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11. 中沢 慈朗

「慈朗ちゃん、ここ教えて。わからない。」

「これは…使う公式間違ってるよ?これじゃなくってこっち。」

「あ、ほんとだ…ありがとう。自分でやってみる。」

 さりげなく置かれたカフェラテとクッキー。

「ありがとな、葵。」

 声をかけると顔を上げてニコッと笑ってすぐ問題を解き始めた。

 葵とは血が繋がっていないが、俺の妹と言っても過言ではない。そして、俺は自他ともに認めるシスコンだ。颯太に言わせると、俺が1番葵に甘いらしい。


 冷房の効いた部屋で温かいカフェラテを飲む。なぜか葵は欲しいものを欲しいタイミングで出してくる。幼い頃から一緒に過ごしてきたせいだろうか?一緒に過ごせなかった4年間のブランクがあってもなお、絶妙なタイミングなのだ。それどころか、ここ数ヶ月の方の気遣いの方が更に上だ。

 ガチャリ。

「あ、颯ちゃんお帰り。」

「葵、ただいま。」

「何か冷たいもの飲む?」

「うん、適当によろしく。」


 すぐに、アイスのカフェラテとミネラルウォーターを持ってきた。カフェラテにはガムシロップが添えられていた。

「葵、ありがとう。葵は良いお嫁さんになれるよ。」

 颯太は、葵の頭をぐしゃぐしゃ撫でまわす。颯太は機嫌が悪い時、無意識でそうやる癖がある。すると、機嫌が少し直るのだ。

「颯太、何かあったのか?」

「まぁね。なんだろうね、よく出来た可愛い妹がいると女を見る目がシビアになっちゃってさ。」

 そう言って、ミネラルウォーターを一気に飲み干し、アイスカフェラテにガムシロップを入れる。

「半年前まで我慢出来た事が出来なくなったって言うか、向こうも図々しくなったって言うか。そろそろ我慢の限界に近い…って言うか越えてる。」

「で、別れ話をしたら拒否された訳ね。」

「慈朗くん、正解。超絶面倒臭い。」

「俺も同じこと1ヶ月前にしてるからね。気持ちは判るよ…。」

「で、どうした?」

「もう少し節度があればたまに会っても良かったんだけどね…流石に耐えられなくてさ。夏休みは1度も会わないって宣言して、ここに引きこもってる。」

「確かにここ、場所も良いよな。オフィス街だから、多少フラフラしても生徒に会わないし。」

 颯太が言う通り、駅からは少し離れているし、周りも高校生が用の有る様な店が少ないため、葵が一緒に出かけてくれるのだ。

「あれ?葵出かけるの?」

「うん、本屋さん行こうかなと思って。」

「俺も用事あるし、一緒に行こう。」


 葵と出かけるのは実家に帰った時以来。あの日一緒に見るはずだった花火の前に葵は帰ってしまった。

 葵は遼太郎にちゃんとフラれたのだ。今まで遼太郎は葵に思わせぶりなことばかりしてきた。彼なりに態度で示してきたと言うが、それと同じだけ期待させる様な事も言ってきた。我が兄ながら最低だった。

 いくらお願いされたからとは言え、最後にキスをするあたりがムカつく。俺以上に、充が腹を立てていたけれど。


「オフィス街の店には流石に無いか。」

「だよね。駅前まで行こうかな。」

 別々に行きたいと言い出すかと思いきや、俺を拒否する事なく一緒に歩いてくれて嬉しかった。

 葵が俺たちと他人のフリをしたいと言うのも頷ける。俺たちのせいで今まで辛い思いをしたのは葵だ。中学時代は不名誉な噂を流されて虐められ、その前は、兄達のおまけの扱いとか、兄達(我が兄弟も含む)目当てで葵と仲良くする友人も多かった。

 葵は、彼女を1人の人間として、決して誰かのおまけじゃなく見てくれる友人が欲しいのだと言う。

 今、彼女にはそんな友人がいる。しかし、俺たちとの関係を明かして変わってしまうのではないかという不安と戦っているのだ。


 そんな事を考えているうち、会話の無いまま書店に着いた。

 それぞれ、探していた参考書や問題集を見つけた。

「葵、何見てるの?」

「遼ちゃんこの漫画好きだったな…って思って。途中まで読ませてもらってたけど、続き読んで無かったからさ。」

「そっか。でももう遼太郎も処分してたぞ、その漫画。」

「もう昔の遼ちゃんとは違うんだよね。わかってるんだけどさ…それに……ううん、なんでも無い。ごめん。こんな話聞きたくないよね。」

「別に構わないよ。吐き出して楽になるなら吐き出せよ。いつでも話聞くし。」

「ありがとう。」

「じゃあ行こうか。」

 にっこり笑って頷く葵。思い出して泣かなくなったのは大きな進歩。


 可愛い妹には涙よりも笑顔が似合う。


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