表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/83

16. 横山 花恵

「何それ…マジであり得ない…。」

「同一人物って事?」

「名前が一緒なんだって。みんな『アオイ』って呼ばれて…。正体暴いてシメる必要あるよね。」

「それがさ…1年で怪しい子がいるんだよね。」

「どういうこと?うちの1年!?」

「あのおしるこクリームソーダの子…あの子『葵』って名前なんだって。」

「マジで?あれって1-Cだったよね?」

「花恵が1-Cだよ?これ見せて聞いてみよう。」


 *****


 夏休み最終日。テニス部の練習の休憩中、私は先輩達に呼ばれた。

「花恵、ちょっと聞きたいこと有るんだけど良いかな?」

「ハイ!」

 呼ばれた先には学園でも目立つグループに属する3人の先輩がいた。みんな高梨・中沢兄弟ファンの中心人物で、先輩達のグループには、颯太先輩の彼女の結菜先輩と、春樹くんの彼女の絵里奈先輩もいる。

 その為、高梨・中沢兄弟情報は先輩達に聞くとすごく詳しく教えてくれる。時々、貴重な写真なんかも見せてもらえたりする。

 そんな先輩達が私に何の用だろう?


「花恵のクラスに葵っていう子いる?」

「はい。早瀬 葵って子がいます。仲良いですけど、葵がどうかしましたか?」

「その子って、おしるこクリームソーダの子だよね?メガネかけてない写真あったりする?」


 私は、スマホのアルバムのフォルダを開く。確か、ケーキバイキングに行った時の写真があったはず。


「えーっと…ありました。真ん中が葵です。」

 ノリちゃんと、葵と、早坂がケーキの載った皿を持っている写真。あの日の葵はとっても可愛かった。元が良いとは思っていたけれど、髪型とメイクで随分変わるものだ。普段仲良くしている私達でさえ、声をかけてもらわなければ気付かなかっただろう。

 スマホを渡した途端、先輩達がどよめいた。


「髪型…一緒。」

「間違いないね…。しかもまた男と一緒かよ?」

「あり得ないわ…。」

「花恵、この写真見てくれる?」

 そう言って、渡された先輩のスマホの画面には、ズームにして撮られたせいなのか、少し画質の粗い画像。


 葵だった。


「これってその子と同一人物だよね?」

「多分そうだと思います。」

「じゃあこれは?」

 浴衣を着た葵。泣きそうな顔をしていた。

「これは?」

 書店だろうか?小さくてはっきり顔がわからないが、葵に見える。

「後ろ姿だけど、これもそう思う?」


 最後に見せられたものもおそらく葵だ。ケーキバイキングの時と同じ服装だった。


「どう思う?」

 先輩達は怖かった。詰め寄られた。

「多分、全部葵だと思います。後ろ姿の写真の服、この時と同じ服だと思うので…髪型も一緒だし…。」

 先輩達の表情が怖かった。

「本当にあり得ない!」

「最低。」

「許せない…。」


 どうしたというのだろうか?葵は何か先輩達の気に障る事をしたというのだろうか?


「あの…葵がどうかしたんですか?」

 恐る恐る聞いてみる。

「花恵、あの子とは関わらない方が良いよ。」

「さっきの写真、もう1度見る?」

 そう言って、私にスマホを見せながら、ピンチインする。


 そこには、浴衣の葵と、手を繋いで歩く男の人。何処かの駅だろうか?

「これ、誰だと思う?」

 そう言って、今度は男の人の方をピンチアウトする。

「高梨…颯太先輩?」

「それだけじゃないの。高梨・中沢兄弟全員にちょっかいかけてるの。この女。」


 どういう事だろうか?


 葵は最近好きな人にフラれたと言っていた。それに、高梨兄弟は恋愛対象外だとはっきり言っていた。

 葵を疑っている訳ではないのだけど、はっきり写真を見せられてはショックだった…。


 休憩後は、とても練習にならなかった…。






「ハナちゃん!」

 部活が終わり、モヤモヤしたまま帰り道歩いていると、ノリちゃんに声をかけられた。

「ねぇ、話が有るんだけど良いかな?」

 ノリちゃんの表情が暗かった。

「うん。私も話したいことある。」

「早坂も呼んでいい?一応話しておきたい。」

「私もそう思ってた。早坂に電話かけるね。」




 30分後、学校の最寄り駅の、学校とは反対側にあるファミレスに3人で集まった。

「あのさ…。非常に言いにくいことなんだけど…。葵が、先輩達に目つけられてる。リナ先輩、泣いてた。慈朗先輩取られたって。それだけじゃなくて、颯太先輩にも、充先輩にも、春樹くんにも手を出してるって…。」

