8.会議
“グラナ砦”が“魔神”の襲撃で陥落した。
そのお伽話のような報せは“魔の森”を隔てた“ヴァーリス帝国”にも届いていた。
帝国の方針は定期的に帝都で開かれる諸侯会議によって決定されている。今回は緊急の案件で時期こそ外れているが、全ての諸侯が会議に参席した。
しかし肝心の会議は諸侯が真っ二つに分かれて激論を繰り広げていた。
「“魔神”の存在は危険だ。直ぐにでも討伐隊を組織すべきだ」
「“グラナ砦”が落とされたのだ。こちらも直ぐに“魔神”の襲撃に備えるべきだろう」
“魔神”を危険な存在として排除、もしくは対策を講じるべきだと主張する否定派。
「いいや、“魔神”は愚かな人間共を滅ぼす為に神が寄こした遣いじゃ」
「そうじゃ、伝承では“魔神”は人間共の信仰する女神の敵対者だったのだ。“魔神”が人間を滅ぼす使者なら、わしら“魔族”は“魔神”と連携を取るべきじゃ」
伝説を信じて“魔神”と一緒に人間を滅ぼすべきだと主張する肯定派。
これら二つの派閥に分かれて会議は紛糾していた。
「はぁー」
長机の左右に分かれて唾を飛ばし合う諸侯達を遠巻きに、“ヴァーリス帝国”を治める皇帝――アスラ・ヘイム・ヴァーリスは小さく溜息を付いた。
(ここで我が意見を申すのは簡単だ……が、それでは駄目であろうな)
この場できちんと帝国の方針を話し合って決めなければ、諸侯の間に不和の芽を残すことになってしまう。
国の長である皇帝は、諸侯会議の席においては中立の調停者でなければならない。
「だが、厄介なモノが現れたものだ」
しかしアスラは“魔神”に対しては否定派であった。彼は肯定派の言うように“魔神”を楽観視してはいないからだ。
(古い伝承を鵜呑みにするのは危険だ。それに今回の“魔神”がアレと同質のモノとは限らぬ。迂闊な行動は慎むべきだ)
自然とアスラの視線は窓の外に見える“キシル山脈”へと向けられた。そこには歴代の皇帝にしか知らされていない秘密が隠されている。
(しかもグラナを襲った“魔神”は生きているのだ。既に動かないアレとは違う)
アスラも小さい頃に前皇帝であった父に連れられ一度見ただけだが、アレの持つ威容は今でもはっきりと脳裏に焼き付いている。
(そもそも肯定派の大半は老人だ。止めろ、と言って素直に聞くかも分からぬ)
魔族が“魔の森”を境に北域へと押し込められたのはもう何十年も昔のことだ。
厳しい寒さと飢えに耐える今の生活も、それしか知らない若者には極々自然なことで、 “人間”を純粋に憎んでいるのは昔を知る老人ばかりである。
(何百年も生きた老人達らからすれば、恐るべき“魔神”も“人間”を滅ぼす都合の良い口実に過ぎない、か……これは危険な傾向だな)
アスラが“魔神”を侮る老人達を危惧していると、折良くアスラの考えを代弁するかのような意見が出される。
「ふん、“魔神”が人間を滅ぼす使者だと? 本気で信じている訳もないだろう。お前らは単にこれを機に“人間”を滅ぼしたいだけだ」
声の主はユリ・ハイゼンベルグ――諸侯の中で唯一の女性だった。
浅黒い肌に際立つ腰まで届く黒髪。端整な顔には少々吊り目の金眼と“魔族”の特徴である尖った耳。その身体は女性的な起伏に富んでいて、男ばかりがひしめく諸侯会議では荒地に咲く一輪の花のようであった。
だが、如何に相手が可憐な女性であっても会議の場では平等である。
「ほぅ? これは、これは異なことを言うのう。ハイゼンベルグ卿」
「そうですな。わしらは純粋に帝国の為を思って議論しているんじゃ。下らない怨恨に囚われている訳ではない」
「はっはっは、そんなことも分からないようでは、亡き父君も草葉の陰で泣いておるぞ」
その言葉に肯定派の老人達は声を上げて笑い出す。ユリの父は数年前に謎の病死を遂げており、それを笑いながら話すなど、彼女を明らかに馬鹿にしていた。
「口だけの老害共がよく囀る」
しかし対するユリは激昂することもなく、その視線はどこまでも冷やかだった。
「な、何じゃと!?」
「無礼な小娘が、口の聞き方に気を付けろ!」
