part5
私と先生が出会った日から三日が経過した。
其れは則ち先生が私の躯に黒斑を見付けてから三日が経過したと言う事で在り、要は私が流行り病に罹患して居た事が発覚してから三日が経過したと言う事だ。
黒斑は丸で当然の如く其の範囲を広げて居た。黒子大の斑だった其れは今や硬貨と同程度の大きさと為って居た。胸に出来た黒斑を視認する事は今では容易だった。
其れ丈じゃない。黒斑は数を増やして居たし、私の躯は熱を帯びる様に為って居た。躯が麻痺するのも実感出来たし、其の御陰で躯が動かし辛くも為って居た。嫌でも母の死に際の姿が思い出された。
私の感情を支配して居たのは恐怖だ。他に何が在ろうか。
徐々に黒斑が増え其の範囲を広げて行き、躯が黒く染まり切る事への恐怖。
徐々に感覚が失われて行く、軈て何も感じなく為る事への恐怖。
徐々に躯が動かなく為って行き、自力で躯を動かせなく為る事への恐怖。
そして、最終的に躯が高熱を帯び、母と同様に死に逝く事への恐怖。
恐怖。恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖。
先生は私に、矢張り対症療法ながらも治療を施して呉れた。鍼に拠る黒斑部分の神経の刺激。解熱剤の投与。其れから原因が分からないので、兎に角栄養の有る物を食べさせて呉れた。
然し、先生には申し訳無いが、私はそんな事が無駄だと分かって居たし、実際効果は無かった。
先生は結局、悔しそうな顔をしながら私に謝った。?何も役に立てなくて、ごめん?
でも先生は悪くない。そう言う病なのだ。
私は半ば諦めて居た。死を受け入れ始めて居た。
可笑しな物だ。恐怖と諦観は共存出来るらしい。死ぬのは怖いけれど、死んでしまう物は仕方が無いと思って居る。
只、気掛かりな事が一つ、恐怖を増長させて居る。
病の進行が速い。母と比べて格段に。
母の躯の黒斑はもっと遅いペースで広がって居た。そう、今の私の黒斑の大きさに為るまで、母の場合は二週間程も掛かって居た様に記憶して居る。
私は、死の訪れが早いのだろうか。
既に諦観し、余生を有意義に生きようとして居たが、其の余生は短いのだろうか。
矢張り可笑しな話。諦観と悲観が共存して居た。
そんな私に先生は言った。?此の病の鍵は絶対に村の領主の邸に在る筈だ。僕を信じて。必ず君を助ける?
先生は何処迄も優しかった。
結局、諦観し、悲観して居た私に出来るのは、そんな先生と言う僅かな可能性に賭けてみる丈だった。
そして四日が経った。先生と出会ってから七日。則ち、一週間。
そう、先生が指定した日だった。吸血鬼狩りに行く日として。
皆さんお久しぶりです。不田颯奈夜です。
ここの所、小説大会の小説執筆で忙しかったのですが、そちらが行き詰まったので息抜きにこちらを更新しました。
ただただ主人公の内心を語らせました。今話は重要度の低い繋ぎ、と言った所かも知れません。
さて、第三章完結です。次話から物語はクライマックスの第四章に入ります。
次の更新がいつになるかは分かりませんが、楽しみにしていただけたら幸いです。
また、先日感想を頂きました。感想を頂けると大変励みになりますね。
ではまた次話でお会いしましょう。