prologue
「葵ちゃん、遊ぼー?」
「今日葵ちゃん家に行ってもいい?」
「葵ちゃん、それ可愛いね!」
「葵ちゃん、一緒に帰ろうよ!」
「葵ちゃん?今日も公園でバスケするの?」
「葵ちゃん、見に行ってもいい?」
「ねぇ、葵ちゃん!」
「葵ちゃん可愛いからいいなぁ…。」
小学5年生の頃までは友達がたくさんいた。
いや、正確にはたくさんいると思っていた。
小学5年生の2月のこと。
私がいない時、担任がクラスメイトにこう話したらしい。
『皆に残念なお知らせがあります。高梨 葵さんが3月で転校する事になってしまいました…。4月からは引越しをして、少し遠くの学校へ通うそうです…。それまでに、5年2組で、沢山の楽しい思い出を作りましょうね。』
「春樹くんのクラスでは、春樹くんが引っ越すって話は先生してないんだって。」
「えー?双子なのに何で?」
「葵ちゃん家、お父さんとお母さんがリコンするんだって。」
「へぇ…だから引越しするのは葵ちゃんだけなんだ。」
「良かったよね、引越して転校するのが葵ちゃんだけで。」
「だよねー。私、春樹くんの事が好きだから、春樹くんが転校しなくてほんとに良かったよ。」
「私も颯太くんが好きだから、颯太くんが引っ越さなくて良かったぁ…」
「でもさ、颯太くんは卒業しちゃうじゃん?」
「でも中学校でまた一緒になるでしょ?」
「それもそうだね!」
高らかに笑うクラスの女の子達。
それを偶然聞いてしまった私はショックで、そんな話をしていた子達以外の友達も信じられなくなってしまった。
それ以来友達と言うものを作るのが怖くなってしまい、転校した先の小学校ではなかなか馴染む事が出来ず、そのまま卒業までの1年を過ごした。
私には1学年上の兄颯太と、数時間私よりも先に産まれた双子の兄春樹がいる。
幼い頃から、仕事の忙しい両親に代わって私と2人の兄を育ててくれたのは、お隣の中沢家のお母さん。
中沢家の3兄弟、4学年上の遼太郎、2学年上の慈朗、1学年上の充とは兄妹同然に育てられた。
私にとって幼馴染みは兄同然。つまり5人の兄達がいるのだ。
彼等は皆私を可愛がってくれた。
兄達は友達みたいに裏切らない。
私は兄達が大好きで、すごく仲が良かった。
あまりに仲が良かったせいで、ブラコンだとか、普通じゃないとか、気持ち悪いとかムカつくとか言われた事だってある。
揃いも揃ってイケメンだった兄達目当てで私と仲良くしていたクラスの女子達。
バレンタインには、私がたくさんのチョコレートを彼らに渡すように押し付けられ、私が引っ越す少し前の小学校の卒業式前には、1学年上の兄達に告白したいからと告白の場をセッティングさせられることが何度かあった。
私のいないところで、あんな会話をしていた子達が、「葵ちゃん、葵ちゃん!」と私を頼ってやってくる。
もう、辛くて、訳がわからなくて、人間不信に陥りそうだったのを救ってくれたのも兄達だった。
両親が離婚して、母に引き取られ離れて暮らすようになっても、私にとって彼らが心の支えだった。
母が再婚して、更に遠くに引っ越しても、やはり彼らが私の支えで、長期休みや連休の度に会えたから、辛いことだって乗り越えられた。
環境が変われば友達が出来るかも!と思い、中学校では頑張ってみたものの、別の理由で上手くいかなかった。
そんな時でも、兄達は優しかった。
そして、もう兄達に頼ってばかりではいけない、そう思い、高校入学を機会に心機一転、私自身が変わる事を決意したのだった。