「貴様の家なんぞ潰すのは造作もないのじゃぞ?」
ユリの明らかな侮蔑に老人達が息巻く。肯定派の老人達は人数こそ否定派より少ないが、諸侯の中では強い権力を持つ有力者であり、帝国内での発言力も大きい。
一方のハイゼンベルグ家は、北端の小さな僻地を治める弱小諸侯だ。前当主だったユリの父親が死んでからは、更にその力も弱まり今では没落の一途を辿っている。
こうして同じ会議の席に座っているが、両者の間には明確な力の差があった。
(これ以上は見過ごせんな……)
弱者、それも女性に徒党を組んで責め立てるのは、アスラにしてもあまり気分が良い話ではない。
「皆、静まれ」
先程の呟きとは異なり、アスラが良く通る声ではっきりと制止させる。
会議においては調停者の立場の皇帝だが、帝国の支配者であることに変わりはない。アスラの言葉を遮る者など誰も居なかった。
「まず先に言っておこう。ハイゼンベルグ郷はもう少し言葉を選べ」
「はい。申し訳ありませんでした。陛下」
アスラに軽く嗜められてユリは俯く。諸侯の中では最も若いユリは、長寿な魔族だからこそ外見はアスラと同じようだが、実際の年齢では父と娘程に離れている。
アスラは若く気概溢れるユリの姿を眩しげに見ていた。
「ふむ。陛下がお優しい方で良かったのう。ハイゼンベルグ郷」
「これからは軽率な発言は控えるように……」
アスラがユリを嗜めたことでアスラを肯定派だと思ったのか、老人達が追従する。
そんな老人達にアスラは侮蔑の視線で射抜く。
「勘違いするな。我は“魔神”の扱いについては肯定派ではない」
「何と!? それは一体どういうことです、陛下」
「そのままの意味だ。ハイゼンベルグ郷の言葉は留意せねばならん。我はお前らのように人間憎さで“魔神”を楽観視する気はない」
「しかし“魔神”はグラナ砦を落としたのですぞ!? 今は“人間”を滅ぼすには絶好の機会じゃ、このまま軍勢を率いて攻め込むべきじゃろう」
「だが、攻め込むには“魔の森”を通らねばならん。“魔神”の正体が不明な現状では、軽々しく軍を動かすべきではない」
「ぐ、ぬぅ……」
「グラナを襲撃した“魔神”が伝説のソレと同一である保障も無い。それに今回の“魔神”は生きているのだ」
遥か昔に天上の“女神”と敵対していた“魔神”は激闘の末に下界へ落とされた。そしてセルディオの大地には戦いに敗れて死んだ“魔神”の屍のみが残された――伝説にはそう記されている。
それ故に伝説の中でも生きている“魔神”に関する情報は殆ど無かった。
「それに情報ではグラナ砦を襲撃した“魔神”は砦のミスリルを食い尽くしたそうだ。襲撃の目的が食欲だったとしても、“魔神”が“魔族”を食べないという保障もない」
「しかし陛下! この機を逃がせば“人間”は間違いなく攻めて来ますぞ!」
「安心しろ。その時は“魔神”とやらが助けてくれるのだろう?」
「陛下! お戯れは止めていただきたい」
「ふん、戯れてる自覚があるなら、今度からは馬鹿な発言を控えるんだな。若輩のハイゼンベルグ郷の方が、まだ帝国に有益な意見を述べてくれたぞ」
「「…………」」
皮肉の効いたアスラの言葉に、老人達がばつが悪そうな顔で視線を逸らす。彼らも感情に囚われて馬鹿なことを言っていた自覚はあるのだろう。
「さて、それでは会議の続きをしようか」
アスラの号令で会議を再開するが、有力諸侯である老人達は先程の失態から発言を控えており、若い諸侯達からは両方からの襲撃に備えて防備を固めるべき――つまり消極的な意見しか出て来なかった。
「各領地から“魔の森”と隣接する領地へ援軍を出すべきでしょう」
「待て、地域によって魔物の脅威も異なる。全領地から援軍を派遣するのは不可能だ」
「ならば治安維持の為に最低限の人員を残せ。援軍の編成は諸侯の采配に任せるとしよう」
若い諸侯同士の意見をアスラが上手く纏める。
アスラとしては肯定派のように“魔神”を楽観視していないが、一方で否定派のように守備を固める受身のままでは駄目だとも思っていた。
やはりユリもそう考えていたのは同じだったらしい。彼女は居並ぶ諸侯を見回して意見を述べた。
