26. 高梨 颯太
「颯ちゃん、iPod貸して。」
「良いよ、実はこれ、充ので借りパクしたやつだから言うなよ?」
「うん、みっくんには言わない。ありがとう。」
普段、スマホで音楽を聞いている葵がiPodを貸して欲しいと言う。もしかしてと思い、葵の部屋を探すとあっさり見つかるスマホ。案の定葵はスマホを持たずに登校していた。電源は入っていない。とりあえず、起動だけでも…そう思い、充電するとすぐに電源が入る。充電はほぼ満タン。充電が落ちたのではなく、電源を切っていた様だ。
その理由もすぐに判明する。
電源が入った途端、震えるスマホ。
LINEの未読が1000件以上?どう言うことだ?
スワイプしてアプリを開く。パスコード?遼太郎の誕生日を入力する。ダメだ、開かない。もしやと思い、『0303』と入力。ロックが解除される。3月3日、充の誕生日。
開いたトーク画面に唖然とする。罵詈雑言の嵐。まさかここまでとは思わなかった。よくもまぁ、こんなに汚い言葉がツラツラと思いつくものだ。しかもなんだこれ?ふざけたユーザー名。『@充LOVE☆』が4人とか。名前見たら大体どいつか特定出来た。
そしてまさか直接手を下しているとは思わなかった3つの名前。思っていた以上に頭が悪かったらしい。特に酷いところをスクリーンショットで保存。とりあえず俺に送信。そして葵のスマホからは消去。
『既読スルーかよ?何か言ってみろ、糞ビッチ!』
そんなメッセージを受信。
皮肉にも、そんな女と俺は付き合っていたらしい。自己嫌悪。マジで死にたい。
『リアルタイム颯ちゃん(ハート)』
そして、自撮り写真を一緒に送信。
送った直後からもう来るわ来るわ。全てが悪口雑言。俺自身が送ったものだとは微塵にも思っていないらしい。面白いので、半日お付き合いすることにする。あくまで俺は葵。だから汚い言葉は吐いてはダメだ。
学校に着くと、すぐに友晴に声をかけられた。
「颯太くん、楽しそうだね?」
「見たい?友晴くん?」
「うん。……うっわ、何これ?あまりの頭の悪さに何も言えない。これ、妹ちゃんのスマホ?」
「そう。iPod貸してって言いだすから、おかしいと思って部屋探したら見つけた。面白いからお相手してんの。リアルタイム自撮り送ったの。そしたら一気に返信してきてさぁ…。」
「何これ?みっくんファンってお下劣ぅ…。ちょっと貸して。」
カシャ。
「リアルタイム友くん、ハートの絵文字、で送信っと。」
友晴もふざけた自撮り写真を送った様だ。舌出してウィンクとかアホか。
これにもすぐにレスポンスが返ってくる。
『マジで死ね。』
『バスケ部食い過ぎ。』
『ビッチの下半身ってどうなってるわけ?ゆる過ぎなんじゃないの?そんなんで満足させられるわけ?』
「えげつないね。爽やかな笑顔の写真だけでここまで言っちゃうって相当欲求不満なんじゃね?」
「どこが爽やかな笑顔だよ?朝から不快だろ?」
『葵は清き乙女です。ちなみにみっくんも清き童貞だよ?』
「颯太くん、妹ちゃんの個人情報流して良いの?」
友晴はゲラゲラ笑っている。みっくんのくだりがツボにはまったらしい。涙を流して腹を抱えて笑い出した。
そのまま教室に向かう。途中、充のクラスの前を通り過ぎる。
「みっくん、元気ぃ?」
友晴が声をかける。充は友晴に気付くと血相を変えて向かって来た。
「友晴、テメェ…何したんだよ?」
かなり声量を抑えているあたり、一応気を遣っているらしい。
「え?何?何の話?」
「昨日葵に何した?」
「困ってたから助けてあげただけだよ?助けたお礼に不意打ちでチュってしたけど?それが何か?」
「困ってた?助けた?」
「気付かないとかみっくんアホなの?じゃあホームルーム始まっちゃうからまたね〜!」
充を思いっきり挑発したつもりだった友晴は、葵が困っていたから助けたというところで混乱してしまい言い返さなかったため、少しつまらなそうにしていた。
「みっくん残念。同じクラスに主犯格が2人もいるのにね。妹ちゃん可哀想。妹ちゃん、きっと遼ちゃんよりもみっくんの方が好きだよ?」
「葵も意地張ってるからね。認めたく無いんだろ?充が好きだって。充も馬鹿だから傷つける様な事言うし。」
「何言ったの?」
「充に聞いて。殴りたくなるよ?きっと。」
教室に入り席に着く。俺の斜め前は春樹が付き合っている事になっている女。先程からずっとスマホを見ている。少しおちょくってみるか。
『さてクイズです。春樹くんの好きなソフトクリームは何味でしょうか?①バニラ②チョコ③ミックス④葵』
『黙れ、糞ビッチ。』
返信の速さにびっくりした。
その後も続々と俺が出したクイズとは何の脈絡もない中傷の言葉が送られてくる。少し調子に乗り過ぎたか?葵に危害が加えられていないと良いけれど…。早坂にメールして状況を確認。
いつもと違う雰囲気の葵に、皆驚いたそうだが、今のところ特に問題なさそうだ。
早坂に今日の計画を打ち明ける。今日は半日授業。昼過ぎになれば、体育祭の準備をするか、帰宅するかで教室からは人が減る。その時を狙って葵の教室に呼び出す。そこから、俺たちが行くまでの間、葵に直接の危害が加えられぬように守って欲しい。早坂達は快諾してくれた。
慈朗と春樹にも連絡する。朝のスクショも送信。2人とも絶句。春樹がマジギレ。慈朗もヤバイ。
充にはまだ言わない。
言ったら計画が台無しだからな。




