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22.賭け

「馬鹿な! 荷電粒子砲だと!?」

 【テュラン】の胸部から荷電粒子の光が放たれた。

 暴力的なまでの閃光の奔流が石造りの砦を紙屑のように消し飛ばす。“魔素”の影響か射線が大幅に拡散してはいたが、それは本来有り得る筈のない光景だった。

「リート。出力五割の状態で荷電粒子砲の使用が可能だと思うか?」

『ありません。【テュラン】の動力炉は正常に稼動しているのか、あるいは――』

「何かタネがあるのか……だな」

 小型とはいえ荷電粒子砲は戦艦の砲撃に相当する武装だ。その使用には莫大なエネルギーを必要とする。【シュナイト】のように動力炉が本調子でない状態で易々と撃てる代物ではない。

「戦闘は俺がする。お前は【テュラン】を調べろ」

『了解。無理はしないでください』

「それは保障しかねる、な!」

 両手の爪を展開――発射後の硬直で棒立ちする【テュラン】へ機体を駆る。

 馬鹿正直に正面から攻めても駄目だろう。なので狙うのは操縦席ではなく右腕だ。

 先程の一射で【テュラン】は地面に剣を突き立てていた。恐らく荷電粒子砲発射の反動を抑える為の動作だろう。

「まずはソレを潰す!」

『はん、甘ぇぜ!』

 銀の巨爪が閃く。奇襲の一撃は狙いすましていたかのように右手の剣で迎撃される。

 既に【テュラン】の硬直は解けていた。素早く大地から剣を抜くと、【テュラン】は左右の剣を握り直す。

 キサラギは追撃を選択しなかった。機体を後退させると【テュラン】の間合いから外に出る。

 レオンも追い討ちをかける気はないようで、両者は互いに一足で切り込める距離を維持したまま睨み合う。

『狙いは悪くなかったぜ。まったく、油断ならねぇ奴だよ。お前は』

「まさか荷電粒子砲が使えたとはな」

『お前を倒す為に高い金を出して取り付けた“とっておき”だ。一回しか使わないのは勿体無いだろ?』

「くっ……その一回で俺はえらい目に遭ったがな」

 この星に来た原因を思い出し、キサラギが苦虫を噛み潰す。

『はははっ! お前はここがあまり気に入らなかったようだな』

「ふん、お前は楽しそうだな?」

『ああ、楽しいぜ。この星には“戦い”が満ちてやがる』

「それは向こうも一緒だ。だから俺達みたいな職業が成り立つ」

 無人兵器が主流となり人が死ぬことが極端に少なくなっても、戦争があるからキサラギのような傭兵が必要とされる。キサラギはそう考えていた。

 だが、レオンはそうではなかった。

『違うね。所詮、向こうの戦争はお遊びだ。戦うのは玩具ばかり……戦争ってのは生きてる奴がするもんだ。こんな風に、なッ!!』

 【テュラン】の姿がブレる。一瞬とはいえ、この時のキサラギは完全に【テュラン】の動きを捉えきれなかった。

 ブンッ!

 振り下ろされた剣が大地を割る。瞬時に【シュナイト】の側面に回りこんだ【テュラン】は何も無い空間を切った。

『一応は依頼なんでな。逃がしゃしねぇーよ』

 地面にめり込む刃の下から赤い染みが広がる。側に転がる棒切れには見覚えのある宝玉が嵌められていた。

『マスター。あれは……』

「ああ、さっきの宮廷魔術士だ。あの一瞬で逃げていたのか」

 そのことにも驚いたが、何より不可解なのは一連の【テュラン】の高速機動である。

 別に出鱈目なスピードという訳ではない。標準的な性能の機工戦騎ならば、あの程度の機動は造作も無いことだろう。【シュナイト】にも同じことが出来る。

「万全の状態なら、な……」

『ええ、間違いありません。どういうカラクリかは分かりませんが、【テュラン】の動力炉は百パーセントの出力で稼動しています』

「ちっ……予想以上に不利な状況みたいだな」

 元々の機体性能は互角だとしても、それを動かす為の動力炉に明確な差があれば勝負の結果は自ずと見えてくる。

(こりゃ、真剣にヤバイかもしれないな)

 離脱は不可能だ。何せ相手は空を飛べる。地上を走る【シュナイト】では逃げ切れないだろう。

 交戦も論外だった。こちらは機体性能の面で最低でも一世代は差を付けられていると言って良い状態である。まともにやり合っても勝てる見込みは皆無だ。

『さぁ、邪魔者は消えた。第二ラウンドと行こうか?』

「何とか勝機を見付けるしかないか……」

『ハッハァー! まだまだ楽しもうぜぇ、キサラギィィー!』

 突撃して来る【テュラン】を迎え撃つ。双剣の一撃を正面から受けずに、手甲の丸みを利用して外側へ逸らす。決してこちらから攻撃に転じることはしない。

 キサラギはひたすら攻撃を受け流すことだけに専念する。

「頼むぜ。相棒……」

 今は相棒を信じて時間を稼ぐ。それがキサラギの打てる最善の手だった。

 