「“魔神”に対して何も行動しないのは危険だと思う。アレが“人間”の味方になるとも限らない」
「我もハイゼンベルグ卿と同じ意見だ。“魔神”の正体がわからないのは好ましくない。不用意に刺激する訳にもいかないが、その正体を探る為にも調査隊は派遣すべきだ」
アスラもそれに同調して、さり気なく自分の意見を口にする。元々はユリの意見なのだが、周囲の諸侯達も皇帝の言葉には素直に従うようだ。
しかし老人達はユリの意見にある一点を付け足す。
「わしは調査隊にハイゼンベルグ卿を推薦しますぞ」
「おお、それは名案ですな。彼女は若くして宮廷魔術士の資格を持つ天才じゃからのう」
「それにハイゼンベルグ卿の領地は“魔の森”と隣接しておりませんし、兵の数にも余力があるでしょう」
一人が言い出すとまるで示し合わせたかのように話が進められる。先程のような剣呑な雰囲気こそなかったが、明らかなユリに対する嫌がらせが目的であった。
(どうやら老人達は大層ご立腹のようだな。ハイゼンベルグ卿)
長寿な“魔族”は歳を増すごとに意固地でプライドが高くなる傾向が強い。
ユリは没落寸前の若輩者で、しかも女性だ。そんな彼女の意見が皇帝に採用されて、おまけに小馬鹿にされたとあっては、老人達の自尊心はズタズタだろう。
(だが、難癖と言うには一応の筋は通っている)
アスラ個人としては、女性だけを危地へ赴かせるのは甚だ不本意なのだが、誰かが行かなければならないのも事実だ。
そして彼女には任せるだけの実力があった。アスラはユリの“魔術”の腕前を信じることにした。
「頼めるかな? ハイゼンベルグ卿」
「ユリ・ハイゼンベルグ――謹んでその任をお受けします」
席を立つとユリは恭しく礼をする。結局、ユリは一言も口を挟まなかった。
そんな彼女を見詰める老人達の瞳から不穏な光が窺い見える。
(何事も起きなければ良いが……)
“魔族”も同族を貶めることや殺すこともある。そこは彼らが見下す“人間”と何一つとして変わらない。
グラナを襲撃した“魔神”のことを話し合っていた筈なのに、アスラは帝国の内部に心配事が増えていた。
どちらも穏やかには終わりそうもない。
「はぁー……」
アスラは二重の意味で物憂げに溜息を付いた。
「さぁ、それじゃ“魔術”の講義を始めるわよ」
白衣姿のシェラが手にしたチョークで黒板を叩く。壁に掛けられた黒板を前に佇む姿は着ている白衣も相まって、本職の教師のようである。
しかしキサラギには分からないことがあった。
「どうして俺はここに居るんだ?」
『随分と哲学的な問いですね。マスター』
「そういう意味じゃない」
砦を襲撃した翌日、キサラギは手に入れたミスリルで【シュナイト】を修理しようとしていた筈が、どういう訳か屋敷の研究室で“魔術”の講義を聴かされることになっていた。
「今日は【シュナイト】の修理をする筈だったんだがな」
『大丈夫です。単純な改造なので作業は私だけでも出来ます』
「まぁ、敷地内ならナノマシンの遠隔操作が出来るからな」
今回の改造箇所は関節部だ。内容自体は単純で、損耗が激しい箇所をミスリルで補強する程度の作業なのでリートだけでも大丈夫だろう。
「いや、でも講義はちょっと……なぁ?」
『マスターが勉強嫌いなのは知っています。訓練校でも座学の時はサボろうとしていましたからね』
「うぐっ……」
図星を指されてキサラギが小さく呻いた。
個人業と思われがちな傭兵だが、素人が一朝一夕で成れる職業ではない。新規の傭兵を養成する為の施設は存在しており、ちゃんと仕事を斡旋する為の仲介人も居る。
勿論、無一文の人間が金目当てになる傭兵に膨大な学費が払える訳もなく、彼らのような傭兵は訓練校を卒業した後も報酬の何割かを学校に還元している。
『それにこの星で活動する以上は、“魔術”について知識を深めることも必要です』
「はぁ~わかったよ」
『頑張ってください。マスター』
「程ほどには、な」
「こら! 私語は禁止よ。キサラギ」
「へいへい……」
