僕は馬鹿
作者の体験談です。そういうのが嫌いな方は見ない方がよろしいかと。
僕は月に一回位の確立でカラまれます。
人相の悪い人達にカラまれます。
友達には「お前も相当悪いよ」と言われますが気にしません。
ある時は突然後ろから現れた茶髪のお兄さんに、携帯電話を奪われて目の前で真っ二つに圧し折られました。
またある時は、歩道を歩いていたのにもかかわらず、後ろから現れたオートバイに乗った見知らぬお兄さんに「○○(本名)、金貸してくれよ」と財布を持っていかれたりしました。勿論その後取り返しました。未だにあの人が何で僕の名前を知っていたのか解りません。
かく言う僕も中学時代は相当腐っていたので、問題のネタの元凶が僕にある可能性も否定できませんが。
そんなこんなで、僕の身の回りではそういう“ネタ”になる出来事がつきません。
なので、もうヤケクソという事で、その中でも面白い話を一つ皆さんにお届けしたいと思います。
あれは今から二年前の事です。
僕はあの頃親戚の家によく出入りしていて、あの日も僕は親戚の家でのんびりトランプでもしていたのです。
が、いい加減一時間に及ぶババ抜きに嫌気が差した僕は、親戚の家の周りを散歩する事にしました。
親戚の言えども、言ってみれば未知の土地です。
家には行っても、その周りを見てみる機会はそれまでありませんでした。
休日に山を見て回ると言うお年寄りのような趣味を持っている僕です。散歩をするのに抵抗なんてありません。むしろ鼻歌交じりです。
そんなこんなで親戚の家を出、僕はトコトコとポケットに手を突っ込みながら家の周りを徘徊し始めました。
散歩を始めて五分ほど経った時だったと記憶しています。
目の前に然程大きくない交差点が目に入りました。
交差点というか、車一台が通れる道を交差させただけの、信号も無い道です。
僕はそこを、カーブミラーを確認することなく渡ろうとしました。
確かにそれは僕が悪かったかもしれませんが、実際、歩きでカーブミラーを見る人も少ないでしょう。
交差路へと歩を進めた時です。
ドンッ
と、僕の体の右側に、何かがぶつかりました。
それが“人”だと気付くのにそんなに時間を有する事なく、「あ、すいません」と、僕は軽く頭を下げてその場から去ろうとしました。
すると、僕の後ろから声がしたのです。
この声を、僕は一生忘れません。今から二年前の事なのに、今でも鮮明に覚えています。
声は、こう言いました。
「どこみれってんだぉらあぁッ!」
忠実に書いたつもりです。確かに僕の耳にはそう聞こえました。
『どこみれってんだぉらあぁッ!』。多分「どこ見てんだコラ」と言いたかったのを、いい間違えたか何かしたのだと思います。
僕は思わず後ろを振り返りました。
ああ、ガラの悪い人が仁王立ちしているのだろうな・・・。
そんな考えを頭に、振り返った先。
「?」
そんな人は居ませんでした。
ただ、一人普通の男性が立っているだけです。その男性というのも、一クラスに一人は居るような、窓際で一人で座っているような人です(失礼ですが)。
歳は僕と同じか、少し上くらいの人でした。
え?
この人が言ったの?
僕の頭は一瞬混乱しましたが、その人がアカラサマに僕を睨みつけているので、“そう”だと理解できました。
男性はもう一度言いました。
「どこ見てんだ」と。
今度はしっかり言いました。
改めて聞いて思ったのですが、その人の声と言葉とでは、やはりギャップがありました。
とても、普段そんな事を口にしなさそうな人なのです。
何がこの人をこんな風に・・・?僕はそんな厄介なぶつかり方をしたのだろうか・・・?
考えながら、ふと、その男性の後ろに目をやると、
あ。
原因発見。
恐らくその男性の彼女だと思われる、一人の女性が立っていました。
女性は不安そうな顔で、「やめようよ・・・」とか、「ダメだよ・・・」と男性を抑えようとしています。
そこで僕は“ピーン”ときました。
つまり、この男性はこの女性に、“強いところ”もしくは“カッコイイ(人にカラむ事がカッコイイとは思いませんが)”とこを見せたいと思ったのでしょう。
確かに、男性も緊張しているような顔をしてなくもなかったです。
なので僕は、
「あ、本当にスミマセン」と深く頭を下げました。
本当に深く頭を下げました。
男性に華を持たせる感じで。
そしてもう一度その場を去ろうとした、その時、
僕の推測ですが、男性は思ったのでしょう。
『コイツなら“イケる”!』と。
『コイツなら、彼女の前でかっこいいところを見せるための、糧にできる!』と。
男性は僕に向かって叫びました。
「待てコラ!」と。
僕は少し堪忍袋の緒を緩めつつ、
「はい?」
と振り返りました。
すると、男性は突然、
「金を出せ」的な事を言い始めました。
一つ言っておくと、僕がその時歩いていたのは、そこそこお金を持っている人達があつまる住宅街でした。だから、そこを歩いているその人達は、確実に僕よりもお金を持っているという事です。
何でそんな人達に僕が金を?
