表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/83

23. 桜井 紀子

「えっと、葵が送ってくれた地図だと…まさかここなの?…マンション名も合ってる…。」

「すげぇな…。」

「部屋番号は…っと。」




 昼休み、私とハナちゃんが購買のパンを買いに行っている間、葵は嘘の要件で呼び出され、酷いことをされたらしい。

 早坂の先輩が助けてくれなかったら、葵はどうなっていたんだろう。


 葵の腰まであった長い髪は、肩まで短くなっていた。スカートは裾が切り刻まれていた。だというのに、葵は笑ってた。大丈夫って。私達が遊びに行くのを楽しみにしてるから予定通り来てねって。

 大丈夫な訳ない。なんでそんなに無理をするんだろう。




 ピンポーン。

「どうぞ。」

 低い声。葵は一人暮らしのはず。なのに聞こえた男の人の声。エントランスのロックが解除され、中に入る。

 葵から聞いていた部屋へ行く。インターホンを鳴らすと、ドアが開く。

「どうぞ。葵、もう少ししたら帰って来るから。」


 早坂の予想は的中していたようだ。私達を迎え入れてくれたのは、高梨颯太先輩だった。

「驚かないの?気付いてた?」

「ええ、春樹の女装と早瀬がそっくりなんで。」

 早坂が答える。

「だよね。いつも妹がお世話になってます。ありがとう。」

 分かっていたこととはいえ、学校のアイドル的存在だ。ハナちゃんは緊張して固まってるし、私も何を話して良いかわからない。


 葵の家は広かった。とても一人暮らしの部屋、しかも高校生が住む様な所とは思えない。

「ここ、もともとは葵と母で住んでて、再婚相手…葵の今の戸籍上の父親ね、その人も一緒に暮らす予定だった家。仕事の関係で、今は違う土地に住んでるけどね。」

 颯太先輩がそう教えてくれた。


「葵の口から話す前に色々話しちゃってごめんね。早坂はあのBlog知ってるだろ?ハナちゃんとノリちゃんもきっと見てるよね。それなのに、今まで通り、自分たちの状況が悪化しても、変わらず仲良くしてくれて、葵を支えてくれてありがとう。」


 颯太先輩はすごく優しい笑顔だった。学校ではこんな顔見たことない。


「酷い話だよ。全く。事実を歪めて書かれてさ…。葵にとって、君たちの存在は凄く大きかったみたい。『今は私にも本当の友達がいるから大丈夫』なんて笑って言うんだよ。…実は俺たちのせいで、葵は昔辛い思いをしたことがあって…。」


 颯太先輩は、昔の話をしてくれた。


 葵は幼い頃から、周りに颯太先輩や春樹くん、充先輩の『オマケ』扱いされることが多かったそうだ。それで不都合はなかった。はじめはオマケでも、次第に『葵』として認められたのだから。

 しかし、小学校の高学年になって、女の子達が恋に恋する頃になると、葵は『利用価値のあるオマケ』扱いされるようになる。颯太先輩や春樹くん、充先輩と仲良くしたいが為に葵を利用する子が多かったらしい。葵は『颯太の妹』『春樹の妹』『充の幼馴染み』で、葵と仲良くしていたら、彼らにお近づきになれるかも、なんて理由でチヤホヤされていたらしい。

 それに最悪のタイミングで気付いてしまう。




 彼女自身、両親の離婚で不安定な時だった。

 葵は友達だと思っていた子達の言葉に酷く傷付いた。


『引っ越して居なくなるのが葵で良かった。』


 葵は自分の存在価値について悩んだ。自分の殻に閉じこもってしまった彼女は引越し先の小学校でもあまり馴染めず、中学校では酷いイジメに遭った。


 高校では穏やかに暮らしたい。自分の友達が欲しい。兄達と違う高校へ通うつもりだったが、母親の元を出るなら、青藍学園へ進学しろ、そうで無ければ学費は出さないと葵の実の父は言ったそうだ。兄達目当て近づいて来るのではなく、葵個人を認めてくれる友人が欲しい。だから、葵は兄達との関係を隠した。


 そして、兄弟と幼馴染以外で、初めて出来た、葵を支えてくれる友達。


 それが私達だという。


 葵は颯太先輩に、私達のことを嬉しそうに毎日話していたそうだ。自分の事を信じてくれるのが幸せだと。

 そして、きっと私達なら、本当の事を話しても大丈夫だと言って、今日の事を凄く楽しみにしていたらしい。

 その反面、自分のせいで、私達に迷惑をかけていることに心を痛めていたらしい。


 私も、ハナちゃんも早坂も泣いていた。

 葵が私達の事を、すごく信用してくれていて、大切に思ってくれていて、心配してくれているのが嬉しかった。




「今日、葵がどんな事されたか知ってるでしょ。友晴が電話して、葵の荷物持って行ってくれたんだよね?」


 颯太先輩の声のトーンが急に変わる。表情も怖い。


「葵には悪いけど、もう我慢の限界。あんな事したんだから事実を知って反省してもらわないとね?」


 笑っているはずなのに、すごい迫力。相当怒っているのだろう。


「でも、葵には内緒にしておいてくれる?あの子、優しすぎるから…」


 そして、颯太先輩は私達に協力して欲しいと言った。何をするかは教えてもらっていないのでわからない。詳しくは明日メールすると言われ、連絡先を交換した。


 私達は、葵がこれ以上辛い思いをしなくて済むならと同意したが、颯太先輩は

「不快な思いをすることにはなるだろうね。」

 そう言った。




 でも、葵が大好きな人達だ。きっと悪い様にはしないはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