part1
「準備は既に整ってるよ。もう暗くなったし、領主の邸に攻め込むのは何時でも構わない。後は君の心の準備次第だよ」
先生が言った。
先生の本来の目的は吸血鬼狩。然し、私の罹患した流行り病の治療に就いても請け負って呉れた。邸に何らかの鍵が在る筈だと。
そして、明らかに足手纏いにしか為らないで在ろう私を連れて行って呉れると言う。
本当に今の私は御荷物だ。只でさえ役に立たない私なのに、躯の大部分が黒ずんで麻痺し、動きが可也鈍く為って居る。確実に先生の邪魔にしか為らない。
其れでも私は先生に甘える事にした。此の病が治る可能性が在るならば、私は其れに賭けたい。死にたくない気持が未だ強く有った。
正直、怖い。吸血鬼かも知れない領主様の邸に踏み込むのだ。殺されても可笑しくない。だけど、何もしないと私は唯死ぬ丈なのだ。死ぬなら何かして死にたい。何もせずに死ぬなんて御免だ。
うん、心の準備は出来た。行こう。
「先生、行きましょう。足手纏いにしか為らないと思いますが、其れでも宜しく御願いします」
「分かった。じゃあ行こう、一緒に。領主の邸迄の案内を頼むよ」
「はい」
先生に案内を頼まれたが、先生の事だ、屹度既に調査して居て、領主様の邸の位置なんて把握して居るだろう。先生は私に役割を呉れたのだ。御荷物でしかない私に仕事を与えて呉れたのだ。
私は先生の優しさに応える。迚も簡単な仕事だけど、遣り通す。
動きの鈍い躯を何とか運ぶ。時間は掛かった。其れでも何とか私は仕事を果たした。
「先生、此処が領主様の邸です」
「案内、御苦労様。有り難う」
先生は迚も優しい人だ。こんなに簡単な仕事だったのに、御礼迄言って呉れた。
さぁ、私の仕事は終わった。後は出来る限り先生の邪魔に為らないよう尽力する丈だ。
邸は鉄の巨大な扉で閉ざされて居た。先生は如何遣って中に侵入するのだろう。
そんな事を心配して居ると、先生が言った。
「今から君に魔術を見せるよ」
そして先生は右手を扉に当てて、
「融けろ」
と呟いた。
すると、先生が手を当てた所から扉が融けて行った。ドロドロと、丸で扉は氷の塊で出来て居たかの様に。
そして人が一人通れる程の孔が空いた。
「入るよ」
先生が私に声を掛け、其の孔から邸に侵入する。先生の助けを受けながら私も何とか其れに続く。
「……可笑しい」
辺りを見回して先生が呟いた。
「夜の邸に見廻りの使い魔一匹居ないなんて。吸血鬼なのにこんな無用心が在るか……? 何か臭う。罠か? 侵入者を油断させる為の。いや、其れとも単なる罠ではなく、もっと別の理由か……?」
怪訝な顔をして先生が独り言を続ける。
「……良し、行こう。単なる罠なら対処すれば良い丈の話だ。其れ以外なら危険は無い」
丸で自分に言い聞かせる様に言ってから、先生は邸の奥へと進んだ。
何とかTwitterでの小説大会の小説を書き上げた颯奈夜です。
最終章に突入しました。此処から物語は完結に向けて一直線です。
どうぞ次話をお楽しみに。
小説大会のURLはまだ主催者さんに許可を貰ってないので暫くお待ちを。
それではまたお会いしましょう。