2.出会い
澄み切った青空の下でセルディオの大地に漆黒の巨人が跪いていた。
機工戦騎【シュナイト】の操縦席ではキサラギが身じろぎ一つせずに固まっている。
「助かった……のか?」
『そのようです。少なくとも動力炉に暴走の兆候はありません』
リートの言葉に強張っていた身体の力を抜く。リートを通して機体各部の情報を共有していたが、命の危険に繋がるような深刻な異常は見受けられない。
とりあえずは安心だった。
「しかし無茶をしてくれたな。リート」
『勿論です。私の使命はマスターをサポートすることですから』
さらりと躱すリートの答えにキサラギは溜息を付く。確かに臨界駆動を駆使してキサラギ達は無事に着陸することが出来た。
しかしソレは当初していたキサラギの予想を上回る成果だった。
リートはキサラギに無断で、機工戦騎に搭載されたある機能を使用していた。
「まさか“炸裂障壁”を使うとはな」
本来なら防御用のシールドに過剰なエネルギーを供給し意図的に炸裂させて攻撃に利用する機能だ。
『臨界駆動を用いたとしても生存率は50パーセントを下回っていました。マスターにそのような分の悪い賭けをさせる訳にはいきません』
結果はご覧の通りである。【シュナイト】は多少の損傷をこそ負ったが大破は免れた。
そして代償は真下にあった森林である。【シュナイト】の落下地点の周囲は生物の住まない不毛な荒野となってしまった。
「しかし酷い有様だな。森が綺麗さっぱり消えてるぞ」
キサラギの良心が少しだけ痛む。宇宙からも見てもこの星は美しかった。その青さは人類の故郷――“地球”を彷彿とさせる。
そして同時にキサラギはあることに思い至った。
「リート。この星に人間は居ると思うか?」
『可能性は高いです。細かな調査はまだですが、この星の環境は“地球”の物と酷似しているように見えます。人間のような知的生命体が生息したとしても不思議ではありません』
「は、はは……なら落下地点に人間が居なければ良いけどな」
『ですが、それでも、私はマスターの生命を最優先します』
確かにリートの言う通り、余所の星の人間の為に死ぬことはないだろう。キサラギ自身そう感じていた。
それにリートがキサラギの為に手を尽くしてくれたのも事実だ。
「そうだな……助かったよ。ありがとう。リート」
『…………当然の役目です』
素直に礼を述べるキサラギに照れ臭いのかリートの言葉が珍しく素っ気無い。
しかし今はのんびりしている暇は無かった。
「機体状況の詳細を視覚化してくれ」
『手元のモニターに表示します』
映し出された情報にキサラギは眉を顰める。依然として外部との通信は繋がらず、正常な筈の動力炉は5割の力しか出せていない。原因は故障ではなくこの星の方にあるようだ。
「おいおい、これは直るまで飛べそうにないぞ」
また各部の故障も無視出来ないレベルで深刻だった。その中でも大気圏突入時に酷使したメインブースターは完全に逝ってしまっている。
「それに関節部の損耗も激しい。戦闘は無理そうだな」
『はい。駆動に影響を及ぼす危険があります。戦闘行動は避けるのが賢明です』
「だろうな。機体は万全にしておきたい」
『しかし問題があります。機体の自己修復機能を使おうにも資材が足りません』
機工戦騎はナノマシンによって機体の自己修復機能が搭載されているが、当然ながら欠損した部分の修理には材料が必要だ。
そして機工戦騎には宇宙資源の代表であるレアメタルが豊富に使われている。
「ならレアメタルの確保が必要だな。周囲の調査を頼む」
『了解。ナノマシンによる地質調査を実行します』
「頼む。リート」
調査は信頼する相棒に任せて、キサラギは瞑目し今後の方針を考える。
外部と連絡が付かないが、そもそも依頼主に救助を期待するだけ無意味だろう。傭兵は使い捨ての戦力として扱われている。
(依頼を達成した後ならともかく、遭難して救助要請するだけ無駄だろうな)
それに作戦中に傭兵が死亡することは珍しくもなかった。孤児出身のキサラギには捜索を依頼するような家族も居ない。
(ならば自力で宇宙に戻るか?)
