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12. 中沢 充

「みっくん、今日の予定は?夕方空いてる?」

「葵ちゃん、どうしたの?葵ちゃんのためなら空けとくよ?バイトは4時には終わるしね。」


 葵がごく稀に機嫌のいい時とか、俺に頼み事をする時にだけ「みっくん」と呼ぶ。幼い頃はずっと「みっくん」だったのに、いつの間にか「ミツ」になっていた。

 今日はどうしたのだろうか?ちょっとワクワクしながら返事を待つ。

「あのね、夜出かけるから、コーデして欲しい。髪の毛もお願い。」

「えっと、そのお出かけ、僕は一緒に行けるんでしょうか?」

「行けるわけないじゃん。1-Cで集まるんだもん。みんなで花火するの。」

 ショック!頑張れ、俺。立ち直れ、みっくん!

「だからさ、髪の毛黒くして欲しいの。それと、地味目なコーデ。」

 そう言うことなら、仕方ない。とびきり可愛くするのは断固拒否だ。


 この前、友達とケーキビュッフェに行くと言うから、俺好みに可愛く仕上げたら、メンバーの中に早坂がいた。スカートも短かったし、デコルテの広い服なんて着せなければ良かった…。あいつに可愛い葵ちゃんを見せるという大失態を犯してしまったのだ。


「それって、やっぱ早坂いるの?」

「もちろんいるよ?だって言い出したの早坂くんだもん。」

 早坂許すまじ。俺は夏休み中、葵と1度も出かけてないって言うのに、あいつはケーキビュッフェに行って、花火もするだと?

 悔しい。悔しすぎる。おしるこクリームソーダの時、間接キス狙ってたし、要注意人物だ。

 とは言え、可愛い葵ちゃんのお願いを聞かないと言う選択肢は無い。


「もちろん良いよ。どこで花火するの?何時から何時まで?」

「え?何で言わなきゃなの?言ったらくるでしょ?」

「酷いなぁ、それによって服装とか変わるし、髪型とか変わるから。何時からセットするとかさ?」

 マズイ、バレてる。気を確かに持て、頑張れ、俺。

「家を6時位に出るかな。花火は河川敷でするよ。9時過ぎには帰れるんじゃない?」

 ドンマイ俺…。俺って結構信用されてないな。

「じゃあ、5時に始めたら間に合うね。服は今選んで良い?クローゼット見せて。」

「うん、お願い。」


 河川敷なら蚊も多いだろうし、ボトムはデニムが良いはず。それから、上はなるべく露出が少なくて…。体のラインが出なくて…ってそんな服が無い!一緒に選ぶことも多いし、『似合う服はこういうのだ!』とオシャレの師匠の肩書きを使い葵に洗脳を続けた結果、葵のクローゼットにあるのは俺好みの可愛い服ばかりだよ…。どれも割と細身だし、デコルテはエロくない程度に開いてるし…。

 うーん、どうしよう?探せ、探すんだ!俺。……俺?俺の服!そうだ、俺の服があった!!


「葵ちゃん、河川敷だよね?蚊がいっぱいいるよ?だからさ、肌はなるべく出さない方が良いと思うんだ。だから、このデニムと、上は俺の貸してあげる。少しゆったりするから、葵のTシャツとか、シャツより涼しいよ。」

「流石師匠。見た目だけじゃなくて着心地とか、色々考えてるんだね。」

「そうだよ、オシャレは我慢するだけじゃ無いんだよ?はい。これ着てね。」

 葵が可愛いと褒めてくれた世界一有名なネズミのプリントのTシャツと、白いボタンダウンの長袖のシャツを渡す。

「このTシャツ可愛いから好き。みっくん、ありがとう。」




 葵の「みっくん」と「ありがとう」が嬉しくてバイト中もウキウキしてしまった。そして、あることに気付く。


『葵が教えてくれないなら、言い出しっぺに聞いたら良いって事?』


 俺、ナイス!

 即早坂に電話をかける。口実は…こないだ借りたバスケの雑誌。返すって事で。


「もしもし…早坂?前に借りてた雑誌返したいんだけど。いつって?今日の夜。7時ごろ?え?用事?どこで?…」


 意外にあっさり聞き出せた。学校近くの橋の下の河川敷の広場に6時半集合。

 ちょっと早めに行って、仲間に入れてもらおう。もちろんハルも誘う。これで、葵の怒りが分散するし☆




 ウキウキで帰宅。

「葵ちゃん、ここに座って。」

「みっくん、よろしくお願いします。前髪はこのままが良い。」

「うん、わかった。服が暑い分、髪の毛はスッキリまとめようね?」

 頭のてっぺんでお団子。逆毛を立ててボリューム出して…うん、可愛い。このままの方が好きなんだけど、スプレーで黒くする。

「1度ケープ着てもらって良い?服が汚れちゃうから。」

「もちろん。」

 顔にもタオルをかけて、満遍なく黒くスプレーを吹きかける。途中、色ムラがないか何度もチェックして完成。

 葵はメイクしなくて良いと言うが、うっすらメイクする。ハルで散々練習した事がこんな形で役に立つとは思わなかった。

 実は、ハルにメイクするの楽しかったんだよな。双子だけあって、女装したハルは葵に似ていた。小さい頃は時々一卵性の双子に間違えられる程似ていた春樹と葵。いつからか、葵が髪を伸ばし始め…あれって絶対遼太郎意識してだよな…。


 最後に、柑橘系のユニセックスの香水を首筋につける。もちろん自分にも。

「葵ちゃん良い匂い…。」

 首をクンクンしたら怒られた。

「ミツありがとう。」

「みっくん」から「ミツ」に戻ってしまったけれど、原因は俺なので仕方ない。

「葵ちゃん、今日も可愛い!メガネ忘れないでね?」

「すっかり忘れてた。ありがと。」

「じゃあ、俺雑誌を友達に返しに行ってくるから。じゃあ花火楽しんで来てね〜!」


「またすぐ会えるけどね。」とは間違っても言えない。

 今日はあんまり可愛くならないようにと思ったけれど、結局可愛くしちゃったよ…。


 まぁ俺も花火に参加するから良いとしよう。

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