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吸血鬼の慟哭  作者: 不田 颯奈夜
第二章
9/24

part3

 私の名前を呼ぶ叫び声は、木霊して居る所為か、何の方角から聞こえるのか全く判らなかった。

 後からも前からも、右からも左からも、声の大小、高低の差異は在れ、私の名前が聞こえて来た。

 私は耳を塞ぎたく為った。私が追われて居る。そんな紛れも無い現実から逃避したかった。

 ――耳を塞ぐ位じゃ何も変わらないよ。

 でも、現実に向き合うより、目を逸らす方が遥かに楽だ。

 ――でも、其れは一時凌ぎにしか為らない、一瞬で消えてしまう楽。

 そんな事は分かってる。でも、現実に向き合うのは辛くて苦しい。

 ――じゃあ、如何するの?

 此処で耳を塞いで、目を瞑って、追手から逃げる。

 ――逃げられてないよ。

 五月蝿い……。

 ――其れは、単に追手《現実》の存在を忘れる丈だ。

 五月蝿いよ……。

 ――其の儘じゃ、私《君》は追手《現実》に捕まる。私《君》は追手《現実》に捕まるのを大人しく待つ丈なのかい?

 五月蝿い!五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!

 分かってる。解ってる。判ってる。

 私の現状も分かってる。私がしようとしている事が何なのかも解ってる。此の儘だと如何なるのかって事も判ってる。

 でも、如何しようも無いじゃないか。

 今の私には、如何しようもない……。

 私の思考に対する返事が無く為った。誰の声だったのか。

 御母さんの声? 似て居たけど、違う。似て居た丈。

 神様の声? そんな物を聞ける程、私は敬虔ではないし、そんな物の存在も信じてない。

 幻聴? 一番近い気がして、然し間違って居るとはっきり感じた。

 そうだ、彼れは、私の声だ。私の心の中の声。だが、私の理性の声だったのか? それとも本能の声か? 答は出ない。多分、其の両方共で在り、其の両方共でないのだ。両方の混ざった深層意識の私への忠告。

 然し、其の声は聞こえなく為った。私の今の意志が勝ったのだ。

 私は両手で耳を塞いだ。近くに在った大木の幹に出来て居た穴の中に潜り込んだ。穴は深く、暗く、そして草で覆われて居て好都合だった。私は目を瞑った。少し湿った土の上に蹲った。此の状態で此処に居れば、追手《現実》から確実に逃げられる。そんな根拠の無い確信が有った。

 眠気が襲って来る。一晩中走って逃げ回ったのだ。疲れて居ない訳が無い。私は其の眠気に身を任せた。

 不用心? そんな事は無い。だって、私は今、絶対に追手《現実》に見付からない、安全な場所に居るんだ。不安要素は全く無い。

 私は身体を其の睡眠欲求に任せた。

 そうして私が眠りに落ちてから、何時間が経ったのだろう。

 私は、唐突に目を覚ました。本能的に。辺りはもう真っ暗だ。一日が過ぎたのだ。

 私は一日逃げ切った。諸手を挙げて喜びたく為る。

 と、足音が聞こえた。私の居る穴に近付いて来る。

 追手《現実》が迫って来て居るのか。私は矢張り逃げられないのか。

 いや、そんな事は無い。此の場所は、絶対に安全だ。

 ――未だそんな思い込みに囚われて居るのかい、私《君》は。

 聞こえなく為った筈の彼の声が又響く。

 ――追手《現実》からは、逃げられないよ。

 逃げられる! 私は今日一日を逃げ切った! 明日だって明後日だって、逃げ切って見せる!

 ――無理だよ。飲まず食わずで居る気かい?

 言い返せない。

 そして、そんな事を思って居る間にも、足音は近付いて来る。

 そして、足音が止まった。

 ……私の居る穴の前で。


 颯奈夜です。

 お楽しみ頂けているでしょうか。

 さて、次回の出来次第でホラーのジャンルを取り下げるかもしれません。

 このままだとホラー要素が零に等しくなりそうだし、かといってホラーに無理矢理持っていってつまらなくしたくない、という感じです。

 其の辺りの動向にも注目して頂いて楽しんで貰えればと←

 其れでは又次partで。

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