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21.光

 大空を白い天使が飛翔する。

 太陽の光に純白の鋼が煌く。二対の翼は鳥のような羽ばたきを一切行わず、炎を吹き出し青く澄む快晴の空を飛んで行く。

 遥か異邦よりセルディオに来た“魔神”――機工戦騎【テュラン】は真っ直ぐに目的地を目指していた。

『間も無く目標地点の上空です』

 モニカの言葉にレオンは外部の映像を確認する。現在の【テュラン】はかなりの高度を飛行中だ。地上からでは豆粒程度の大きさでしか見えないだろう。

 レオンが高度を下げようとした矢先、モニカが警告を発する。

『目標地点で大規模な戦闘を確認……襲撃されているようです』

「ほう、人間の軍か? 随分と手際が良いみたいだな」

 “魔素”の影響で機工戦騎のレーダーは機能しない。外部の情報を得るにはカメラによる光学映像か集音マイクの音に頼る他ない。

『いえ、襲撃者は機工戦騎です』

「キサラギか!? 映像を回せ」

 モニカは拡大したメインカメラの映像を映し出す。そこにはレオンが焦がれて止まない宿敵の姿があった。

「ハハハッ! そうか、お前もここを落としに来たのか! さすがはキサラギだぜ。お前も片方だけに喧嘩を売るようなセコイ奴じゃねぇーよな。クハッハッハッ!」

 漆黒の巨人の姿にレオンは堪らないと、顔を手で覆って笑う。指の隙間から覗く碧眼に喜悦の炎が燃える。

『外観や装備に若干の相違が見られます』

 狂気すら感じさせる主とは別に、モニカは冷静に己の役目を果たす。

 再会した【シュナイト】は両腕部に巨大な爪の生えた赤い手甲をしている。他にも機体各部で淡い銀色が目立つ。以前のままということはあり得ないだろう。

「こっちと同じ地上用に改修済みのようだな。クククッ! 特にあの爪をやり甲斐が有りそうだ」

 画面の中で【シュナイト】は両手の爪を巧みに操り、怒涛のような連続攻撃で砦を守る防壁を削っている。

「ク、クヒヒッ! モニカ! システムを戦闘モードに移行しろ」

『了解。戦闘モードに移行』

『生体反応――良好』

『機体状況――良好』

『機体接続――良好』

 機体各部に掛けられた移動用のロックが解除されていく。

 純白の天使は砦の真上で一度静止した。

『【テュラン】――起動』

 頭部のメインカメラが青く灯る。枷を外された鋼鉄の巨体が低く唸り声を上げる。

 それは物言わぬ人形に魂が宿るかの如く、機工戦騎という名の怪物が歓喜の雄叫びを上げていた。

「さぁ! 楽しもうぜぇー、キサラギィィィー!!」

【テュラン】は腰に帯びた二本の剣を抜くと、脇目も振らずに突撃した。

 

 

「くっ!」

 キサラギは咄嗟に機体を飛び退かせて、頭上からの一撃を回避する。空を切った剣が勢い緩まず砦の城壁を抉った。

 メインカメラが捉えた【テュラン】の姿に思わずキサラギは舌打ちする。

「ちっ、あの野郎め。やっぱりこの星に来てやがったか」

『気を付けてください。以前と装備が違います』

「ああ、わかってる」

 前の戦いでは【テュラン】はビーム主体の装備だった。しかし“魔素”の満ちるセルディオではビーム兵器は十分な出力を確保できない。

「やはり“剣”か……」

 【テュラン】の両手には二本の剣が握られている。刃の緩やかな流線型に反して真っ直ぐな峰――“ファルシオン”と呼ばれる種類の片手剣だ。叩き切ることを前提とした剣で、刀身が短い分取り回しが利く。接近戦を好むレオンらしい武器だった。

