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29. 中沢 充

「颯太、葵についての話ってなんだよ?っつうか、なんで友晴までいるんだよ?」

「だって、情報提供してるの俺だし?」


 授業が終わり、俺が明日の体育祭の準備と言うか、打ち合わせという名の集まりに行こうとすると颯太に呼びとめられた。

 連れてこられたのは1年生の教室がある棟の屋上へ向かう人気の無い階段の踊り場。葵や春樹のクラスから程近い。

 そこにいたのは、慈朗、颯太、春樹と、情報提供者だと言う友晴。


「みっくんはどこまで気付いてるの?」

「葵以外にそう呼ばれたく無い。」

 そう言うと、不満な顔をしつつも友晴は俺をみっくんと呼ぶのを辞めた。

「充、葵ちゃんが嫌がらせされてるのには勿論気付いてるよね?」


 初耳だ。葵が?嫌がらせ?一体誰に?


「どうせ気付いて無いんだろ?アホだから。」

「そう言う春樹はどうなんだよ?」

「馬鹿じゃねぇの?新学期始まってからずっとだぞ?葵が好きなら気付けよ、この馬鹿!」


 春樹だけじゃ無い。颯太も慈朗までも気付いていた。


「これ見ろよ。お前のせいで有ること無いこと好き放題言われてるんだよ。学校中に拡散されてさ…。」

 慈朗に渡されたのは、Blogらしきものをプリントアウトしたものだった。

「死にたい…葵に合わせる顔が無い…。」

「だったらお前がどうにかしろよ。アホミツ!」

 春樹に怒られた。全くその通りだ。


「これ、葵のスマホ。犯人は特定済み。葵、今日家に置いていったんだよ。こんなんじゃ持ち歩きたくないよな。俺が代わりに犯人煽っておいた。もうすぐアクション起こすだろ。それを証拠として、録音して、頃合いを見計らって、葵を助けに行く。そして、今までしたことの重大さを身を以て感じていただくわけ。その時まで我慢しろ。途中で行ったら殺すぞ?」


『葵と高梨・中沢兄弟との本当の関係を知りたければ今までの事を土下座して謝って下さい。13:00に1-Cで待ってます。来ないとか、ただのチキンですよ?それとも、怖くて聞けませんか?』


 そう送ったメールに対して、すごい数のレスポンスがあった。どれもこれも汚い言葉で罵倒するものばかり。画面をスクロールしても確認しきれない程の誹謗・中傷。


「マジか…これ。」

「それだけじゃ無いよ?昨日、葵ちゃん髪の毛切ったでしょ?充に相談もせずに。あれ、彼女の意思じゃ無いからね?泣いてたよ。スカートもそう。メガネも壊された。」


 友晴が見せてくれたのは、酷いものだった。

 こんな事をされていたのに、俺は葵になんで切っただの相談しろだの無神経な事ばかり言っていた。

 吐き気がする。いたたまれない。


「お、始まったぞ。」

 颯太は、かかってきた電話を取り、スピーカーにした。そして消音ボタンを押す。

 あちらの音声は聞こえるが、こちらの声はあちらに聞こえない。

 昨日遊びに来た葵の友人のハナちゃんからの着信は、1-Cの教室で、今まさに何が起こっているかと言うことを俺たちにハッキリと伝えた。


 怒りに任せて喚き散らす女達の声。

 冷静沈着な葵の声。

 その中に度々上がる自分の名前。


 聞いているだけで辛かった。大好きな葵が、俺の軽率な発言のせいで、だらしない女だと罵られ、汚い言葉を次々浴びせられている。

 だと言うのに、葵は友人を庇う様な事を言う。そして、俺たちを庇う様な事まで言うではないか。


『やっぱり言いたくありません。言ったら負けな気がするんで。』


 葵のその一言で、颯太が動く。

「葵が言わない以上、俺たちが真実を教えてあげなくちゃね?」

 立ち上がり、階段を降りる。そして、向かったのは1-Cの教室。


「その頭、似合わねぇよ!昨日の切りっぱなしの方がお似合いだよ!」

「せっかく似合う様に切ってあげたのに…また切って欲しいわけ?」

 中から聞こえてきた罵声。


「俺の大事な葵の髪を切ったの誰?」


 凍りつく空気。

 俺の顔を見た途端、葵の目から涙が流れた。


「葵…ごめん。辛かったのに気付いてあげられなくて…。」


 葵を抱きしめる。悲鳴がおこる。


「俺がセットしたんだけど?葵の髪が似合わないって?ふざけんなよ?葵になにしてくれたわけ?」


 葵に汚い言葉を浴びせていたであろう奴らを睨む。よく見れば、知った顔ばかり。

 颯太・慈朗・春樹が付き合っている女まで揃っている。

 皆の顔がどんどん引きつって行く。

 逃げようとするものもいる。しかし、2つの出入り口はすでに塞がれていた。


「葵が話さないから、俺らが代わりに教えてやるよ?今日LINEでやりとりしてたの、本気で葵だって思ってるわけ?リアルタイムで自撮り送ったのに、俺だって気付かなかった?」