【シュナイト】では単独での大気圏離脱は不可能だ。そもそもメインブースターが壊れているから空を飛べない。どちらにしても機体の修復は急務だろう。
『妙です。マスター』
「どうした。何かトラブルか?」
『はい。外の調査に向わせたナノマシンとのリンクが突然切れました』
「何? ナノマシンが壊された……訳じゃなさそうだな」
モニターで機体周囲の映像をチェックするが特に異常は見られない。第一に極小サイズのナノマシンを破壊するには空間を飽和攻撃するしかない。そんなことをすれば機体にも幾らかは衝撃が来る筈だ。
「まさか……【テュラン】か!?」
『違います』
「そ、そうか……」
妙にリートの声が冷たい。キサラギの背に戦場で掻く汗とは別種の冷たい汗が滲む。
『しかし今の言葉は聞き捨てなりませんね。それではまるで私がモニカのジャミングに気付かなかったみたいじゃないですか』
「あぁーいや、俺は――」
『マスター! マスターは私があの工場出荷品そのままの無感情AIに劣ると思っているのですか!?』
「いやいや! そ、そうだな。リートが気付かない訳ないよな」
『うふふ……そうです。分かれば良いんですよ。マスターは物分りが良いですね』
今後は自分の発言に気を付けよう。相手はそのままの意味で四六時中ずっとキサラギを監視しているのだ。声には出さずキサラギは胸中で密かに誓いを立てた。
「おほん、それで原因はわかりそうか?」
『推測ですが電波干渉だと思われます。恐らくこの星に何か原因があるのでしょう』
管理AIであるリートは無数のナノマシンを統括しているが、本体はキサラギの体内にある一機のナノマシンだ。本体と無数の子機は量子通信のネットワークで繋がっていた。
「つまりナノマシン同士のネットワークが阻害されているってことか?」
『はい。本体との距離が近い子機に関しては正常に交信が可能ですが、距離が離れた物に関しては交信が途切れます。大気圏突入時の急な動力炉の出力低下といい、この星には何かあるのかもしれません』
両者の共通点はこの星に来た時を境に起きたという点である。この星に何か原因があると考えるリートの推論は妥当なものだった。
『ん? 機体の熱センサーに反応! このサイズは……人間と同等の大きさです』
「モニターに表示してくれ。映像で確認したい」
メインカメラを通して外部の映像がモニターに表示させる。
『■■――!?』
そこには顔を驚愕に染め息を呑む白衣の少女の姿が映し出されていた。少女の傍らには執事服の老人が付いており、程度の違いこそあれ同じ驚愕の表情を浮かべている。
『現地人のようですね。言葉はわかりませんが、白衣を着ている方はこの星の技術者でしょうか?』
「あぁ、だが老人の方は剣を持ってるぞ。念の為に細工が無いか調べてくれ」
『了解。【シュナイト】のセンサーでスキャンしてみます』
キサラギの居た世界では剣は既に骨董品の部類に入る武器だ。しかしこの星は剣などに偽装した武器が存在しないとも限らない。
『スキャン――完了。どうやら普通の剣のようです。刀身から算出した冶金技術の水準は地球でいう中世レベルですね』
「どうやらこの星の技術レベルは低いみたいだな」
『はい。宇宙進出のレベルにも達していないようです。機工戦騎のような機動兵器を製造する技術は無いと思われます』
「そうか……ひとまずは安心だな」
事故とはいえキサラギ達の訪問の仕方は決して穏やかではない。【シュナイト】は着地で森を丸ごと吹き飛ばしたのだから、この星の人間からすれば侵略者と思われても不思議は無いだろう。
『どうしますか? マスター』
「そうだな……」
モニターの向こうでは白衣の少女と老人が言い合いをしていた。
『■■■■■■■! ■■■■■■!』
『■■■■■! ■■■■■■■■■■■!』
言葉はわからないので詳しい内容は不明だが、様子から察するに【シュナイト】に近寄ろうとする少女を老人が止めているようだ。
現在の【シュナイト】は万全とは程遠い。機体を置く人目に付かない安全な場所も必要になるだろうし、資材や物資の補給も重要だ。
それに理由も無く同じ人間同士で敵対するのも気分が悪いだろう。