「どうやら向こうは飛べるらしいな」

 背部の追加ブースターで【テュラン】は単独での飛行が可能らしい。

 だが、何も状況は悲観するようなことばかりでもない。

『はい。ですが、遠距離用の武装は無いようです』

 あのアンカーワイヤー仕込みの盾も見当たらない。接近武器だけなら攻撃の瞬間はこちらの攻撃も届く筈だ。

『動力炉のこともあります。恐らく空中戦には出力が足りないでしょう』

 それにエネルギー消費の少ない実弾を使った遠距離用の武装も、“魔素”の影響で照準補正が利かない現状では、機工戦騎にとって大した脅威にはならない。

「条件は五分だ。なら――」

 メインブースターを噴かし爆発的な勢いで機体を前進。そのまま着地した【テュラン】との距離を詰める。

『ハハハッ! 腕は鈍ってないだろうな。今日こそ――』

 【テュラン】も両手の剣を構えてそれを迎撃する。

『「俺が勝つ!」』

 奇しくもキサラギの声とレオンの声が重なる。交差する刃と爪が互いに火花を散らす。

互いの硬直は一瞬だった。

「うらぁぁー!」

【シュナイト】が下から左腕の爪を突き出す。容赦の無い操縦席を狙った一撃を【テュラン】は僅かに半身をずらして避ける。

 お返しとばかりに【テュラン】が残る剣を真横に薙ぐ。同じように操縦席を狙った必殺の斬撃を【シュナイト】は腕の手甲で弾いた。

 互いに両手を駆使した攻撃を、双方が見事な防御でさばき合う。

 初撃は全くの互角――かに見えた。

「まだだ!」

 両手の塞がった状態からキサラギが更なる一撃を繰り出す。跳ね上げるような膝蹴りが【テュラン】の操縦席の前を掠める。

 惜しくも回避されたが、【テュラン】は一度大きく後退した。

『はんっ、相変わらず足癖の悪い野郎だな? キサラギ』

「嬉しそうにするな。お前の方こそ相変わらず気色の悪い奴だ」

 毒づくキサラギだったが、その顔に落胆の色はない。お互いに相手の技量はきちんと把握している。この程度で決着が付くとは微塵も思っていなかった。

『さすがはマスター! 接近戦もばっちりこなせています』

 慣れない接近戦で【テュラン】を後退させたキサラギが歓声を上げる。

『問題ありません。剣速はこちらの方が上です』

 一方でモニカは冷静に状況を読み取る。

 互いの声は両者の耳にも届いていた。そして新たな戦いの火蓋が落とされる。

『まだ理解してないようですね。一番強いのは私のマスターです』

『貴方は贔屓が過ぎます。AIなら公正な判断をしてください』

『『むむむ……』』

 二人のAIが火花を散らす。ある意味で主人以上に白熱している。

 だが、その間も戦いは続いていた。

『ハハハッ! 楽しもうぜぇー!』

【テュラン】は飛ぶような踏み込みから左右の剣を振るう。機工戦騎の巨体から熟練の剣士のような華麗な連撃が繰り出される。

「お断り、だ!」

 【シュナイト】はそれを両手の手甲で防御する。キサラギも防戦一方というわけでもなく、僅かな隙を見付けては操縦席を狙った反撃を見舞う。

 キサラギが執拗に操縦席を狙うのには理由がある。現在の【シュナイト】では単独で宇宙に上がる能力は無い。しかし【テュラン】の追加ブースターがあれば出力の問題は残るが、それさえ解決すれば可能になるだろう。

 何より相手は同じ機工戦騎である。言ってみれば予備パーツの塊だった。

(なるべく無傷で手に入れたいが……やはり難しいな)