そう思うと若干腹が立ちましたが、もう男性の彼女が半分泣きそうになっていたので、
「スイマセン、今持ってないんです」と僕は笑顔で答えました。
すると男性は僕の腰の低さに気を良くしたのか、その後もぐいぐい僕に突っ掛かってきました。
その都度、僕なりの“柔和な態度”で対応をしていたのですが、そのやり取りを三回ほど繰り返すうち、段々僕もいい加減腹が立ち始め、
四回目の男性の言葉に、つい、
「あぁ?」
と語調を荒げてしまったのです。
すると男性は若干怯みながらも、彼女の手前引くことも出来ず、「何だよ!」と強気な対応を見せてきました。
が、もう「あぁ?」と言ってしまったので、僕も引くのは嫌になり、
「あんまり調子に乗ってはいけまんよ?」的な事をその場の空気にあった語調で男性に伝えました。
す
る
と
、
何を思ったのでしょうか。食われるとでも思ったのでしょうか。
男性は突然、「う、うわぁああ!」と声を上げながら、僕の左頬にパンチを見舞ってきたのです。
えぇ・・・ッ!?
当たる瞬間にそれなりに顔を動かしましたが、それでも結構な力で殴ってきたらしく、歯が若干欠けました。今でも欠けたままです。
殴られた体勢のままで、恐らく三秒ほどの間がありました。
僕は顔を右に向けたまま、痛む頬を気にも留めず、心の中で葛藤していました。
ダメだ怒っちゃダメだ男性には彼女がいやしかし殴られたしないやいや彼女がいるんだからでも殴られてんのよここは堪えないといやいや結構頬痛いってばいやしかし・・・。
そんな事を考え、湧き上がってきた怒りを抑えようとしたときです、ふと、男性の彼女が目に入りました。
男性よりも少し低い背をした女性です。厳密に言えば160cmくらいでしょうか。結構キレイな顔をした方です。髪も長く伸ばして、清楚な印象を受けます。
そこまで考えて、
何故でしょう。
怒りが再燃して来ました。
そして、
「っんだらボケェッ(解明不可)!!」
男性のお腹に右ストレートをば一閃(正当防衛です)。
「げろっぱ」的な声を発しながら、男性は地面に膝をつきました。
「うぅぅ・・・」と軽いうめき声が挙げながら、お腹を抱えて蹲ってしまいました。
そんな男性に寄り添うように、或いは男性を庇うように、女性が僕と男性の間に入り込みました。
男性の隣に座り込み、男性を抱きかかえるようにしています。もう、号泣してます。
そして、
「ゴメンナサイゴメンナサイ、許してください・・・」と嗚咽交じりに謝罪してきました。
何でしょう。
今から冷静に考えると、あの構図はどこからどう見ても僕が悪者です。
正義の味方があの状況を見たら、絶対に向こうの味方をするはずです。
だってあの状況を僕が客観的に見たら、絶対に向こうの味方します。
警察の方が来たのなら、間違いなく僕が捕まります。
なんなら、僕が笑い声を上げて彼女さんを連れ去ってもなんら違和感ありません。
しかし、
あの時の僕は馬鹿でした。
あの状態にありながら、
何故か“自分に酔っている”状態になっていたのです。
多分、『これで二人の愛は深まるのだろう』的な事を考えていたのだろうと思います。
もう、僕の中では“僕=恋のキューピット”という図式ができてしまっていたのです。
傍から見たら、恋のキューピットどころか、ただの鉄の弓矢を持った狂人なんですが。
しかし、酔っている僕はイタさ爆発です。
何故かその時、『捨て台詞を残してこの場を去ろう』と考えたのです。
そして僕は考えました。
どんな台詞がカッコイイのだろう?と。
彼女に「彼氏をしっかりと見張っとけ」的な事が言いたかったのですが、あまり長くなると噛んでしまいそうだったので、それを短く完結に、とあれこれ考えた結果、
僕の口からでた一言は、
「縛っとけ」
でした。
もはや意味が解りません。
ただの変態です。
『縛っとけ』って、何ですかそれ・・・。
しかし僕はもう止まりません、踵を返し、振り返ることなくその場を後にしました。
そうです。面白い話。面白いのは僕本人です。
今回は戒めのつもりでこの話を書きました。
きわめて、実話に忠実です。
つまり、僕は馬鹿、というお話です。
笑ってください。
できれば、盛大に・・・。
この話の一年後、つまり去年、僕はこの男性と彼女さんと、偶然再会しました。その話はまた次回。という事で。
楽しんで頂ければ幸いです。どうか盛大に笑ってやってください。