溜息を付くキサラギを、目聡く見付けたシェラに吠えられる。大人しく腹を括ったキサラギは、改めて自分が座る机の周りを見回した。
室内にはキサラギが座る机の他にも、研究用の機材や素材が乱雑に溢れている。魔術的な物なのか植物や生物の一部。宝石や鉱石の類も数多く見受けられた。
「それじゃ、まずは“魔術”の元となる“魔素”について説明するわね」
言ってシェラは黒板に簡単な図を描く。
「絵下手なんだな」
「くっ……黙って聞きなさい」
シェラは絵心が無いようだ。線が安定せず歪んで見える図を見て、キサラギは何とか理解しようと努める。
恐らくシェラが描いているのは、大地と空、それに木と人間の絵なのだろう。
「“魔素”は世界中どこでも存在するわ。空の上や湖の底も、地の底なんかにも存在すると言われているの。一説では生命の源なんじゃないか、って話もあるわ」
「ふむ。しかし科学的には観測することが出来ない、と」
「そうね。“魔素”は存在を感じることは出来ても目視することは出来ないわ」
「今もこの部屋の中にあるのか?」
「いいえ、この部屋……と言うよりも屋敷内においては“魔素”は殆ど存在しないわ」
シェラが黒板に屋敷の絵を描き足すとその周りを線で囲った。
「屋敷内の“魔素”は殆どが“結界”の維持に消費される。だから屋敷内での“魔術”を行使することは難しいわ」
「へぇー防犯的な観点では優秀そうだな。相手が魔術士に限定されるだろうけど」
「そうね。魔術士が相手なら例え結果を抜けられてもブライが遅れを取ることは無いわ」
それは屋敷がキサラギにも有利な立地条件であることも意味している。
「説明の続きになるけど“魔素”は体内で“魔力”に変換出来るの。“魔力”は“魔素”と違って淡く発光する性質があるから目視することが出来るわ。ほら」
シェラは小さく呟くと指先に米粒のような光が灯る。
「また“魔力”の変換は個人差が大きく顕れることでも有名よ。桁外れの変換効率で下級の術を連発出来る人も居れば、一度に膨大な量の“魔力”を蓄えられる人なんかも居るわ」
「ちなみにお前はどうなんだ?」
「…………普通よ」
何故か目線を逸らされる。どう見ても普通ではなさそうだった。
本人が誤魔化そうとしているので、キサラギも深くは聞こうと思わない。シェラは何事もないかのように再び講義を始める。
「“魔術”の行使には呪文の詠唱が必要よ。尤も高度な呪文以外の詠唱は、高位の使い手なら省くことも出来るわ」
「ふむ。それは厄介そうだな」
「ええ、戦い慣れしている魔術士は大半が無詠唱の使い手よ。下位の魔術は一瞬しか発光しないから、キサラギも万が一にも戦う時は周囲の“魔素”の流れに気を配ることね」
「無理を言うな。俺は“魔素”を感じられないんだぞ?」
「うーん。私からすればそこが変なのよね。“魔素”の感知は程度の差こそあれ誰でも感じられるのよ? 赤子だって一月もすれば“魔素”の変化を感じ取れるわ」
「言ってくれるな。俺が赤子以下だと?」
「別にそういう意味じゃないわよ。むしろ興味深いわね」
「……解剖させてくれとか言うなよ」
「あら、残念だわ」
ニヤリとシェラは口元を歪める。その笑みにキサラギは背筋が寒くなった。あの目は本気だ。あれは冗談を言っている人間の目じゃない。
キサラギは話題を変えることにした。
「そういえばお前は“魔術”を研究しているんだったな。どんな研究をしているんだ?」
「私の研究? ふふ、そう。キサラギはそんなに私の研究の話が聞きたいのね」
「いや、別にそこまで聞きたい訳じゃ――」
「そこまで! そ・こ・ま・で・言うなら、この天才が説明してあげるわ!」
得意分野の話題にシャラは大袈裟に踏ん反り返る。先程とは別の意味で振ってはいけない話題を選んでしまったキサラギは、大人しく自慢話を聞かされることになった。
「私が研究しているのは“刻印魔術”よ。これは系統としては“付加”というタイプに分類されるわ。対象に刻んだ紋章を使って詠唱の手間を省いて、同時に“魔力”の制御を簡略化。殆ど自動で“魔術”を行使させることが出来るの」