 

「信じられん。これ程の力を持っているとは……」

 アルフォンス率いる騎馬隊は生きていた。ゲシュト砦が荷電粒子砲の洗礼を受けた時、彼らはアルフォンスの機転のお陰で難を逃れていた。

「は、はは……何だよ。これ」

「砦が……消えちまったぞ」

「だ、団長! 我々はどうすれば――」

 部下達は白い魔神が放つ謎の光で砦が消失。その一部始終を目撃した者の大半がパニックを起こしていた。アルフォンスも出来るものなら彼らのように喚き散らしたいが、彼は西天騎士団の団量で部隊を指揮する将である。

「うろたえるな! 部隊を集めろ。ここから撤退するんじゃ」

「よ、よろしいのですか?」

 副官の男が聞き返す。魔神の討伐を視野に入れていたが、彼らが本来命じられた任務は砦の防衛だった。今のアルフォンスの命令はその任を放棄することにも取れる。

「構わん。責任はわしが取る。それに護る砦が消えては陛下も怒りようがないわい」

 ならば一人でも多くの兵を生かす。砦に居た部隊を指揮していた宮廷魔術士が死に、アルフォンスには生き残った兵を無事に帰す責任がある。

「お前は部下を率いて砦に行け。生き残っている者が居れば救助するんじゃ。踏み潰されるんじゃないぞ」

「はっ! お前らは俺に続けぇー!」

「「「おおぉー!」」」

 副官が部下を率いて砦の跡地へと向かう。その側では未だに白と黒の魔神が激突を繰り返していた。

「白の方が有利じゃな……」

 ぶつかり合う二体は、先程までと違って優劣がはっきりしている。怒涛のように攻める白い魔神に対し、黒い魔神は防ぐので手一杯に見えた。

「…………」

 追い詰められる黒の魔神をアルフォンスは複雑な思いで見詰める。

 部下を何人も殺した相手の窮地を喜ぶべきか――

 現れた新たな脅威に嘆くべきか――

「む……」

 魔神同士の戦いは移動しながら続いている。魔神の巨体で人間同士の戦いのように戦闘を行えば、戦場が荒れるのは必然だろう。

 白い魔神の斬撃を黒い魔神は受け流すが、地力の差か少しずつ後退を余儀なくされている。

「いかん!」

 後退する魔神の向かう先には、生存者が居ないか調べに行った部下達が居た。

 このままでは踏み潰されてしまう。

 しかし援護するのは危険だった。そもそも砦を消滅させるような一撃を使わせた原因は、宮廷魔術士がした不意打ちにある可能性が高い。

「ぐっ……ぬぅ」

 アルフォンスは歯噛みして見守るしかなかった。むざむざ兵を危険に晒す訳にはいかない。生き延びた自分達には“白の魔神”という新たな脅威を皇帝に伝える義務がある。

 覚悟を決めるアルフォンスだったが、その予想は意外な形で裏切られた。

「受け止めた……じゃと?」

 砦が消失してからずっと黒の魔神は攻撃を受け流して持ち堪えていた。

 だが、何故か今回は流しも、避けもせずに正面から受け止める。

「何故じゃ!? 何故受け止めた」

 別に黒い魔神の力が増した訳でもない。力で勝る相手の剣を正面から受ければ、押し切られることは予想が出来た筈だった。

 しかし現実は違う。黒の魔神は斬撃を受け切れずに姿勢を崩す。

『貰ったぁぁー!!』

 よろめく漆黒の巨人に断罪の剣が振り下ろされる。

 奇しくも肩口に深く剣を食い込ませたその姿は、アルフォンスが斬ったあの時の人間を想起させた。

 だが、魔神の置かれた状況はあの時より絶望的である。

 ザンッ!

 白の魔神は力任せに剣を振り切る――煌く銀の軌跡に沿って黒い腕が宙を舞う。

 本当の理由はアルフォンスにもわからない。それは全くの偶然なのかもしれない。

 ただ確かなことは彼の部下は死ななかった。

 憎むべき黒の魔神かたきの片腕と引き換えにして……

 

 

