3.雇用
セルディオ大陸――そこには二つの種族が独自の文明を築き暮らしている。
大陸北部に暮らす“魔族”――浅黒い肌に金の瞳と尖った耳を特徴に持つ彼らは、長い寿命と優れた身体能力、何より魔術を扱う技能に長けていた。
大陸の南部を統べる“人族”――彼らは様々な色の肌や瞳をしていた。“魔族”を凌ぐ高い繁殖力と知恵で長きに渡って“魔族”と対立して来た。
「あ、あああ……あなた人間だったの!?」
キサラギがヘルメットを脱ぐだけで随分と大袈裟に驚かれてしまった。訳が分からず困惑していたキサラギに、リートは二人に聞こえないよう小声で助け舟を出す。
『マスター。もしからしたら彼女達は人間ではないのかもしれません』
「何? だが外見はどう見ても人間だぞ」
リートにならってキサラギも小声で聞き返す。口を動かさずに声量も絞っているので、二人には怪しまれていない。
『人間と同じ祖を持つ生物なのでしょう。恐らくこの地では彼女達の種族と人間は仲が悪いのかもしれません』
確かにリートの推論通りならシェラ達の反応にも納得がいく。事実この時のキサラギは知らなかったが、シェラはこれまで人間や魔族と関わらないように隠れて生きて来た。キサラギの方にその気が無かったとしても、二人が正体を隠していた人間を警戒するのは至極当然のことだった。
(不味いな……警戒されちゃ話もまともに出来ないぞ)
キサラギとしては機体修理の為にレアメタルを探さなくてはならない。現在の機体状態では満足に歩けるようになるまでもう少し時間が必要だ。
(少なくともその間に住む場所や食料を確保しなきゃならない。手持ちの携帯食料じゃ数日しか持たないからな)
その為にも現地人である二人に警戒されては都合が悪い。これでは協力を頼むどころかこの場で敵対されかねない。特にブライからは隙あれば直ぐにでも攻撃して来そうな気配が漂っている。
ともかく、キサラギは先に二人の誤解を解くことにした。
「何か勘違いしているようだが、俺は厳密に言えばお前らの知る人間とは違うぞ」
「ふん、人間の言うことなど信じられるか」
「止めなさい、ブライ。私が心配なのはわかるけど口を挟み過ぎよ」
「お、おじょうさまぁ……」
ブライが主人に諌められ情けない声を上げる。
「さぁ、話を聞かせてちょうだい」
キサラギはシェラと正面から対峙する。金色に煌めく彼女の瞳は、あらゆる嘘を見透かしているかのようだ。だからキサラギは自分が持つ在りのままの言葉で答える。
「俺は“キサラギ”だ。人間なんて名前じゃない」
それはとてもシンプルな言葉だった。
確かにキサラギは此処に来たばかりの部外者――シェラ達と人間にどんな確執があるのかも知らない。
「あ……」
シェラの口から短い声が漏れる。キサラギが持つ在りのままの言葉――飾りの無いぶっきらぼうな言葉――それはかつてシェラが必死に訴え続けた言葉だった。
「そう、貴方はキサラギ……人間である前にキサラギという個人だわ。今まで散々そのことで苦しんだ私が、キサラギに同じことをしちゃ駄目よね」
「お嬢様……」
シェラは何処かすっきりしたように笑う。そんな主の様子にブライは先程までの自分を恥じた。主の安全を想うあまりに彼は大変な間違いを犯すところだった。
「さて、そこの所を踏まえてシェラには相談があるんだ」
「私に相談? 一体何かしら?」
二人の雰囲気が和らいだ所でキサラギは本命の話題を切り出す。元よりキサラギが彼女達と接触したのはコレが理由だったりする。
キサラギは悪戯っぽく口元を緩めて二人に言った。
「傭兵を雇う気は無いか?」
先刻とは場所を移してキサラギはシェラの屋敷に来ていた。
今のキサラギはパイロットスーツを脱ぎ、元から下に着ていた軍服姿である。キサラギ達はテラスのテーブル席で契約内容を話し合っていた。
「それじゃあ、契約内容はこれで良いかしら?」
