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17.試験

どうも、如月八日です。

今回は少し短めです。

 キサラギ達は薄暗い裏通りへと入る。

 彼らが暮らす新しい家は裏通りを抜けた先にあった。

 古い洋館だった。長い年月でひび割れた壁を緑の蔦が覆っている。

 住宅が密集する地区からも外れた館は、近くに倉庫と街を覆う外壁しかない。

「うん、いつ見ても中々のカムフラージュだな。とても人が住んでいるようには見えない」

『いえ、マスター。これは擬装ではないと思います』

 キサラギの勘違いを即座にリートが正す。

「ブライが使っていたのは随分と昔だったんだな」

 どう見ても廃墟の洋館を見ていると、キサラギの脳裏にあの日のやり取りが蘇る。

 

「私に良い案がございます」

 言葉とは裏腹に何故かブライは微妙そうな顔で自身の考えを説明した。

 彼の提案は大陸北東部の都市である“ボーレル”に身を隠すというもので、しかも潜伏先は既に目星が付いているそうだ。

「凄いな……いや、これも執事なら当然のことなのか?」

 執事ですから、ブライのお決まりの口癖を思い出して、キサラギは自己完結しそうになるが、意外にも予想に反して彼は別の言葉を口にする。

「ボーレルには昔住んでいた家があるんです」

「へぇ、そうなの? 初めて聞いたわ」

「お嬢様にはあまり昔の話をしませんでしたから……」

 何にせよ居場所が確保してあるのなら後は行動するだけだった。

 

「キサラギ?」

 気が付くとシェラが怪訝な顔でこちらを覗き込んでいた。

「悪い。少し考え事をしていた」

『ブライさんが待ってます。マスター』

 シェラに何でも無いことをアピールして、キサラギは急かすリートに応えて館への歩みを速める。

 年月を感じさせる扉を開いて館へと足を踏み入れる。

「ただいまー」

「戻ったぞ。ブライ」

「おかえりなさいませ。お嬢様、キサラギ様」

 二人が声を上げて自分達の帰還を伝えようとしたが、既に接近を察知していたのか玄関ホールで即座にブライが出迎える。

 ブライにはここ数日の間、館の清掃と食材などの買出しを任せていた。

 彼の洗練された家事スキルによって、数日前まで廃墟同然に荒れていた館も内面だけは、以前の屋敷と同じ位には快適になりシェラは満足していた。

 あれから数日しか経っていないが、キサラギも既に新しい環境に馴染んでいる。

「さて、二人ともお疲れでしょう。直ぐにお茶をご用意いたします」

「お願いするわ。ブライ」

「俺は食い物も付けてくれ」

「はい。それでは焼き菓子もご一緒にお出しいたします」

 言うとブライは音も無く視界から消える。一流の執事はお茶の用意も迅速だ。

 特に何も言わずとも二人はキサラギの部屋へ向かう。引っ越してからずっとお茶をする時はキサラギの部屋で――そんな暗黙のルールが出来ていた。

(きっと不安なんだろうな)

 このお茶会もそうだが、最近のキサラギは四六時中シェラと一緒に行動している。正確にはシェラがキサラギの後を付いて回っている。

 勿論、シェラとキサラギがより親密になったという見方も出来るのだが、キサラギはそうは思っていなかった。

(失敗は許されない。今度こそ俺が守ってみせる)