 操縦席を潰せば文字通り一撃必殺となるが、勝てるかもわからない相手に妙な色気を出してやられては元も子もない。

 きわどい攻撃の応手を交えながら二機の戦闘は続く。

『ふはははっ! やっぱりお前は最高だぜ。キサラギィィー!』

「俺は最悪だよ。この殺人狂が!」

 【テュラン】が上段から唐竹に剣を振り下ろす。見え見えの囮だが、避けない訳にもいかず、キサラギは機体を左にステップさせ回避する。

『おいおい、誤解だぜ。俺が一番好きなのは戦うことさ』

「なら何故依頼で無用な殺しを繰り返した!」

 レオンが同業者から恐れられるのは卓越した機工戦騎の操縦技術だけでなく、殺しを楽しむ残虐な性格を考慮されてのことだった。

 事実としてレオンが関わった依頼で死人が出なかったことは一度もない。それも敵味方を問わず、である。

『カハハハッ! 戦うことは好きだぜ。だが、どうせ戦うなら強ぇ奴が相手じゃなきゃ意味がねぇーってこと、さ!』

 【テュラン】が振り下ろしの剣が空中で制止。そのまま太刀筋を曲げて追撃の横薙ぎに派生する。

「見え透いた嘘を……お前は敗北を認めた相手でさえ殺す奴だ」

 無人兵器の主流となる戦場で、機工戦騎同士が戦うことは稀だ。その中でもレオンが多くの傭兵を葬って来たのは、彼が意図的に相手を殺害しているからに他ならない。

『ハッ! 別に嘘じゃねぇーさ。俺はただ強い奴との戦いを楽しみたいだけだ。弱ぇのに戦場に居る方が悪いんだよ。戦いで楽しめないなら後は精々殺して楽しむくらいしかないだろ?』

「く、腐ってやがる」

 狂気すら感じさせる不遜な物言いに、キサラギの思考が赤熱する。

 【テュラン】の横薙ぎを手甲で受け流すと、キサラギは機体を更に懐へと飛び込ませた。

「そんな戦いたいなら無人兵器と遊んでろ!」

 一度“爪”を収納して剣の間合いの内側から拳を突き出す。

『あんな玩具じゃ満足できねぇーな』

「なら他を当たれ。俺に付き纏うな!」

 突き出す拳から再度“爪”を展開させる。バックステップで避けようとした【テュラン】にミスリルの爪を突き刺す。

『つれないこと言うなよ。お前は別だぜぇ、キサラギィ』

「くっ……」

 だが、それも左右の剣を交差させて受け止められた。

『相手の裏を掻く柔軟な発想、玩具ごときには真似できねぇ』

 そのまま攻守が逆転。今度は【テュラン】の蹴りが【シュナイト】を襲う。

 手甲で受けてしまっては硬直し隙が出来てしまう。飛んでくる蹴りをキサラギは機体を後退させてかわした。

 無論、不用意に追い討ちがくればカウンターを合わせるつもりだった。

『そうだ。その殺気だ。一撃でこっちを殺しに来るような容赦の無い攻撃。やっぱりお前は最高だぜ。腰抜けの傭兵どもとはモノが違う』

「ちっ……」

 レオンの口から気に入られた理由を知ってキサラギが舌打ちする。

 そうしなければ殺されていたとはいえ、それが原因でこんな所まで追い回されては堪らない。ふつふつと怒りが込み上げて来るが、激情に駆られて戦うのは危険だ。

 相手はあのレオン・ブランデルなのである。

『マスター。このままでは決着が付きません』

「ああ、知ってるよ」

 決定打が無いのだ。遠距離用の武装が軒並み使えなくなってしまった今、【シュナイト】に残されているのは攻防式手甲シュライだけである。

 それも【テュラン】の双剣が相手では互角。何とかして致命の一撃を叩き込みたいところだが、その為には何かの策が必要だ。

(他に切れる札もない……どうする?)

 キサラギが必死に思考を巡らせる。リートも同様に打開策を模索していたが、手持ちの材料では確かな勝ち筋をキサラギに提示することは不可能だった。

 一瞬だが戦場に空白が生まれる。二機は互いに睨み合い硬直、先程まで続けられていた苛烈過ぎる攻防は、両者無傷のまま一時的だが鎮火したかに見えた。

 だが、それが大きな間違いだった。

 

 