シェラは研究室にあるガラクタの山から銃のような物を取り出す。
「これは小さな筒に紋章を刻んであるわ。取っ手を握って念じれば、手から“魔力”を吸収して魔力の矢を撃ち出すのよ」
「へぇー凄いな。さながら差し詰め“魔術”の拳銃ってとこか」
「そうよ。名付けて“刻印銃”よ! ふふ……見てなさい。キサラギ」
自信有り気に笑みを浮かべるとシェラは銃身を壁の的に向ける。何度も試射を繰り返したのか的の周りには弾痕らしき小さな窪みが無数に穿たれていた。
刻印銃は厳密には銃ではないので引き金は付いていない。しかし銃を構えるシェラの姿は意外に様になっていた。
「ッ!」
詠唱は要らない。シャラの意志が引き金となり、銃身から魔力が弾となって飛び出す。
パスッ
赤色に光る弾丸は狙い違わず的の中心へ突き刺さる。威力はそんなに無いようで小さな音が鳴っただけだった。
「ふっふ~ん、どうよ?」
「驚いたな。大した腕前だ」
実弾ではないので反動の計算こそ不用だが、初弾で命中させるのは難しいだろう。シェラのように当てる為には反復して培った射撃技術が必要だ。
「まぁ、銃を撃つのが様になる令嬢ってのも変な話だけどな」
「煩いわね。射撃は趣味よ。研究で煮詰まってる時は気分転換するのが一番なの」
「なるほど、それで刻印銃は実戦に使える代物なのか?」
「屋敷内は“魔素”が薄いから殺傷力は低いわ。結界の外なら壁を凹ませる程度の威力ね。そもそもコレは武器じゃないわ。あくまで本来の用途は研究用なの」
言うとシェラは再びガラクタの山から何かを取り出す。
「腕輪?」
それは銀の腕輪だった。腕輪の表面には刻印であろう小さな文字がびっしりと刻まれている。また台座の部分には真っ赤な宝石が埋め込まれていた。
「はい。コレを身に着けて、今度はキサラギがあの的を撃ってちょうだい」
「刻印銃は持ち主の“魔力”を使って弾を撃つんだろ? 俺には無意味だろ」
「ふん、あまり天才の頭脳を舐めないことね。無意味なことなんてやらせないわ」
シャラの剣幕に負けた訳ではないが、キサラギは刻印銃を構える。本職の傭兵であるキサラギは、当然ながら銃器の扱いにも精通していた。
素早く的の中心を狙い済ますと、脳内で引き金をイメージする。それと同時に腕輪の宝石が淡く光り出した。
照準が合うとキサラギは頭の中の引き金を引く。
パンッ
先程と同じ軽い音が響く。銃身から飛び出した魔力の弾丸が的の中心を射抜いた。
しかも弾痕の深さからわかるが、明らかにシェラの時より威力が上がっている。
「どう? その腕輪には“魔晶石”が使われているのよ」
「魔晶石? この真っ赤な宝石のことか」
「それは“魔力”を生み出す性質を持つ宝石よ。厳密には無から有を生み出すのではなく、人体と同じで周囲から“魔素”を吸収して変換しているの」
「じゃあ、これが有れば俺にも“魔術”が使えるのか?」
「もう、キサラギは“魔術”を使ってるわ。さっき撃った刻印銃も立派な“魔術”よ」
シェラに言われてキサラギも初めて自覚する。“魔力”で半自動的に動くとはいえ、刻印銃を撃つということも一種の“魔術”なのだ。
過程に違いこそあれ、誰が使おうとも結果は同じとなる。
「つまり“魔術”を一般化することがお前の目標なんだな?」
「そうよ。“刻印魔術”の目指す到達点は“魔術”の汎用化。才能という埋めがたい差を無くし、全ての者が平等に使える力を開発する。それが私の野望よ」
そう言ってシェラは不適に笑う。覇気に満ちた金の瞳が強く輝いている。
その姿はとても眩しくて、キサラギは知らずに目を細めるのだった。
どうも、お久しぶりです。如月八日です。
連休中に風邪を貰ってしまい、最近は執筆が滞ってしまいました。
今回は投稿が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。
本作を楽しみにしていただいていた方には、本当に申し訳ない事をしてしまいました。
次話も書き上がり次第に投稿します。
これからも「空から魔神が!?」をよろしくお願いします。