part3
前書き必要? とか思い始めました。颯奈夜です。
今回は連騰します。一、二時間後をお楽しみに。
御医者様は男性だったので、母の躯を洗うのは私の役目だった。
タオルを水で濡らし、母の躯全体を拭く。
私が其れに気付いたのは、母が体調を崩し、私が母の躯を洗う様になってから何日目だったか。
母の右脚の内太股に真っ黒な痣が出来て居た。黶を大きくした様な、円形に近い黒い痣が。
此処で私は今の村の状況に就いて説明するべきだろう。
村では病が流行って居た。患者の躯に黒い痣が出来、其れが大きく広がって行く。痣が出来た部分は感覚が麻痺する。痣は軈て全身に広がって行き、そして死に至る。
此の病は流行り病なので、何らかの方法で他人に感染する事が分かって居るらしい。
だから、此の病の罹患者は、領主様の命に拠って連れ去られ、隔離されて居ると言う。
領主様は“吸血鬼”と陰で呼ばれて居た。
冷血で、無慈悲で、人で無し。
実際の所、領主様が“吸血鬼”と呼ばれ始めたのは、或る村人が領主様が人間の首許に口を寄せて居たのを目撃したからだそうだが。
其の時、領主様が本当に血を吸って居たのかは定かではない。
其れは扨置き、若し母の此の黒い痣が見付かったら、母は領主様に連れ去られる。
私は何としても、母の黒い痣を隠し通さなくては為らなかった。仮令、御医者様が相手でも。
隠し通せなければ、母は拐われる。私の許から居なく為る。
私の許から居なく為って、何をされるか分からない。
無慈悲な領主様に殺されるかも知れない。
私の知らない内に死ぬかも知れない。
其れ丈は避けたかった。
時はどんどん流れて行った。母の痣はどんどん大きく為って行った。そして、母の容態はどんどん悪化して行った。
御医者様の母を診る目もどんどん険しく為って行った。
そして数日が経った或る日、母の容態が明らかに酷く為った。
唐突だった。
母の身体は殆ど動かなく為った。腕を上げる所か、指先を動かすのにさえやっとになった。
御医者様も焦りを見せた。
“如何してこんなに容態が悪化したんだ……”
そんな言葉が口から飛び出した。
“まさか……。御母さんの躯を洗う時に、黒い痣を見付けなかったかい?”
御医者様が私に訊ねた。
正直に答えたら駄目だ。御母さんが私の前から居なく為ってしまうかも知れない。
“黒い痣? そんな物は無かったと思いますけど”
私は嘘を吐いた。
“そうか……然し此の症状は……”
御医者様はパニック寸前の様だった。
“取り敢えず、僕は今日はもう帰ろう。御母さんの容態が可笑しくなったら真夜中でも直ぐに僕を呼びに来るんだ。いいね?”
“はい”
反射的に肯定する。
“良し、良い子だ。じゃあ、御母さんを頼んだよ”
こう言い残して御医者様は帰って行った。
私は、嘘を吐いた事を後悔した。
――死と言う奴は、矢張り唐突だった。




