21. 井上 結菜
「犯人特定出来たし、これはもう徹底的にシメるしか無いよね。」
「まさかこの学園にいるとは思わなかったよね…。」
「早瀬 葵、許さない。」
この学園には『高梨・中沢兄弟』と呼ばれるアイドル的存在がおり、ファンクラブが存在する。
高梨家と、中沢家は隣同士で、産まれたときから兄弟の様に育ったらしい。全員タイプが違うイケメンで、女子生徒の殆どが彼らに憧れている。
そんな高梨・中沢兄弟の彼女と言うのは、この学園において、この上無いステータスだ。
私、井上 結菜は高梨 颯太と付き合って2年。
初めはお情けで付き合って貰ってた感が否めないけれど、努力の甲斐あって、すごく大切にして貰っていた。
私の親友、絵里奈は高梨 春樹くんの彼女。
リナは、中沢 慈朗先輩の彼女。
2人も、私と似たような感じで付き合い始めたけれど、やっぱり努力して、大切にしてもらっていた。
唯一、笑顔の貴公子こと中沢 充くんには彼女はいないが、噂によると、高梨兄弟には生き別れた妹がおり、充くんはその妹一筋だから彼女を作る気がないらしい。
私達は、愛されていた筈だった。
あの忌々しい女が現れるまでは。
事の発端は、6月まで遡る。
とあるファンクラブのメンバーの目撃情報。
『都心の百貨店で、颯太に貢がせている女がいた。』
その時は、目撃情報だけで、写真などは無かったが、黒髪のロングの巻き髪、身長はおそらく160cm前後、名前が『アオイ』らしいと言うことだった。颯太は、ショップの紙袋をたくさん持たされて『颯ちゃん』呼ばわりされていたとか。
目撃された日は、私がデートに誘ったのに、「中沢兄と出かけるから。」と断られた日だった。
そこから、私達の悪夢の始まりだった。
夏休み、私達は、彼氏と過ごす夏休みを楽しみにしていた。
海、テーマパーク、花火大会、旅行…。行きたいところはたくさんあったのに…。
夏休み直前、リナは、「受験勉強が忙しい」と言う理由で、慈朗先輩に別れたいと言われていた。
どうにか、別れることは回避出来たが、連絡が取れずさみしい思いをしていた。
一緒に勉強しようと図書館やカフェに誘っても、断られるばかり。そのうち無視されるまでになってしまった。
絵里奈は、時々会っていた様だが、会っても短時間。一緒にご飯食べようと誘っても、家で食べると断られる事が多かったらしい。友達(主に充くんと思われる)やバイトを優先されて、やはりさみしい思いをしていた。
私はと言うと、花火大会は家族と行くからと断られ、海は暑いからと断られ、テーマパークは人混みが嫌だから断られ、旅行は家の居心地が良いから嫌だと断られていた。
一緒に宿題しようと誘っても、慈朗先輩とするからと断られる始末。
それでも、時々買い物へ出かけたり、お茶したりしてくれたけど、心ここに在らずと言った感じで、それを責めたら別れたいと言われてしまった。
そんな私達を嘲笑うかの様に、ファンクラブのメンバーから目撃情報が続々もたらされた。しかも、証拠写真付き。後ろ姿だったり、顔がはっきり写っていないものもあったけれど、共通点が多かった。
受験勉強で忙しい筈の慈朗先輩が書店のコミックコーナーにいる。
家で食事をすると言っていた筈の春樹くんは、スーパーの買い物袋を持たされて、ソフトクリームを食べさせてもらっている。
家族と行くからと私を断った颯太は、浴衣を来た女と手をつないで、花火大会の会場と逆方向に歩いていった。
充くんに至っては、ドラッグストアで、コンドームを買おうと女に言うが、その女は必要無いと言う。そんな会話を何度も繰り返していたそうだ。
全て、6月に颯太に貢がせていた『アオイ』と背格好が似ていたし、目撃者同士で写真を共有すると、全員が間違いなく同一人物だと言う見解だった。そして、やはり『アオイ』と呼ばれていたそうだ。
犯人特定するには時間がかかると思われた。どこの生徒なのかわからない。ファンクラブのメンバーも、学校で見たことが無い顔だと言う。
しかし、その後、新しい証言があったことにより、事態が急転する。
充くんとドラッグストアにいた日、その女は青藍の制服をクリーニングに出していたのだ。そして、ネクタイの色で学年まで特定出来た。
青藍学園高等部1年。
『アオイ』と言う名前。
1年に、『アオイ』と言う名前の子は3人いた。
1人目は、身長170cmのバレー部のショートカットの子。
目撃されているのは、バレー部の練習日とカブっていたし、背格好が違いすぎる。
2人目は、身長160cmの美術部のロングヘアーの子。この子は、身長と髪型は一致しているが、体型が違いすぎる。推定体重80kgの巨体ではとても写真の『アオイ』とは同一人物とは思えない。
そして3人目。
身長160cm、どこの部活にも所属していない。黒髪ストレートのロング。スカートがやたら長くて、メガネをかけた地味でダサい女。背格好は似ているが、とても同一人物とは思えない。
しかし、少し気になる点があった。ファンクラブメンバーの中に、彼女と接触したことのある子が複数いたのだ。
おしるこクリームソーダ事件と言われるそれは、ファンクラブメンバーの中では衝撃的な事件だった。
充くんと春樹くんの口を付けたペットボトルをファンクラブメンバーでも無い1年が手に入れた。
3人目の『アオイ』こと早瀬 葵が捨てようとしたものをもらったのだと言う。その事情聴取の為、複数のメンバーが早瀬 葵と接触したのだ。
「メガネ取ると、雰囲気変わるタイプだと思う。」
皆がそう言う。
そして、調査の結果、犯人は早瀬 葵と確定した。私達は復習を誓う。自分のしたことの重大さを思い知るがいい。