シェラはテーブルに置かれた羊皮紙を差し出す。そこには以下のように書かれていた。
[依頼内容]
契約期間はキサラギがシェラ・セリクスの護衛をする。
[報酬]
契約期間はシェラ・セリクスが期間中のキサラギの衣食住を提供する。
キサラギは羊皮紙に書かれた内容を読むと満足そうに頷く。
「特に問題ないな。レアメタルの情報に関しては依頼達成の為に必要な情報だ。出来ればそちらに手伝って貰いたい」
「わかってるわよ。代わりに【シュナイト】のこと調べさせてね」
「しょうがない。出来る範囲で、だぞ」
「ええ、それで十分よ」
「なら、契約成立だ」
「こちらこそ。よろしく頼むわよ。傭兵さん」
最後の確認が済むと、二人は固く握手を交わす。これで契約は成立だ。
今後の生活を心配する必要がなくなり安堵するキサラギだったが、それと同時にある事実に思い至った。キサラギはリートに自己紹介するよう促す。
『ご挨拶が遅れました。私はリート。マスターのサポート用AIです』
シェラとブライに対してリートが簡単な自己紹介をする。リートの発声装置はキサラギ右手に巻かれた腕時計型の端末だ。
今は二人にもわかり易いように端末はテーブルの真ん中に置かれている。
「俺の相棒だ。少々口煩いかもしれないが、よろしく頼む」
『何かと面倒を掛けるマスターだと思いますが、よろしくお願いします』
保護者みたいなことを言うリートに顔が引き攣る(ひきつる)が、キサラギの脳内では別のことを心配していた。
(ま、科学が発展してない世界でナノマシンって言われもピンと来ないだろうけどな)
シェラ達にナノマシンという存在を理解させるのは難しいだろう。キサラギはどう二人に説明すべきか頭を悩ませたが、それも杞憂だった。
彼女達は意外と呆気なくリートの存在を認めた。理由を聞いてみると……
「なのましん? よく分からないけど精霊みたいなモノでしょ?」
『違います。私はそんなオカルトな存在ではありません。私はナノマシン――人類の叡智の結晶です』
「そうなの? キサラギの居た世界の人間って凄いのね。詳しく話が聞きたいわ」
『はい。シェラさんとは一度ちゃんとお話した方が良いようです』
何故か意気投合する二人にキサラギは複雑な気分になる。リートとシェラが親しくなるのは構わないのだが、リートが他人と話すにはキサラギがその場に居る必要があった。
長々とあらゆる分野での専門的な話をされても退屈なだけだろう。
「それより今後の方針を決めよう。お互いに問題は山ほどある、だろ?」
「確かにキサラギの言う通りね。まずは私達の置かれている状況を説明してあげるわ」
そう言うとブライが地図の張られたボードを押して来た。シェラは席を立つと地図の横に立ち指示棒で中央部に広がる森を指し示す。
「ここが私達の居る“魔の森”よ。西側の“キシル山脈”と東側の“ドグラ山脈”に挟まれていて、人間と魔族の生活圏を分断しているわ。ま、今は名前の前に “元”が付く有様だけどね」
『「…………」』
二人は都合の悪い情報はスルーした。
「さて、まずは南部ね。ここから下は全て人間の勢力圏よ。中でも“魔の森”に隣接する“ロキア王国”は魔族との戦争で連合の長を務めた大国だわ」
「なるほどな。確かに隣に住んでるのが敵なら必死にもなるか」
「そして森との境界にあるのが“グラナ砦”――人間側の対魔族戦の最前線ね。強固な城壁に護られた難攻不落の砦よ。内部は城砦都市になっていて500人からなる常駐群が駐屯している……らしいわ」
「500人か……それは多い方なのか?」
「常駐軍としては多い方ね。しかも常駐軍は精強と評判らしいわ。森の魔物や盗賊を相手にしているのか、実戦には事欠かないみたいね」
『人間の兵が何人居ようと私達には関係ありませんけどね』
「【シュナイト】が万全に動ければ、な」