「み、認めん」

 自分は宮廷魔術士――誇り高き魔族でも最強クラスの魔術使いである。老人はこれまでの長き人生を“魔術”の研鑚けんさんだけに費やして生きてきた。

 その自分が唱えた最強の魔術は“魔神”に傷一つ付けることが出来なかった。

 彼が研鑚を続けた上位雷撃魔術は、魔神の不可思議な護りによって防がれてしまう。

「認めんぞ」

 老人の中で大切なナニカが音を立てて砕ける。それは彼の自信であり、誇りであり、何より老人の人生その物だった。

 彼がショックで自失してしまったのも無理はないだろう。

 気付いた時には既に戦局は激変していた。

「な、何だ。あれは……」

 ゲシュト砦の目と鼻の先で、白と黒の二体の魔神が戦っていた。 

 漆黒の魔神が両手の爪で純白の魔神を襲う。だが手にした双剣を巧みに操り応戦する。

 互角であった。あれ程の力を持つ黒の魔神を相手に白の魔神は一歩も引いていない。

「くっ……認めん。わしは認めんぞ!」

 このような馬鹿げたことがあって良い筈が無い。あの魔神と同格の魔神がもう一体存在したなど、到底受け入れられることではなかった。

「大気に漂う精霊よ。我が意に従い顕現せよ」

 老人は再び詠唱を開始する。本来なら防壁を張る役目の部下達は皆、先程の猛攻でへばってしまっていた。

『『…………』』

 二体の魔神は少し距離を置いて対峙すると、無言でにらみ合いを続けていた。

 老人はこの機会を逃さぬよう全力の攻撃を放とうと動き出す。

「大地を砕く天の怒りよ。聖なる刃で断罪せよ!」

 周囲を漂う魔力が輝きを増す。胸中に渦巻く敵愾心を糧として、全身全霊を込めて術を紡ぐ。膨大な量の魔力が練り上げられる。

「よ、止せ。迂闊に手を出すなぁぁー!」

 遠くでアルフォンスが制止の声を上げたが、老人は詠唱を止めない。彼の背中を押すのは長い年月で凝り固まった自尊心と、未知の存在を認めようとしない固定観念だった。

 制止を振り切り老人は詠唱を完了させる。

上位雷撃魔術ジャッジメント!」

 天より幾本もの雷が雨となって降り注ぐ。その数と太さは黒の魔神に撃った時の2倍以上だった。ありったけの魔力を込め放たれた術は、間違いなく彼の生涯でも最大の威力を叩き出すことだろう。

「「!?」」

 まさかの横槍にも白黒の魔神は不可思議な護りを使ってその身を守る。

 しかし出力の上がった雷の何本かは、障壁を突き破り内部の魔神へと直撃した。障壁に威力の一部を殺されたとはいえ、人ならば一本だけで蒸発させる威力がある。

「はははっ! 消し炭になるが良い! ふはははっ!」

 初めて通用した攻撃に老人は哄笑を上げた。その成果は彼の周囲に座り込む部下達にも伝播していく。

「お、おい。今の……」

「ああ、攻撃が、攻撃が当たったぞ!」

「ははっ! ざまぁみろってんだ。魔神め!」

「勝てる。勝てるぞ!」

 部下達が歓声を上げる。始めてまともに攻撃が当たり、ようやく見えた勝機に彼らは鬨の声を上げた。

 だが、彼らの熱気は一瞬の後に凍り付くことになる。

『貴ッ様カァァァァーー!!』

 白の魔神から恐ろしげな絶叫が響き渡る。変声機を通しているので声質は濁り不鮮明だったが、そこに込められた感情だけは薄れようもなかった。

「ひっ!?」

 青く灯る単眼が真っ直ぐに老人を射竦める。無機質な眼は寒々しい青色の筈なのに、煮え滾る殺意が揺らめいていた。

 再び白の魔神が空を舞う。跳躍というより飛翔に近い動きで砦を飛び越えて、反対側に回り込み逆手に構えた両手の剣を大地に突き立て固定する。

 続く変化は劇的だった。魔神の胸部が四方に開き、中からナニカが迫り出す。

『馬鹿な! カデンリュウシホウだと!?』

 静観していた黒の魔神が驚愕の声を漏らす。荷電粒子砲――老人を含む帝国軍の誰一人としてその意味を知らなかったが、彼らは本能的に理解した。

 アレは危険だ。アレを使わせてはいけない。

「に、逃げ――」

 老人の声は最後まで言葉となることはなかった。

『カハハッ! 死ネェ』

 魔神の胸部で迸る紫電が弾け――破滅の光が放たれた。

 迸る荷電粒子の奔流は、進路上に存在する全ての物質を呑み込み消し去る。

 その日……ゲシュト砦は跡形もなく消滅した。

どうも、如月八日です。

最近は暑い日が続き少しへばりそうです。

皆さんも健康には十分気を付けてください。

それではまた次の更新でお会いしましょう。

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