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吸血鬼の慟哭  作者: 不田 颯奈夜
第一章
6/24

part5

“御医者様! 御医者様! いらっしゃいますか? 夜分遅くに済みません! 私です!”

 御医者様の家の扉を叩きながら、家の中に向かって叫んだ。

 反応は早かった。叫び声が私の声だと直ぐに判ったからだろうか。

 ドタドタと音がして、其の音が止むと同時に扉の錠が開く音がした。

 扉が開き、深刻そうな顔をした御医者様が出て来た。

“如何したんだい? 御母さんの容態に何か変化が?”

 御医者様が真顔でそして早口で私に訊いた。

“うん、御母さんが動かなくなったの。高い熱を出して、血を吐いて、呼吸をしなく為って……。御母さんは生きてるよね、御医者様? 死んでなんか居ないよね?”

 私は御医者様に訊ねた。

 ――否、自分に言い聞かせて居たのだ。母は死んでなんか居ないと。生きて居ると。

 御医者様は何を言えば良いのか分からない様な、困った顔をした。其れもそうだろう。動かなく為って、呼吸をしなく為って……そんな状態で人が生きて居る訳がない。

 御医者様は其の場を繕おうとして呉れたのか、

“兎に角だ、取り敢えず御母さんの事を診てみないと何も分からない。御母さんの所に行こう。出来る丈早く。”

と言った。母の死を認められない私は勿論其れに従い、御医者様と二人で家迄走った。

 家に着くなり私は御医者様を母の許へと連れて行った。御医者様が直ぐ様母の傍に蹲り、母を診た。

“御医者様、御母さんの容態は如何でしょうか。動ける様に為りますか? ちゃんと呼吸出来る様に為りますか? 未だ未だ、私と一緒に暮らし続ける事が出来ますか?”

 諦めが悪い。私は未だ母の死を認められない。

 御医者様が静かに口を開いた。否、私を諭したと言うべきだ。現実を受け入れられない私を。

“良いかい? 良く聞くんだ。君の御母さんは……亡くなった。もう動く事も出来ないし、呼吸もしないし、君と暮らし続ける事も出来ない。未だ君には酷な話かも知れないが、受け入れるしか無いんだ、現実を。”

 現実を受け入れるしか無い。理解して居た……頭では。心が追い付いて居ない。心が理解を拒む。

 そんな中、次に御医者様が口にした言葉は、私の頭と心に革命を起こした。


“でも、たった一つ丈、若しかしたら御母さんが生き返られるかも知れない可能性がある”


 疑問符が頭に浮かんだ。死んだ御母さんが生き返られる? 怪しい。そんな事が在る訳が無い。言葉を頭で理解出来ない。

 一方で、心が其れを受け入れた。御母さんが生き返られるかも知れない。其の言葉は、甘い蜜の如く魅力的で、私の心を惹いた。

 気付くと、私の口からは、

“本当ですか、御医者様! 如何すれば良いですか! 御母さんが生き返るなら、私、何でもします!”

と言う言葉が発せられて居た。

 私は叫んで居た。縋る思いだった。

 御医者様は答えた。

“何も難しい事は無い。唯、此れから僕と一緒に御母さんを連れて、領主様の許に来て呉れれば其れで良い。但し、出来る丈早く。余り遅く為ると手遅れに為ってしまうかも知れない”

 私は絶句した。此れから母と領主様《人で無し》の許へ行く? 有り得ない。何をされるか分かった物ではない。何としてでも避けなければ。

“急ぐよ。僕は御母さんを連れて行く。君は僕に付いて来るんだ。良いね?”

 御医者様が御母さんを抱き抱える。そして家を出て領主様の邸が在る方角へ歩き出す。 私も其れに従う。否、従う振りをする。途中で隙を見て逃げ出す。当たり前だ。

“領主様の邸迄は少し距離が在るけど、歩くよ? 構わないね?”

“はい”

 御医者様が私に話し掛け、私は適当に答える。暫く御互い無言で歩き続ける。

 数分待つ。御医者様の意識の中から私の存在が薄れるのを。

 そして、今なら行ける、そう思った瞬間。

 私は、逆方向へ全力で走った。

 御医者様が直ぐに私の行動に気付く。

“こら、何処へ行くんだ! 待つんだ!”

 御医者様が叫ぶのが聞こえる。然し、言われて待つ程私は馬鹿ではない。

 御医者様が私を追い掛ける足音が聞こえる。

 然し、御医者様は母を抱えて居る。御負けに灯の無い真っ暗な真夜中だ。御医者様を撒くのは容易だった。

 私は、一先ず森の中に逃げ切った。そして宛ても無く森の中を歩く。

 逃げて居る間は無我夢中で無心だったが、逃げ切って落ち着くと思い浮かんでしまった。母の事が。

 母は死に、其の躯は無慈悲な領主様《吸血鬼》の許へ。

 私は泣いた。哀しくて。そして悔しくて。

 そう、悔しかった。母の躯が領主様《人で無し》の許へ連れ去られてしまった事が。

 そして、優しかった御医者様に裏切られた事が。

 御医者様が領主様と繋がって居たなんて、信じたくない、嫌な事実だった。

 私は此れから如何生きて行こう。考えながら、ふと気付いた。

 私は、頭でも、そして心でも、母の死を受け入れて居た。


 ジャンルをホラーにした事を底はかと無く後悔している颯奈夜です。今回前書きは有りません。

 この感じで書いて行くと全くホラーじゃなくなるかも……。恐怖の入る余地が無くなって来ました……。

 ジャンル変更も視野に入れている颯奈夜です←

 さて、第一章はこれでおしまい。次話から第二章に入ります(予定)。(予定が狂ったらごめんなさい)

 これからも読み続けて頂けると嬉しいです。

 あ、因みに計100アクセスを超えました。読者の皆さん、ありがとうございます。

 ではまた次話で。

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