「よし、接触するぞ」
『待ってください。マスター』
「どうした? 」
『もしかしたらアレは人間に擬態した食人種かもしれません』
「は? 流石にそれは無いだろ」
『いいえ! 油断してマスターが彼らに近づいた所をそのまま……パクッ! と、食べられてしまう危険性があります』
「いや、それは無いだろ。まったく……お前はAIのクセにB級映画の見過ぎだ。娯楽作品を嗜むのは良いが、冗談は休み休み言え」
『そんな! 私は本気でマスターの為を思って……』
「いいから準備をしろ。今はその方が俺の為になる」
リートの冗談か本気か怪しい言葉を流して、キサラギは着ているパイロットスーツの襟を閉める。普段は着崩しているソレを正すのは場所が未知の場所だからだ。
『外部の環境状態が未調査なのでヘルメットの着用を進言します』
「そうだな。機体は直ぐに動かせるようにしていてくれ」
『了解。システム――待機モードに移行します』
「じゃあ、行きますか」
操縦席のベルトを外すと椅子の下からヘルメットを取り出す。本来ならナノマシンであらゆる環境に適応出来る筈だが、今回は生命維持装置付きのヘルメットを被る。
『待ってください。最低限の武装は携帯すべきです。マスター』
「はは……リートは心配性だな。たかが剣で俺が死ぬと思うか?」
『思いません。しかし自衛の手段は多い方が良いでしょう』
「はいはい。わかったよ」
冗談ではない真摯なリートの気遣いに、キサラギは苦笑しながらスーツの腰にナイフと拳銃を提げる。位置は相手を刺激しない為に正面から見えないようにした。
準備が完了するとリートが操縦席のハッチを開放し外に出る。
視界に飛び込む青空が何処までも澄み切っていて綺麗だった。
ルシフェラ・セリクスは優れた“錬金術師”である。
セルディオでは“魔術”を扱う者を“魔術師”、その研究を専門に行なう者を“錬金術師”と呼ぶ。尤も“錬金術師”は“魔術”の才能が無い者を揶揄する意味合いが強い。
しかしルシフェラ・セリクスは研究者として優秀だった。人目を忍び“魔の森”で暮らす彼女は自身の研究成果を世間に公表することは無いが、彼女の研究する“刻印魔術”はセルディオでも最先端の技術であった。
その彼女をしても目の前にあるソレは異常なモノであった。
「な、何よ……コレ」
遥か天空より飛来した漆黒の巨人。一体どれ程の馬鹿げた強度を持つのか、落下の衝撃だけで“魔の森”を吹き飛ばして尚もソレは原型を留めていた。
力なく大地に膝を付く姿はお伽話に登場する破壊の“魔神”を彷彿させる。
「これは魔神を模った置物? それとも全身が金属の生き物なの? いえ、仮に生物だとしてもアレだけの衝撃を受けて生きているのかしら? いいえ、やっぱり……」
脳内に存在する知識を総動員し思考する。これまで研究の為に読み漁ったどの文献にもこのようなモノは記載されていなかった。即ち“魔神”はこの世界において完全な未知のモノであることを意味する。
「ふ、ふふふ……コレは研究のし甲斐があるわぁ~」
この“魔神”のことが知りたい。狂おしい程の好奇心がシェラの脳裏を満たす。研究者の悲しき性なのか、既に彼女の脳内に隠れ家の森を吹き飛ばされたことも、ブライが淹れてくれた紅茶を台無しにされた事実も、綺麗さっぱりと抜け落ちてしまっていた。
例えコレが災厄を呼ぶ“魔神”であろうと関係ない。もっと近くで見てみたい。砂漠で一滴の水を求める旅人のようにシェラは“魔神”へと近付いて行く。
「お待ちください! おじょうさま!」
「放しなさい! 私はアレを研究するのよ!」
シェラは羽交い絞めにされながらも “魔神”へと手を伸ばす。彼女の求める声が通じた訳ではないのだろうが、今まで微動だとしなかった“魔神”に変化が起きた。
“魔神”の腹部を開き中から人影が出て来る。
「腹から何か出て来た!?」
灰色の表皮と兜のような形状の頭部。背丈は人と変わりないが、その異形の姿は“魔神”の腹から産まれた悪魔の子のようである。
「うぬぬ……化け物の腹から出て来るとは面妖な奴! お嬢様、ここは私に任せてお逃げ下さい!」
「落ち着きなさい。どうやら向こうは私達に用があるみたいよ?」
