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14. 中沢 充

「葵、絶対怒ってたよな…。」

「ミツ、葵が花火しないでずっと片付けしてたの気付いた?」

「マジか?」

「いや、それこっちのセリフだから。気付いてないとかどんだけアホなんだよ?ミツがポイポイ投げてたやつも全部葵が片付けてた。早坂と一緒に。すげぇ怖い顔して…。気付けよ?何の為に行ったんだよ?帰りも見失うしさ…。っつうか、行くなら1人で行けよ…巻き添え食らわすな!」

「ハルだって楽しんでただろ?マジで早坂と2人で片付けしてたのか…。それで周りがあんな事を…。早坂許すまじ!」

「いやいや、ミツが悪いだろ?お前がポイポイ放り投げてるから葵が片付けるんだって、いつもの癖で。」

「何?ハルは俺の自業自得だって言うのか?」

「うん。それよりさ、どうすんだよ?家に入れてもらえなかったら…。」


 花火からの帰り道。葵をこっそり追いかけて、一緒に帰るつもりがいつの間にか居なくなっていた。

 不覚にも、花火を楽しみ過ぎて葵が何をしているか気づかなかったし、その結果、早坂と片付けしてるとか…俺が行った意味皆無じゃないか。

 そして当面の問題は家に入ることが出来るかどうか。最悪久しぶりに実家に帰る事になるのか?


 恐る恐る家に帰ると、チェーンロックまでは施錠されておらず、すんなり家に入ることができた。

 リビングでは慈朗が勉強していて、颯太がゲームをしていた。


「お前ら…っていうか充、葵に何かした?」

 ゲームをしながらの颯太に尋ねられる。

「ミツにさ、バスケ部の花火乱入しようって誘われて行ったらさ、葵のクラスの会で。多分葵をめっちゃ怒らせた。」

 ハルめ…裏切ったな…。

「充アホじゃねぇの?」

「充は葵にしばらく口きいてもらえないだろうね。」

「…葵は?」

「仏頂面で帰って来て、コーヒーとチョコ俺らに用意してくれて、シャワー浴びて髪乾かさないで寝た。」


 葵が髪を乾かさない時はすごく機嫌の悪い時。しかも、その原因が俺の時は決まってそうなる。


「俺…葵の髪乾かしてくる…。」

「我が弟よ…可愛い妹の寝込みを襲うな…。」

「その前に鍵かかって入室不可だと思うけど?」

「ミツ、やめとけ…余計機嫌損ねるぞ?」




 翌朝、起きると葵は朝食の用意をしていた。

「葵ちゃん、おはよ。今日も可愛いよ。大好き。」

 抱きつこうとしたら、案の定股間を蹴られた。動けない…。床でうずくまる俺は、颯太からの冷たい視線を感じる。

「充…アホ…。」

 颯太…酷い。とは言え先程は調子に乗り過ぎた。


「葵、おはよ。今日も可愛いね。大好き。」

「私も慈朗ちゃん大好き。」

 起きてきた慈朗が俺の真似をして葵に抱きつく。葵はこれ見よがしに、慈朗にハグして大好きまで言いやがった…。

 慈朗のドヤ顔、腹立つわ。


「葵ぃ!昨日はごめんね。ミツに嵌められた…バスケ部の花火だっていうから行ったらさぁ…。」

「良いよ、ハルは片付け手伝ってくれたもん。こっそり途中でごめんって言ってくれたし。」

「う…裏切り者…。」


「裏切り者はアナタだと思いますけど?」


 名前さえ呼んでもらえない…。

 間違えなく自業自得だ…。


 朝食はハムとチーズのホットサンドだった。俺以外。

 俺のだけ、食パンそのまま。

「サラダとヨーグルトもちゃんとあるから良いじゃん。葵ちゃん優しいねぇ。」

 颯太が旨そうにホットサンドを頬張りながら俺に言う。

 葵は俺がホットサンド好きなの知ってるはずなのに…。だから敢えてなのか…トホホ。


 それからバイトだった。

 夕食はみんなと同じものが出てきたがまだ俺とは喋ってくれない。

 みんなと同じものと言っても、俺の苦手なレバニラ炒め。葵もニラレバ食えないくせに、わざわざ作るとか相当怒ってるらしい。

 夕食は葵だけメニューが違った。いつもなら俺のも変えてくれるのに。

 そういや、遼太郎がニラレバ好きで、葵は食えないくせに頑張って覚えたんだよな。なんか悔しい。


 今日も葵は髪を乾かさずに寝た。




 さらに翌日。

「葵ちゃん、おはよ。」

「おはよ…。」

 名前は呼んでくれなかったけれど、挨拶はしてくれた。一歩前進。

 朝食もみんなと同んなじ。なんちゃってエッグベネディクト。俺の好物。美味い…美味過ぎて涙が出た。

 朝食後、片付けをしている葵に声をかける。

「葵ちゃん、一昨日はごめんね。」

 目は合わせてくれない。

「シャンプーして、ヘアパックして、ブローして、セットまでしてくれたら許してあげても良いよ。」


 洗面台の前に椅子を置いて美容院ごっこ。シャンプーして、ヘアパックして、超丁寧にブローをした。

 それから、顔のマッサージしてパックして、しっかりメイクして、髪もこないだ遼太郎がしたよりも複雑で可愛く編み込んでセットして、ネイルも磨いて塗り直した。

 最後にこないだと一緒の香水もつけて完成。

「葵ちゃん、今日は特別可愛いよ?俺スペシャル。」

「ありがとう。みっくん。」


 久しぶりに俺に向けられた笑顔にホッとする。

 葵は一昨日の事を許してくれた。

「昨日は私も意地悪してごめんね。」

「葵ちゃんがチュウしてくれたら許してあげる。」


 葵がしてくれたのはチュウじゃなくて鳩尾へのグーパンチだった。

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