表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/83

25. 中沢 充

「葵、本当に早坂のこと恋愛対象として見てない?」

「何度言ったらわかるかなぁ…早坂くんは友達。そんな風には見てないから。…って言うか私が好きなのは遼ちゃんだし…。」

「!?…遼太郎は諦めたんじゃなかったの!?」

「どうにかなろうっていうのは諦めたよ?でも勝手に片思いする分には問題無いでしょ?」

「ダメだって。時間が勿体無い。遼太郎のこと考える暇があるなら俺と付き合ってよぉ…ほら、俺と遼太郎って顔似てるし?」

「…嫌。」

「遼太郎と同じ髪型にしてもっと似せるからさぁ…。喋り方も真似するし…。」

「…無理。…ミツ、最低。」




 今日、葵の友達が初めてうちに遊びに来た。ハナちゃんとノリちゃんというクラスメイト。そして要注意人物、早坂 太一。

 3人を駅まで送ると言う葵についてきた帰り道の会話で葵の機嫌を損ねてしまった。

 葵はもうずっと遼太郎に片思いしている。俺はそんな葵にずっと片思いしている。皮肉な事に、遼太郎と俺は顔が似ている。声も似ていると良く言われる。だと言うのに、葵は俺ではなく、遼太郎が好きなのだと言う。遼太郎が葵の髪を触るのが悔しくて、春樹を練習台にして練習して、今では葵の髪を結ぶのは俺の仕事。メイクもスタイリングも、オシャレの師匠と言う盾を使って俺がしている。


 何故か今日、葵は髪をバッサリ切った。30cmは切っただろう。ショックだった。なんで一言も相談してくれなかったんだろう。少し前は、遊びに行く時の髪型や服装でさえ俺に任せてくれたのに…。


 最近、体育祭の応援団の練習が忙しくて帰りが遅いので、あまり葵とは話せていない。せいぜい、朝、ヘアメイクをするくらいだ。

 颯太と慈朗は今日早坂達が来ることを知っていたのに俺は知らなかった。



「お前、葵にそんな事言ったわけ?最低だな…。」

 結局、帰り道どころか、家へ帰っても口を聞いてもらえず、入浴後髪も乾かさないまま葵は寝てしまった。その様子を心配した颯太に聞かれて会話の内容を話した俺に颯太は呆れた様に言った。


「馬鹿じゃねぇ?だから葵は遼太郎が良いって言うんだろ?充は無神経すぎ。最低。…だから友晴がちょっかい出すんだよな。」

「は?なんで友晴?ちょっかいって何?」

「葵が友晴にキスされたなんて教えてやんねーよ、バーカ。」


 友晴許すまじ。俺の葵ちゃんにキスしただと?明日、絶対シメてやる。腹が立ったので不貞寝した。葵も俺は拒むくせに、遼太郎や友晴だと良いってどう言うことだろう?俺になくて、遼太郎や友晴にはあるもの…わからない。



 夜中、ふと目が覚めた。水の音がする。何となく気になって音のする方へ行くと葵が顔を洗っていた。泣き腫らした様に目が腫れ、顔色も悪い。震えている?

「葵…大丈夫?泣いてたの?」

「みっくん…?」

「どうした?」

「………。怖い夢…見た。」

「大丈夫だよ。」

 泣きそうな顔で俺を見る葵を抱きしめた。葵はやっぱり震えていた。


「昔みたいに、一緒に寝る?手、繋いでさ。」


 いつも通りの鳩尾パンチを期待して言ったはずなのに、葵は小さくコクンと頷いた。

 手を繋いで、葵の部屋へ行く。冗談めかして、先に葵のベッドに入り、葵においでと言うと、素直にやって来た。おかしい。

「葵?」

 葵を見つめると、暗い瞳をしている。無意識に葵にキスしてしまった。

 いつもなら拒むはずの葵が拒まない。それどころか、目を瞑っている。

 おかしい。絶対おかしい。


「みっくん…手繋いで…一緒にいたい。」


 まるで、あの時みたいだ…。

 友達だと思っていた子に、引っ越すのが颯太や春樹じゃなくて葵で良かったと言われ酷く傷付いていた時。


 一緒に横になり、手を繋いであげたら、葵はあっという間に眠ってしまった。

 葵に何があったのだろうか?




 翌朝、目が覚めると葵は居なかった。葵の部屋を出る。もうみんな起きて朝食をとっていた。

「おはよう。」

「みっくん、おはよ。」

 俺が葵の部屋から出て来ても誰も特に突っ込まれない。

 昨日からみんなおかしい。


「みっくん、髪の毛…メイクもお願いしても良い?」

「もちろん…今日はいつものスカートじゃ無いの?」


 絶対おかしい。葵が短い方の制服のスカートを履くなんて。


「うん。髪も短くなったし、合わせてみようかなって。イメチェン?髪型もメイクもお任せで。多少濃くても、みっくんのしたい様にして。」


 葵の笑顔は無理をして作った笑顔だ。


「じゃあ、髪巻いてもいい?」

「うん。」


 あまりに素直過ぎる葵に違和感を覚えたが、こんな機会も無いので緩く巻く。前髪は斜めに流して固定する。メイクは控えめ。とはいえ、いつもよりはしている。


「葵ちゃん?」


 虚ろな目。大丈夫だろうか?

 グロスを塗る前に、キスする。


「…みっくん?」

「葵ちゃん、変だよ?いつもなら鳩尾にパンチするじゃん?」

「………。」


 やっぱり変。グロスを指に取り、葵の唇にのせる。


「元気ないよ?ほら、元気の出る香りで元気出して。」


 今日もいつもの香水。お揃いでつける。


「…みっくんありがとう。ちょっと元気でた。」

「葵ちゃん、メガネは?」

「なくしちゃった。だから今日はこのままで行くの。」


 葵はそのまま学校へ行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