落下地点に放置する訳にもいかず、現在【シュナイト】はシェラの屋敷の裏地に仰向けに寝かせてある。自己修復機能で簡単な修理は始まっているが、レアメタル無しでは万全には程遠いだろう。
「続けるわよ。北部は魔族や魔物が暮らしているわ。国家と呼べる規模なのは“魔の森”から少し北にある“ヴァーリス帝国”だけね。こちらも森の直ぐ側に砦があるわ」
「つまり俺達は二つの勢力に挟まれている訳か……」
「そうね。私はどちらかに味方する気も無いわ。けれど“魔の森”という障害が消えた今、此処が戦場になるのは明白。巻き込まれるのは御免ね」
『逃げるという選択肢は無いのですか? シェラさん』
「無理よ。何処へ行こうと……私に安息の地は無いの」
シェラは寂しげな顔で自嘲する。しかしソレも一瞬のことだった。向き直りキサラギを見詰める金色の瞳は決意の炎が揺らめいていた。
「だからお願い。私に力を貸して」
「わかっている。傭兵は一度受けた依頼を途中で投げ出したりしない」
「ふふ……頼りにしてるわ。キサラギ」
「ああ、任せておけ――と、言いたいが正直に言って今は厳しい」
『せめて機体を動かせるようにしなくてはなりません』
「なるほどね。レアメタルだったかしら? それを探さないといけないのね」
「そうだ。レアメタル無しでは【シュナイト】は万全の状態に出来ない」
『一応の代案はあります。様々な面でレアメタルに劣ってしまう可能性は否めませんが、他の金属を流用するという方法です』
万全という訳にはいかないだろうが、機体を動かせる位には出来るだろう。何より事態は急を要している。一刻も早く【シュナイト】を動かせるようにする必要があった。
「幾らか金属を提供して貰えないか? 使えそうなのが無いかリートに調べて貰う」
「なら、私の研究室に研究用に集めた素材があるから、そこから好きに使って良いわよ。代わりと言っちゃなんだけど……私にも【シュナイト】を調べさせてくれないかしら?」
「わかった。ただし、調べる時は俺かリートのどちらかがその場に居ることが条件だ」
「えぇーどうしてよ? 今のキサラギは忙しい身なんだから、無駄な手間は省いた方が良いじゃないの」
『いえ、その気遣いは無用です。それよりシェラさんと【シュナイト】を二人切りで放置する方が危険です。貴方のような人種は放って置くと勝手に【シュナイト】を分解しかねません』
「嗚呼! ショックだわ。私って信用されていないのね」
「俺もリートに同感だ。自覚は無いみたいだが、お前って相当マッドなタイプだと思うぞ」
キサラギにも覚えがある。【シュナイト】の修理を業者に依頼した時も、頻繁にドリルの装着を勧めて来る顔馴染みの男が居た。今のシェラの瞳には彼と同じ妖しげな光が灯っている。
シェラが渋々妥協すると、いつの間にか消えていたブライがテラスへ戻って来た。彼の手は銀のワゴンを押しており、微かに食欲をそそる良い匂いがした。
「お嬢様。昼食のご用意が出来ました」
「あら、もうそんな時間だったのね。キサラギ達の分もお願いね」
「はい。直ぐにご用意致します」
優雅に一礼。ブライはワゴンに載った料理を配膳する。最初からキサラギ達の分も用意してあったようで配膳は速やかに完了する。
「リート様の分はどう致しましょう?」
『私は食物を摂取する必要がありません。私の分はマスターに上げてください。マスターが食べてくれれば、それは巡り巡って私の糧にもなります』
「畏まりました。それではキサラギ様。どうぞ」
シェラに雇って貰ってからというもの、ブライのキサラギへの対応が激変していた。まるで客人を持て成すかのような態度で接して来るのだ。
「お、おう。悪いな」
「いえ、執事ですから。当然のことです」
キサラギとしては初対面からずっと攻撃的だったブライの心変わりに戸惑っていた。
しかし事実はなんてことは無く、シェラに出来た新しい味方であるキサラギのことを歓迎していたからに過ぎない。