「ですが、お嬢様! あの面妖な面構えをご覧ください。もしや人型に化けた怪物かもしれません。お嬢様が油断して近づいた所をそのまま……パクッ! と、食べるつもりですぞ」
「貴方、一体どこからそういう知識をつけて来るの?」
呆れるシェラを尻目に人影は“魔神”から飛び降りると両手を挙げて立ち止まる。その動作は自分の無害をアピールしているようにも見えた。シェラとは逆にブライは密かに警戒心を上げる。
「貴様……何者だ」
「■■■■■■」
「む、むぅ……」
「どうやら言葉が通じないみたいね。ブライ、お願い」
「畏まりました。お嬢様」
ブライはシェラの意志を正しく理解し“翻訳”の魔術を唱える。本来は魔物や動物と円滑に意思疎通する為の術だが試してみる価値はあった。
「!?」
「安心して害は無いわ」
警戒し身構える相手にシェラは真摯に微笑みかける。言葉はわからないのだろうが、こちらに害意が無いのは通じたようだ。身構えるのを止めブライの詠唱を静観する。
“翻訳”の術が完成し淡い光が降り注ぐ。微細な光の粒が両者に浸透し互いの“意志”を相手に伝える。
「さて、これで話が出来るようになったかしら?」
訊ねるシェラに答えた声は、若々しい男性のものだった。
「なっ――お前ら俺に何をした!?」
「あら? どうやら殿方のようね」
異質な形をしているが、初歩的な魔術で驚く様にシェラは微笑ましさすら覚える。
「何故いきなり言葉が通じるようになった」
「翻訳の魔術よ。知らないかしら?」
「魔術だと? この地にはそんなオカルトみたいな物があるのか」
「ええ、察するに貴方は空の向こう側から来たのかしら?」
「そうなるな。まぁ、落ちて来たのは不本意だが、な」
ブライがその言葉に息を呑む。それが真実なら目の前の人物はセルディオの外。しかも伝説にあるような天上の世界から来たことになる。
「そういえば自己紹介がまだね。私はルシフェラ・セリクス。シェラって呼んでくれて構わないわ」
「お嬢様! このような得体の知れない者に軽々しく――」
「良いのよ、ブライ。彼には聞きたいことが沢山あるの。これ位は当然の礼儀よ」
「ぬぅ……私はブライ。ルシフェラ様の執事をして……おります」
「俺の名はキサラギ。苗字は無いから呼び捨てで構わない」
「わかったわ。キサラギ」
「畏まりました」
キサラギの自己紹介に丁寧に応えるブライだったが、内心ではキサラギへの警戒を解いた訳ではない。その証拠に彼はいつでも腰の剣を抜き放てるようにしていた。
「さて、自己紹介も済んだし早速だけど本題に入りたいのだけど?」
「俺もそれで構わない。こっちとしても時間が惜しい」
キサラギもブライに警戒されていることは察しているようで、気付いていた上で黙殺していた。従者の心配を余所にシェラは嬉々としてキサラギに問い掛ける。彼女の指差す先には膝を突き佇む漆黒の巨人があった。
「ねぇ、アレは何なのかしら? 生物なの? それとも何かを模った巨大な置物なの?」
「いや、あれは機工戦騎だ」
「ましね・りーぜ? それがアレの名前なの?」
「違う。機工戦騎は総称だ。あれの名前は【シュナイト】――分かり易く言うなら機械仕掛けの人形だ」
「人形!? あの巨人が絡繰で動く人形だって言うの?」
キサラギの口から出た思わぬ言葉にシェラは仰天する。あれ程の破壊をもたらす存在が人形――意志も持たぬ存在だということに驚きが隠せなかった。
「絡繰って……随分と古風な言葉が出て来たな。人形と言っても機工戦騎は立派な兵器だ。そして俺はその操縦者をやってる」
「アレが兵器ですって!? しかも操縦者ってキサラギはアレを動かせるの!?」
「ッ!?」
純粋に驚くシェラの隣でブライが息を呑んだ。如何にブライが剣術や魔術に精通する一流の戦士であってもアレの相手をするのは不可能である。何とかシェラだけでも逃がせないか悩むブライとは対照的にシェラは狂喜していた。
セルディオでも珍しい “錬金術師”――生粋の研究者たる彼女は目の前にある未知の技術に興奮していた。
(コレよ! 機工戦騎……【シュナイト】さえあれば私の野望は成就する!)