 颯太がそう言って教室に入って来た。

 それに、春樹と慈朗も続く。

 友晴と早坂は、教室の扉の前に立ち、鍵をかけた。


「絵里奈、俺が双子だって話したよね?」

「結菜、妹がいるって知ってるはずだよな?」

「リナ、うちの兄弟と颯太と春樹、それとその妹とは兄弟同然に育ったって話、俺が何度も話した筈だけど?」

「それから、充は昔から俺の双子の妹が好きで追いかけ回してるって有名な話だよね?俺が似てるからって、俺に女装させちゃうくらい。」

「ちなみに、これが春樹の女装。」

 颯太が春樹の女装した写真を渡す。


 俺は、葵のメイクを直していた。泣いてしまったので、崩れている。


「そして、その写真と同じ様にメイクした葵ちゃん。春樹の女装よりもずっと可愛いよ?」


 葵の姿を見た途端、みな力なくヘナヘナと座り込む。


「必要があれば、戸籍謄本も見る?持ってるよ?」

「葵と俺は産まれる前から一緒だったんだよな。双子だし。」

「5年前までは、高梨 葵だったもんね。産まれたばかりの頃から俺は葵を知ってるし、俺にとって葵は可愛い妹だよ?」


「と言うわけで、葵は俺と春樹の実の妹で、慈朗にとっても可愛い妹で、充が10年以上一途に片思いしている女の子でした。」


 颯太にハッキリと事実を告げられ、彼女達の顔はどんどん青ざめてゆく。しかし、颯太はここで話を終わりになどしない。本当に怒った時の颯太は冷酷だ。


「結菜、俺が別れたいって言った理由わかる?よく出来た妹がいるとさ、どうしても自分の彼女と比べちゃうんだよ?でもまさか、結菜がここまで腐ってるとは思わなかった。俺がシスコンだって言ったよね?可愛い妹にしたことの責任、ちゃんととってもらうから。

 これが、Blogをプリントアウトしたやつね。切り刻んだスカートも、髪を切られた後の葵の写真もあるよ?

 それから、葵のスマホ。あと、今までの会話を録音してたって知ってた?俺らもちゃんと聞いてたよ?ちなみに、俺らの父親の職業は弁護士。」

 颯太だけでなく、慈朗と春樹も付き合っていた女に別れを告げた。

 彼女達は泣いて許しを請うた。今までの事を許してくれ、訴えないでくれ、反省する。そして別れたくないと。


「葵、どうしたい?今までの事許せる?」

 颯太が葵に聞く。


「もう面倒臭いのは嫌。許すとか許さないじゃなくて、関わりたくないから裁判沙汰は真っ平御免。それにパパに知られたくないし。私は普通に楽しく学校に通えれば十分。せっかく友達出来たんだもん。学校辞めたくないし。…先輩方には今更謝られても困る。謝る位なら、今まで流した嘘の噂をどうにかしてもらった方がありがたい。汚名着せられた人全員ね?別れる別れないはご自由にどうぞ。私には関係ないし。」


「さすが俺の葵ちゃん!優しい!」


 抱きつこうとしたら、鳩尾を軽くパンチされた。


「私、ミツのものになった覚えないけど?彼氏ヅラしないでくれる?」

「わーい!いつもの葵に戻った!!」


 いつも通りの葵の反応に嬉しくて喜んでいたら、葵の友達に引かれた。


「充先輩…残念過ぎる。」

「ミツは葵に冷たくされるのも好きだから…。葵が中学の時なんか、俺に女装して罵ってくれとか言うの…。勿論断ったけど…。」

「葵ちゃんのツンデレっぷりは最強だよ?キツい葵ちゃんも良いけど、甘えた葵ちゃんとかマジで堪らないから。」


 もはや殴られることに喜びまで感じています、なんて言えない。そしたらきっと葵の鳩尾パンチも無くなってしまうだろう。


「もはや変態…。それが笑顔の貴公子の実態か…。」


 葵が俺を冷たい目でみていたけれど、きっとこれは元気になった証拠。良いことだ。



 颯太と慈朗と春樹と友晴にその後の事を任せて、俺と葵、それから早坂とハナちゃん、ノリちゃんは帰った。葵がみんなでご飯を食べようと誘うと、3人は用事を思い出したと逃げる様に帰ってしまった。


 俺は初めて、葵と一緒に下校した。

 残って準備をしていた生徒にジロジロ見られたが気にしない。

 葵も気にしていない様だ。

 手を繋ぎたいと言ったら、意外にもすんなりOKしてくれた。




 葵が笑って隣にいて、手を繋げる幸せ。最高!

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