尤も忠実な執事であるブライが彼女の意に反してキサラギの寝首を掻くことは無いだろう。そう結論付けるとキサラギの関心はブライから目の前の料理へと移った。
「さぁ、小難しい話は後にして食事にしましょうか」
眼前の大皿には彩り豊かなサンドイッチが山のように載っている。リートの分も用意してあるのでボリュームは相当な物だ。それに付け合せとして赤いスープと果物の小皿があった。
「こ、コレは……飯……なのか?」
「ええ、そうよ。ふふ……ブライの料理はとっても美味しいんだから」
「へぇ~これが飯、ね」
キサラギは大皿に載せられたサンドイッチを一つ掴み、しげしげと見る。ブライお手製のサンドイッチは、具はシンプルに肉と野菜のみだがパンの表面が軽く焼いてある。手間を惜しまず作られた一品は、ブライのシェラに対する献身ぶりが窺えた。
『大丈夫です。簡単なスキャンをしましたが、有害な物質は入っていません』
「失礼ね。毒なんか入ってないわよ!」
「そ、そうだな。いただく、ぞ」
手にしたサンドイッチを頬張る。作りたてのソレはまだ温かい。噛み締めればシャキシャキとした野菜の歯応えと口中に肉の旨味が広がった。
途端にキサラギの身体に震えが走る。
「う、う、う、ううぅ……」
『ま、マスター? 精神反応に不自然な乱れが……はっ!? まさかシェラさん! マスターの料理に未知の毒物を――』
「違うわよ!? 一体どうしたって言うのよ。キサラギ」
その突然の変化にシェラとリートが慌てふためく。何故か震えるキサラギを見てブライはニヤリと笑みを深めていた。シェラの脳裏に最悪の想像が過ぎる。
「ブライ。貴方まさか……」
『マスター!』
慄くシェラとリートの叫びが重なる。
そして次の瞬間――
「うーーーまぁーーーいーーーぞぉぉーーーーー!!」
キサラギはテラスのテーブル席から立ち上がった。その咆哮か荒地となった“魔の森”へと響き渡る。
――美味かった。
ブライのサンドイッチはとんでもなく美味かったのだ。コレに比べれば今までキサラギが食べていた携帯食料はとんでもなく不味い――いや、もう食べ物ですら無いだろう。
それ程までにブライのサンドイッチと携帯食料の間には埋め難い隔たりがあった。
「お、大袈裟な奴ねぇ……紛らわしい真似しないでよ。もう」
『そうです。しかし失念していました。マスターはまともな料理を食べるのは始めてでしたね』
正確にはリートがキサラギのサポートAIになった15歳の時から見ての話だ。それ以前の彼の食生活についてはリートも知らない。しかしリートの見る限りで5年間のキサラギの食生活は栄養補給目的の携帯食料だけだ。
事実としてキサラギはこの5年の間に他の物を食べたことが無い。そこへブライという一流の料理人による手料理である。
まさにこの瞬間にキサラギの味覚に革命が起きていた。こうなっては止まらない。キサラギは目の前の料理を片っ端から平らげていく。
「はははっ! お気に召しましたか? キサラギ様」
「おう! こんなに美味い物は食べたことがない!」
「ありがとうございます。私も腕を揮った甲斐がありました」
「おう。 はぐっ、むぐっ……」
品性やマナーといった言葉を知らない野蛮人のような豪快な食いっぷりだった。そんなキサラギにブライは眉一つひそめず見守る。どんな形であれ自分の腕前を褒められて嬉しくない料理人は居ない。ブライの顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
「ふぅー美味かった。ありがとうな。ブライ」
「いえいえ、お嬢様の為にもキサラギ様は英気を養ってください」
結局その後もキサラギは終止ブライの料理に夢中だった。
キサラギは今も食後に紅茶を飲みご満悦といった様子である。
『耳に入れておきたい情報があります。マスター』
「ん? どうした、リート?」
『若干ですが子機とのリンクが復帰しています』