機工戦騎さえあれば――
この力を自分が手に入れれば――
気付いた時にはシェラはキサラギの手を取っていた。
「お願い。機工戦騎を私に売って!」
「断る」
「どうして!? お金なら言い値で出すわ。私にはアレがどうしても必要なの!」
短い拒否の言葉にシェラの頭に血が上る。思わず掴み掛かる彼女にキサラギは全く動じない。
「無理だな。第一に【シュナイト】は俺にしか動かせない」
「そ、そんな……」
彼の声は酷く平坦で彼の言葉が事実しか述べていないことを表していた。膝から力が抜ける。文字通り降って湧いたと思った希望は、幻のように彼女の手からすり抜けてしまう。主の絶望する様を見て黙っていられるブライではなかった。
「貴様っ!」
叩き斬る!――訳にもいかない。主の要求を無碍にする無礼者でも彼が主の関心の対象であることも事実だ。この場は首の皮一枚で刃を止めて心胆を寒からしめてやる。
抜き放たれた刃は狙い違わずキサラギの首の皮一枚だけを切り裂き止る。
「ぬ、お主……」
「…………」
だが、ブライの予想とは異なりキサラギの反応は皆無だ。身構えもせず顔も見えないが眉一つ動かした様子が無い。
「あわ、あわわ……!」
むしろ従者の突然の凶行にシェラの方が慌てていた。
「「…………」」
無言で睨み合うブライとキサラギ――両者の沈黙を破ったのは、この場に居ない筈の第三者……少なくともブライやシェラにとっては予想外の声だった。
『環境調査完了しました。もうヘルメットを取っても問題ありません。マスター』
何処からともなく聞こえる女性の声にシェラとブライが唖然とする。リートの本体はキサラギの体内にあるのでブライの“通訳”の魔術は彼女にも一緒に掛かっていた。
「そうか、面倒を掛けたな。リート」
『いえ、遠隔操作が出来ないので手間取りましたが、その分だけ情報も手に入りました』
「はは……なら良いさ」
キサラギは姿の見えない誰かと話している。必死に声の出所を探すが話し相手は影も形もない。二人の視線は自然とキサラギへと向けられる。
「ふぅーやっぱり外の空気は直に味わいたいよな」
異形の頭部――否。ヘルメットを脱いだキサラギの顔が晒される。風に揺れる短い黒髪と鋭く攻撃的な気性を滲ませる翡翠色の瞳。顔の造りや肌の色こそ若干の違いはあるが、目の前の男は紛れも無く人間であった。
「「に、人間!?」」
二人の驚愕の悲鳴が更地となった“魔の森”に響き渡った。
ふと風が少しだけ強くなる。吹き込む強い風は遠方より雲を運んで来るだろう。
それはやがて嵐となるか今はまだ誰も知らない。
どうも、最近になって主人公の名前とペンネームが被ってることに気付いた如月八日です。ご意見やご感想は大歓迎なので気軽に書き込んでください。