 慈朗先輩の彼女、リナ先輩は吹奏楽部の2年生。結菜先輩や絵里奈先輩とはグループが違うけれど仲がいい。

「実は、今日テニス部でも葵のこと聞かれた。画像見せられて…颯太先輩と手を繋いでた。」

「吹奏楽部では話しだけだったのに…証拠まであるんだ…。ショックだな…。」

「でも、信じられないよ…。」

「私も信じられない。」

 すごく重い雰囲気の中、早坂が口を開いた。


「あのさ…早瀬のオシャレの師匠のことなんだけど…。多分、充先輩…だと思う。」

 ケーキバイキングで聞いたオシャレの師匠の話。髪を結んで、メイクもネイルも、洋服のコーデもしてもらったと聞いた時、女子だと思って疑わなかった。ノリちゃんもそうなのだろう。目を見開いて驚いている。


「こないだのケーキバイキングの時さ、早瀬の髪の色、師匠と一緒だって言ってただろ?昨日充先輩に会ったんだよ。やっぱり同じ髪色だった。それに、花火の日、早瀬が来てた服、メンズでさ、師匠が貸してくれたって言ってたし、あの時のTシャツ、昨日充先輩が着てたんだよ…。他にもさ、花火の日、2人は同じ香水つけてた。」


「そもそも、花火ってなんで充先輩と春樹くんがいたの?」

「昼間、充先輩から電話かかってきたんだよ。わけわからん電話。貸してた雑誌をどうしてもあの日の夜返したいって。夏休み明けでも良いって言っても、用事があるから後日でって断っても、すげぇ粘るんだよ。どうしてもあの日返したいって。用事があるならそこまで持ってくから場所教えろって言って…。それで、6時過ぎに来て、参加させろって…まるで、花火するの知ってたみたいな…場所とか時間は知らなかったみたいだけど。断ると色々面倒臭そうだったからOKした。なんかさ、春樹には嘘ついて連れて来たっぽいんだよ。春樹はうちのクラスの集まりだって知らなかったみたい。バスケ部の集まりだって言われてたらしくてさ…。」

「そう言えば葵、あの日ちょっと変だったよね。ずっと片付けしてさ…。2人を見るなり不機嫌そうな顔してたし…。」


 葵は花火に参加しなかった。誘っても、みんなが楽しそうだから自分は良いって笑って言っていたけれど…。


「なんか、あの2人がいることを怒っていたみたいだった。多分、充先輩は早瀬に具体的な場所とか時間教えてもらえなくて、俺に聞いたんじゃないかな?」

「充先輩、時々葵のこと見てるんだよね…。」

「俺も、あの変なジュースの時以来、あの人に妙にからまれるんだよ。」

「そもそも、あのジュースもおかしかったよね?まるで早坂に飲ませたくないみたいなさ…。」


 味が知りたいなら、一口飲んでお終いな筈だ。葵も、春樹くんもあのジュースはまずいと言っていたし、充先輩自身もマズそうな顔して無理やりに飲んだ感じだった。


「もしかして、充先輩は葵の事が好きなんじゃないかな?早坂に、ヤキモチ妬いてるみたいだったもん。」

 ノリちゃんの言う通りだ。

「よく考えてみたらさ、高梨・中沢兄弟ってすごく仲がいいじゃない?なのに、全員にちょっかいかけてるっておかしいよね?そんなことしたって、すぐバレて相手にしてもらえなくなるか、4人がギクシャクしそうなものだけど…この前の充先輩と春樹くん見る限りそんな事なさそうだったし…。」


「ここからは俺の仮定の話。もしそうなら全て辻褄が合うんだよ。」


 そう前置きした上で、早坂は話し始めた。もし、早坂の仮定が事実だとしたら、先輩達に見せられた写真も納得出来る。

 そして、最後にそう考えるに至った根拠となる写真を見せられた。それを見た私とノリちゃんは驚きのあまり声が出なかった。


「俺、バイキングの時、早瀬が言ってたこと信じてみようと思う。きっと、あいつにも色々あるんだよ。」

 早坂が凄くカッコ良く見えた。



『あのね、私、3人に隠していることがある。今すぐ…は話す勇気がまだないけど…近いうち、そう言っても先になっちゃうかもしれないけれど、心の準備が出来たら絶対話すから…。ごめんなさい。』



 葵は、私達を信じて話してくれようとしている。私達だって、葵を信じて待つ事を決めた。葵には葵なりの事情とか理由があるはずだ。


 恐らく、新学期が始まったら葵は辛い思いをするだろう。私達に何ができるかわからない。力になれないかもしれない。でも、葵を支えたい。


 私達の思いは同じだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