰った事がきっかけらしい。
ミツが、颯ちゃんとハルの妹をずっと好きだって話は、思っていた以上に有名で、それを口実にずっとミツは彼女を作らなかったらしい。そんなミツが、私と手を繋いでいる事自体が有る意味大事件。友人達に「ついに高梨妹を諦めたのか?」と問い詰められ、ミツの放った一言で、皆が事実を知った。
「諦めてないよ?何で葵を諦めなきゃいけないわけ?葵が颯太とハルの妹だけど?」
そうサラリと言った上に、例の件でお世話になった先輩方が揃いも揃って体育祭を欠席した。そして、今までこれ見よがしに颯ちゃんとハルと慈朗ちゃんとの関係をアピールしていた人達が一切そういった事をしなくなり、というか彼らに関係を一掃され、私に汚名を着せるために開設したBlogも削除した。
もともと、情報の出処が高梨・中沢兄弟のファンクラブ(勿論本人達は良く思っていない)で、3人の彼女達も関わっていたことや、私に制裁を下すと公言していた為、先輩方、特に3人の彼女達の悪評と共に私が妹だということが一気に広がった。
私が髪を切られた件や、1-Cの教室での件の目撃者が意外に少なくなかったらしい。特に、1-Cでの話は近くにいた生徒達には丸聞こえだったそうで、私の髪の事も、先輩方の罵声も、颯ちゃんの容赦ない制裁も、全てが筒抜け。
お陰で私の汚名も、早坂くんやハナちゃん、ノリちゃんに対する嫌がらせもきれいさっぱり無くなった。
それどころか、早坂くんの株が急上昇して大変らしい。もともとハルとも仲が良かったし、高梨・中沢兄弟、友晴先輩と共にキャーキャー言われて持て囃されて困っているそうだ。
私は汚名が消えた代償として、『早瀬 葵=高梨妹=充の女=ツンデレ』そんな方程式が定着してしまったけれど…とほほ。
と言うわけで、平穏無事で地味な高校生活は送れそうに無い。まぁ、少し前よりも精神衛生上悪くは無いので、良しとしよう。
つまり、それが颯ちゃんが言っていた『隠すメリットよりも隠さないメリットの方が大きい』と言うこと。
学校でも颯ちゃんやハル、慈朗ちゃんと普通に接する事が出来る様になったし、暇さえあればミツは私のところまでやって来て、私に絡んで人を寄せ付けない。私が彼らとの関係を隠していた理由も、友晴先輩が上手いこと代弁してくれたので、兄たち目的で近づいてくる子達への牽制にもなった。
みんなのお陰で高梨・中沢兄弟への受付窓口的なポジションにされることは避けられている。でも付き合っても居ないのにバカップル扱いは辛い。付き合っていないと私が言えば、照れているだとか、塩対応だとか違う方向に持っていかれてるし…。清きお付き合いということになっているのがせめてもの救い。
高梨妹と言う肩書きだけで、充ファンは何も言ってこない。それどころか生温かい視線まで感じる。恐るべし、高梨ブランド。
そんな感じで、クラスにも再び受け入れられ、楽しい高校生活は送れている。
体育祭も終わると一気に学祭モード。中間テストがあるけれど、みんなが「テスト?何それ?美味しいの?」状態。
結局、うちのクラスはハルのクラスと合同で執事&メイド喫茶をすることになり、なぜか私までメイドをすることになってた…しかもシフトが長い。丸一日潰れている。
春樹もとい春子ちゃんと一緒に組まれたスケジュールに悪意を感じるのは私だけ?
ハナちゃんと早坂くんは執事、ノリちゃんはレジ係。3人とも時間に多少ズレは有るもののみんな同じ日のシフト。2日間行われる学祭のうちの1日はみんなで回れそう。嬉しい。
執事やメイド役は当日の負担が大きいので、準備は割と免除してもらえるらしい。2クラス合同って言うのも、準備の効率が良いので、比較的準備が楽だとか。コーヒーも機械任せなだし、紅茶もティーバッグ。お菓子も注文が入ったらお皿に乗せて終了。衛生上、使い捨ての食器しか使えないことになっているので洗い物もほぼ無し。
そして片方の教室をバックルームにして、もう一方を模擬店舗にすることになった為、部屋を仕切るとか無駄な作業が不要なのだ。
ノリちゃんは、吹奏楽部の演奏会もあるから忙しそう。学祭で大変なのは運動部よりも文化部や文科系の同好会。テニス部とバスケ部は今年は部の紹介パネルの展示のみだそうで、実質何も無いらしい。
なんだかんだで楽しい。何かを忘れている気がするけど、まぁいいか。
初めての青藍学園祭。準備も当日も目一杯楽しみます!