「何だと? 妙だな。こちらは何のアクションも起こしていないぞ」
『はい。なので原因は環境の変化にあると思われます』
「ねぇ、そもそもリンクって一体何の話なの?」
シェラは不思議そうに首を傾げる。ナノマシンのことを理解していない彼女には本体と子機の繋がりを説明しても無駄だ。リートは要点を絞って質問することにした。
『この屋敷と【シュナイト】の落下点――何か大きな違いはありますか?』
「うーん……それは野外と屋内の違いという意味じゃないわよね」
『はい。具体的に言うならこの屋敷の敷地ですね。子機とのリンクが持つのはその範囲までなので……』
「屋敷の敷地? それなら結界のことかもしれないわね」
「結界? 魔術のか?」
「そうよ。この屋敷は侵入者や攻撃に備えて防御の結界が張ってあるの」
シェラの説明によると屋敷には敷地をすっぽり覆う程の結界が常時展開されているらしい。これはシェラの研究成果である“刻印魔術”の産物だ。屋敷の随所に刻まれた紋章は周囲の“魔素”を吸収。地下にある装置によって“魔力”へと変換され“結界”の術を展開し続ける。
『なるほど。常時展開されているのなら、屋敷内に限れば通信が可能ですね』
「それなら端末を使えばリートを別行動させることが出来そうだな」
「結界が切れなければ、だけどね」
『ならば【シュナイト】から携帯用端末を持って来ましょう。その方が何かと都合が良いです』
「そうだな。よし、直ぐに持って来る」
善は急げとキサラギは【シュナイト】へと向う。屋敷の裏手に寝かされた【シュナイト】はナノマシンによる自己修復が始まっているのか、機体各所で作業による火花が散っている。
「よっと、どれどれ……」
ハッチを開けて操縦席に飛び込む。椅子の裏にはリートの活動補助用の携帯端末が収納されている筈だ。
「お、あった。あった」
『マスター。後のことは私に任せてください。マスターは端末をシェラさんに渡して今日は身体を休めてください』
「おいおい、急にどうした? 俺がこの程度で疲れる訳ないだろ」
今日のキサラギはレオンとの戦闘に始まり、大気圏突入にシェラ達との接触ととても多忙だったのは確かだろう。だが、ナノマシンで強化されたキサラギはこの程度で疲労を感じることは無い。
『いえ、私が心配しているのは精神的な面です。環境の変化は精神面において多大な負荷を掛けます。先のことを考えるなら言う通りにしてください』
「む……しかしな……今は少しでも情報の整理が――」
『情報収集は私の仕事です。マスターは傭兵。戦うべき時に戦うのが傭兵の仕事です』
「う、ぬぅ……わかった。言う通りにする」
勝ち目は無いと判断したキラサギは大人しくリートの言葉に従う。リートとの付き合いも長いからわかる。こういう時の相棒に逆らっても無意味だ。
結局は最後にキサラギが折れることになる。
「悪いな。今日は先に休ませて貰うぞ」
「ええ、無理は身体に毒よ。ゆっくり休みなさい」
今日はもう休む旨を伝えるとシェラに端末を渡す。ナノマシンの子機が仕込まれた端末は屋敷内のどこからでもリートとの連絡が可能だ。
「それではキサラギ様。お休みなさいませ」
「おう、明日の朝飯も期待してるぜ」
「はい。では……」
キサラギの言葉にブライは微小を浮かべて退室する。キサラギが案内された部屋は客間らしく、掃除は行き届いているが使われた形跡が一切しない。
「ふぅ……」
新品同様のベッドに寝転ぶと途端に疲労感が込み上げてくる。どうやらリートの言う通り精神的には相当疲労していたようだ。
「お休み。リート」
『はい。良い夢を……マスター』
柔らかなリートの声に安堵してキラサギは安らかな眠りに落ちていった。
どうも、如月八日です。今回も執筆終わった分を投稿します。
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