part1
テントを張り終わると、魔術師さんは、
「食事にしたいんだけど、生憎手持ちに食料は無いんだ。君、野草とか茸とかには詳しい? 食べられる奴集めたいんだけど」
と訊いて来た。
「あ、はい。多少は。母に教わって居たので」
私はそう答えた。
「なら丁度良い。食べられる物を私と一緒に集めて呉れないか?」
「良いですよ」
「じゃあ僕は此方側を探すから、君は向こうの方を探して呉れ。ああ、此の辺り一帯は結界を張って在るから、殆どの人は寄って来れない。だから基本的に追手の心配はしなくて良いよ」
「分かりました」
私は言われた通りに食べられる野草と茸を探し、或る程度の量を集めた。此れ丈在れば二人分の食事には十分だろう。寧ろ多い位だ。
……と思ってテントに戻った私は、既に戻って居た魔術師さんが集めたので在ろう山にして置いて在った野草と茸の量に驚かされた。私の集めた量の三倍は在るんじゃないだろうか。そんなに食べる積もりなのか、此の人は。
……と考え付いた所で、此れから数日分の備蓄だろうと理解した。魔術師さんの体型はスマートで、大食漢には迚も見えないし。
「凄い量ですね。矢張り備蓄迄考慮するとこんな量に為るんですね」
「えっ? 備蓄って何の話? 今日の夕食分だよ、此れ全部で」
私は唯、驚愕するしか無かった。此の量が夕食一回分……。
「ああ、君が集めて来て呉れたのを合わせて丁度良い位の量に為りそうだ。扨、僕は調理に取り掛かろう。君は向こうで休んで居て呉れ」
私が集めたのを合わせて丁度良い!? どんな胃袋をして居るんだ此の人……。
そして暫く待つと魔術師さんに呼ばれたので向かうと、簡易的な椅子とテーブルが出来て居た上に大量の料理が其の机上に在った。
「其処にどうぞ。好きな丈食べて良いよ」
「は、はい」
魔術師さんに椅子に座る様促され、そして食事の許可を貰った。
取り敢えず目の前の料理を口に運んだ。何と言う料理かは知らない。只、美味しい。
と、
「ああそうだ、君に良い文化を教えてあげよう。僕が感銘を受けて且つ迚も気に入って居る文化だ。
東洋の端の国に“いただきます”って言葉が在るんだ。キリスト教の食事前の御祈りに似てるけど非なる物。料理の食材の命への感謝、料理の調理者への感謝、其れから今回は野生のだから違うけど、食材の生産者への感謝の込められた言葉なんだ。此の言葉を食事の前に手を合わせて唱えて感謝の意を示す。試してみても良いんじゃないかな。強制はしないけどね」
魔術師さんが言った。
強制はしない、なんて付けられたけど、熱を込めて説明されてしまったので選択肢は試すしか無い。
私は手を合わせて、
「いただきます」
と唱えた。
敬虔ではなかった私は食事前の御祈りなんてした事が無かったので、食事前の感謝は新鮮に感じた。
第三章に入りました。颯奈夜です。
part1は第二章のおまけみたいなものですが、しかしちゃんと第三章でお話は進みます。お楽しみに。
第三章は短めになりそうな予感がしていますがお付き合い下さい。
ちなみに第四章で終了予定、かな……かな?
それではまた。