18. 早瀬 葵
「学園祭の模擬店ですが、1-Cは執事喫茶をすることになりました。第一希望のメイドカフェは残念ながら1-Bに取られてしまいましたが、隣同士と言うことで、合同で準備を進めて、執事&メイド喫茶にするという案もあります。」
「1-Bとだったら絶対合同ですべきだと思います!」
「賛成ー!!」
「春樹くんの執事姿とか見たいしね!」
始業式より1週間が経過した。特に何をされるわけでもなく、ただ、陰口を叩かれるだけの割と平穏な毎日を送っていた。
相変わらず、ハナちゃん、ノリちゃん、早坂くんには助けられている。それとなくお礼を言ってはいるが、3人は「何の話?」とはぐらかしてくる。なので、それ以上聞けず、陰口のはっきりした理由もわからないままだ。別にそれで不都合が無いので気にしていない。
ケーキバイキングの時の約束の話も、なかなかみんなの予定が合わず、月末にうちに来てもらう約束をした。体育祭が9月の最終の土曜にあり、その2日前から、準備の為に部活が休みになるのだ。
体育祭が終わると、10月に中間テスト、11月頭に学園祭があるので結構忙しくなりそう。今も、学園祭のクラスの出し物の話し合いの最中。
1度クラスでの希望を3つ出し、全クラスで調節して持ち帰ってきたものの報告。
このままだと春樹のクラスと合同で執事&メイド喫茶になりそうな雰囲気。
「続いて、ミスター&ミスコンのうちのクラスからの出場者を選びたいと思います。立候補者はいませんか?」
青藍学園の学園祭名物ミスター&ミスコン。各クラス男女1名ずつの代表を出すのだが、それ以外に、50名の署名を集めれば、クラス代表でなくても立候補で出場できる。
きっとミツは立候補してるんだろうな。隣のクラスもハルだろう。颯ちゃんも、慈朗ちゃんもきっとクラス代表。
うちのクラスは誰だろう?高梨・中沢兄弟程目立つ人がいるわけもなく、サッカー部かバスケ部あたりの男子と、派手な感じのグループの子が出るんだろうな。
「はい!」
あ、やっぱりクラスで1番スカートが短くていつもお化粧バッチリ、付けまつげ標準装備の井上 亜梨沙ちゃんが手を挙げた。
「井上さん立候補ですね。」
「いいえ、私じゃなくて、早瀬さんと早坂くんが良いと思います。」
えぇぇぇぇぇぇぇー!?
地味に暮らしたいんで、そう言うのは丁重にお断りさせていただきます。
「賛成の人、拍手してください。」
え?委員長?他を聞く前にそれですか?
次の瞬間、盛大な拍手が沸き起こる。これって…ハメられた気がするんですが、気のせいでしょうか?
呆気に取られて、口ポカンで固まってる…私。早坂くんも私と同じだ。
推薦から決定までの瞬間が早すぎる。
「では、うちの代表は早坂くんと早瀬さんに決定しました。よろしくお願いします。」
私たちの了承無しに決定してしまった。
早坂くん、完全にとばっちりだよね…私に良くしてくれているが為に申し訳無い…。あ、でも、早坂くんは身長結構あるし、男前だからまぁ妥当なのか。クラスで1番と言われたらそんな気がしなくもない。一方の私は、地味メガネですが…もうどうにでもなれ。…なんだかミツに知られたら面倒そう。ギリギリまで隠しておこう。
「葵、ミスコン絶対頑張ろうね!押し付けたクラスのみんなを見返してやろう!」
昼休み、ハナちゃんが鼻息荒くそう言った。
「絶対あれ、亜梨沙ちゃんと委員長結託してたよね?あんな決め方する?普通、他に立候補とか推薦いないか聞いて、本人の承諾取るよね?なんかすごい汚いなぁってびっくりした。」
ノリちゃんも決め方が不満だったらしい。
「でも、早瀬って妥当だと思うよ?」
早坂くんが普通に言うので、少し調子狂う。
「いや、地味メガネにミスコンは荷が重いから…。って言うか、早坂くん間違いなくとばっちりだよね…申し訳無い。」
「私も、うちのクラスだったら、葵と早坂が妥当だと思う。」
いやいや、ノリちゃんまで何を仰いますか?
「ケーキバイキングの時、葵超可愛かったし。葵の師匠に当日どうにかしてもらって、みんなをびっくりさせようよ?」
ハナちゃんまで…師匠に頼んだらそりゃもう喜んでやってくれるでしょうね…。でも、きっと師匠も自分の事があるし、忙しいはずよ?
「まぁ、今更辞退出来ないし、頑張ろうぜ?」
「って言うかさ、ミスター&ミスコンって何するの?見たこと無いからわからないんだけど…。」
「制服審査と、私服審査と、あとはアピールタイムって言って、すごい格好で…去年は振袖とか、ウェディングドレスとか、部活のユニフォームとか、まぁ自由なんだけど、1人3分の持ち時間でステージ上歩いたり、ポーズ取ったり、踊ったりするの。それで、観覧者の投票で順位を決めるの。」
「ふーん。めんどくさいね。」
やばい、本音が漏れた。
「葵…めんどくさいって…。因みに、去年のミスターは充先輩。女装した春樹くんエスコートしてたよ、アピールタイム。ミスは、3年生で、ウェディングドレスの人だよね?」
「ウェディングドレスとかすごいね…。」
「それが結構定番みたいなんだよね。去年のミスはお姉さんの結婚式の時のドレスだって。みんなすごい気合い入ってるんだから、葵も頑張って!」
数分前にはどうにでもなれと思ったけれど、想像を絶する面倒臭さに凹んだ。
「参考までに、早坂くんはどんなアピールするの?」
さっき決まったばっかりで、考えてる訳無いよね…と思いつつ聞いたら、あっさり答えが返ってきた。
「バスケ部のユニフォーム着てボール持ってりゃいいんじゃねぇ?」
「まぁ、男子はそんな感じだよね?」
ノリちゃんがさらりと言う。そ…そうだったのか。ノリちゃんなら、サックスの演奏?ハナちゃんなら、テニスウエアでラケット持って?私は…ネタがない。
「もう考えたくない…。もういっそこのカッコでいっか。」
勿論、メガネに膝丈スカートの微妙な制服だ。
「葵、勿体無いよ…私達も考えるからさ、頑張ろう!」
「そうだよ、押し付けたみんなを見返さなくちゃ!」
「いっそ水着は?」
「早坂くん、殴ってもいい?」
「ごめんなさい…冗談デス…。」
なんだか、ハナちゃんもノリちゃんも早坂くんもすごく楽しそう。早坂くんが結構乗り気だったのがびっくりしたけれど、嫌々じゃなくて本当に良かった。
ハナちゃんとノリちゃんの期待に応えるために、そのうち颯ちゃんに相談してみよう。