 キサラギも別に彼らを助ける気など無かった。

 一度は敵対した者同士。しかも指揮しているのはキサラギを斬ったあの老人だ。

 自身の保身を第一に考える傭兵でなくとも、彼らを見捨てる選択をするだろう。

 【テュラン】の猛攻をさばき続けて来た【シュナイト】だったが、そろそろボロが出始める頃合だ。

「まだなのか、リート! これ以上はもう持ちそうにないぞ」

 今もきわどい距離で【テュラン】の剣が通り過ぎる。キサラギは縋るような気持ちで相棒に助けを求めた。

『申し訳ありません。過去のデータと検証しましたが、確証は得られませんでした』

「推測でも何でも良い。打てる手を打たずに死ぬのは御免だ!」

 今でこそ奇跡的に被弾していないが、どこか一箇所でも攻撃が当たれば、逆手の一手すら打てなくなってしまう。

『装備や間接にこちらと同じミスリルによる改修が見られます。しかしこれらが動力炉の回復と直接関係があるようには思えません』

「ああ、それだけが理由なら【シュナイト】にも同様のことが起こっても良い筈だ」

『はい。そこで気になったのが【テュラン】の“頭部”です』

「頭だと?」

 指摘され始めて【テュラン】の頭部を注視するが、ミサイル迎撃用のバルカン砲の発射口が無くなってる以外は変わりないように見える。

『だから妙なのです。“魔素”で照準補正が利かずとも歩兵の掃討くらいには使えます。仮にミサイルの脅威に晒されないからと言って、態々取り外すでしょうか?』

「確かに妙だな」

『しかし確証はありません。単純に弾切れや、他の装備に流用した可能性も――』

「作戦タイムは終了だ。来るぞ」

 迫る一撃を瞬時に見極める。上段から振り下ろされる剣は、こちらの回避を誘う囮だと判断――【シュナイト】は袈裟に振り下ろされる一刀を流さずにその身に受けた。

『貰ったぁぁー!!』

 【テュラン】の剣が【シュナイト】の片腕を切断する。バッサリと切り落とされた左腕が宙を舞う。操縦席に被弾を報せるアラームがけたたましく鳴り響く。

『マスター!?』

 突然の奇行にリートが悲鳴を上げる。自棄でも起こしたのかと危ぶむが、そうではない。

 今の【テュラン】と【シュナイト】の間には超えられない壁がある。攻撃をさばきながら反撃するには両者の性能は離れ過ぎていた。

「こっちも余裕が無いんだ。片腕一本で我慢しろよ、な!」

 キサラギが獰猛な笑みを浮かべる。

 それは文字通り機会を窺い研ぎ続けられた反撃の“爪”だった。

攻防式手甲シュライ――放熱グリューエン!」

 残された右手の爪が赤く輝く。供給をカットした左腕の余剰エネルギーを注ぎ込まれたミスリルの爪が膨大な熱量をその身に宿す。

「ぶち抜けぇぇぇぇー!!」

 繰り出すのは捨て身のカウンターだ。回避しながらの攻撃が不可能なら回避せずに攻撃するしかない。まさに肉を切らせて骨を断つ、である。

『うおッ!?』

 迫る渾身の“突き”を【テュラン】は双剣を交差させ防ぐ。

 銀の双剣と真紅の爪が火花を散らし激突する。

『ぐ、ぬぅ!?』

 赤熱する爪は単純な馬力の差を覆す。【テュラン】の双剣が僅かに溶け出したのだ。

『ちぃぃぃ!』

 忌々しげな舌打ちと共に【テュラン】が双剣を手放し後退する。

 半ばまで焼き切られた双剣が大地を焦がす。【シュナイト】が腕一本を犠牲にして放った一撃は、見事に【テュラン】の武器を破壊した。

『今です、マスター! 追撃を!』

「わかってる!」

 双剣を失った【テュラン】に残された武器は一つしかない。

 反動を抑える為の双剣を無くしたとはいえ、撃てない訳ではない筈だ。

(撃たせる前に叩く!)

 チャージする時間は与えない。キサラギは果敢に距離を縮めて攻め切ろうとする。

 武器を無くしたとはいえ、こちらも片腕を失っている。おそらく接近戦は【テュラン】の方がまだ有利だろう。

(ちっ、まだ分の悪い賭けが続きそうだぜ)

 腹を括るキサラギだったが、事態は思わぬ展開を迎えた。

 後退した【テュラン】は荷電粒子砲を撃とうともせずに空へと逃れる。

『ふん、どうやら時間切れ(・・・・)らしい』

 【テュラン】は空中に留まると【シュナイト】を見下ろす。だが、その動きはふらふらとして頼りない。

「何? それは一体どういう意味だ」

 その様にキサラギは違和感を覚えるが、深く考える時間は与えられなかった。

『依頼は既に果たした。お前との決着は次の機会に預ける。その時を楽しみに待っているんだな、キサラギ! ハハハッ! ハッハッハッ!』

 【テュラン】は大空へと上昇。あっという間に高度を稼ぐと雲の中にその身を隠し飛び去ってしまう。

 その場にレオンの高笑いと、片腕を失った機工戦騎だけが残された。


どうも、如月八日です。

今回も完成した分を投稿します。

今話で戦闘も一区切りです。次回は久しぶりにヒロイン視点の予定です。

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