 キサラギがまた決意を新たにする。

「ふふ……ブライの焼き菓子かぁ~」

 シェラは真剣なキサラギには全く気付かずにブライの焼き菓子に思いを馳せる。

『…………』

 空回りするキサラギをリートは複雑な心境で見守っていた。



「お二人ともお気を付けて行ってらっしゃいませ」

 翌日、ブライに見送られて二人は館を出てボーレルを発つ。目的地のラグル湖は馬があれば半日で帰って来られる距離だ。

 二人は馬を借りてラグル湖に向かうことにした。今回はシェラとキサラギは別々の馬に乗っている。

 前回と比べてキサラギは経験者と呼んでも差し支えない程度には、一人で馬を操れるようになっていた。

 シェラはそんなキサラギの様子に満足したのか頷く。

「うん。もうキサラギの乗馬スキルは完璧みたいね」

「ああ、シェラとリートのお陰だ」

『ナノマシンの補助があれば大抵の技能は習得できます』

「ま、魔術は無理だろうが、な」

『そ、それは未知の技術だからです! 科学的にきちんと理論が解明されれば――』

「あら、リート。私の講義にケチを付ける気なの?」

『い、いえ! 違います。そうじゃありません。私はマスターと私ならいずれは出来るようになるという意気込みをですね』

「あはは、冗談よ。そんなに慌てないでちょうだい」

『むむむ……シェラさんは人が悪いです』

 リートがむくれてしまったが、黙っていても馬の歩みは止まらない。

 二人を乗せた馬はそれなりの速さで降りて行く。

 ボーレルは険しいドグラ山脈の中腹に位置する。それでも交易で栄える街なので、街へと続く山道は荷馬車の為にしっかり整備されていた。

 綺麗に均された道を進む。このままのペースなら昼過ぎにはラグル湖に着くだろう。

「リート。周囲への警戒を怠るな」

『はい、マスター。魔素の影響で長距離の索敵は無理ですが、マスターの死角は補っておきます』

「頼む。ギルドの言うことを鵜呑みにする気はないからな」

 キサラギは旅人用のマントの下にシェラに貰った草色の貫頭衣を着ている。だが腰には護身用にナイフと拳銃を携帯していた。

 これらはユリの魔術障壁の前になす術も無かった装備だが、現在は対策としてシェラに“刻印魔術”を施して貰っている。

「確かにキサラギの言う通り、試験が水汲みだけっていうのは怪しいわね」

 シェラはマントの下に動き易いようズボンを履き、キサラギと同じタイプの黒い貫頭衣を着ていた。

「いざとなれば私も援護するわ」

 勇ましく宣言するとシェラは腰のベルトから刻印銃を引き抜く。

 彼女の射撃技術と刻印銃の力なら攻撃魔術が使えない彼女でも、キサラギの援護が出来るだろう。

「それにしても【シュナイト】の研究が出来ないのは苦痛だわ」

「少しの辛抱だ。冒険者の資格さえ取れれば後はどうでも良い。真面目に依頼を受ける必要は無いさ」

 キサラギがギルドに加入する目的はギルドカードだった。

 余所者のキサラギにはセルディオで身分を保証する物が無い。ギルドカードは産まれや種族に関係なく誰でも入手することが出来る。

 ギルドの試験に合格する必要はあるが、キサラギが行動する可能性の高い人間の国で使える最も簡単な身分証なのだ。

「そういやシェラは何で一緒に試験を受けたんだ?」

「私もキサラギと同じ身分証目当てよ。ま、理由はそれだけって訳じゃないんだけどね」

『そうなんですか?』

 意味深に笑うシェラにリートが興味を持ったらしい。キサラギとしても試験とはいえ、護衛対象を外に連れ出す理由となったことなので興味があった。

「別に大層な理由がある訳じゃないわ。両親が二人とも冒険者だったの。だから少しだけ興味があったのよ」

『ご両親がですか? それは何と言うか意外です』

「あの屋敷だからな……てっきり両親は貴族か商人だと思っていたぞ」

 これまで一度も話題に上らなかったので、キサラギは彼女の両親が既に死んでいることには驚かなかった。

「ふふ……そうね。でも、あの屋敷も元は両親が冒険で手に入れた財宝や報酬で作った物なのよ?」

「へぇー冒険者って成功すると随分と儲かるんだな」

 セルディオに落ちて来た所為ですっかり忘れているが、今も訓練校への借金を抱えているキサラギには雲の上の話だ。

「今の生活費だって両親の遺産を使ってるだから……って、どうしたの? 変な顔して」

『「…………」』

 まさか両親の残した遺産で養って貰っていたとは思わなかった。

 キサラギとリートは一様に気まずそうに沈黙する。特に食費という面で、シェラ達に多大な負担を強いていたキサラギはもう少し自重しようと考えを改めた。

 思わぬ財源のカミングアウトに意図せず微妙な空気が漂ったが、幸いにも目的地には予想より早く到着した。

 ラグル湖に到着した一行は深く青い湖面を一望する。

「今回は以前より随分と早く着いたな」

「この前は夜で天気は雨だったじゃない。なら当然の結果よ」

 シェラの言う通りだった。今回は時間が陽の照らす日中であったことに加え、天候にも恵まれていたことが原因だろう。

 ラグル湖はとても巨大な湖だ。澄んだ水は飲み水としては最高だろう。

だが、広く深い湖の底は陽の光すら届かない闇の世界でもある。

「リート。確認を頼む」

『了解』

 キサラギは湖畔にしゃがみ込むと軽く指の腹を破る。流れ落ちる血が一滴の雫となってラグルの湖面に溶けて消えた。

 血液中のナノマシンがリートと湖底に沈むモノを一時だけ繋げる。

『反応を確認。異常ありません』

「そうか。引き続き待機状態を維持さておけ」

『了解』

 血の滴っていた指を湖につける。ナノマシンの力で既に傷は塞がっている。血を洗い落とすとシェラが水筒を手に待っていた。

「さ、次はこっちの用を済ませましょう」

「そうだな」

「キサラギの血が混ざると困るから別の場所で汲みましょう」

「あ……」

 迂闊だった。ラグル湖の水が特殊なら不純物は混ぜない方が賢明だろう。

 結局、キサラギ達はラグル湖の水を汲んで、日が沈む前にボーレルへと帰った。

 道中で盗賊と名乗る連中に襲撃されたが、所詮はキサラギの敵ではない。

 殺さない程度に手加減してぶちのめして、山道の端に置いて行った。


 翌朝には二人はギルドに向かったのだが……

「お、おめでとうございます。キサラギさんとシェラさんの両名を、ギルドの冒険者として登録します」

 そう言ってギルドカードを差し出すレニーの顔は引き攣っていた。

 何でも今回の盗賊役はギルドに依頼された冒険者だったらしく、完膚なきまでに叩きのめされてしまった彼らはすっかり自信を喪失してしまっていた。

 ギルドを辞める者が続出していて、昨日からギルドは大慌てだったらしい。

「随分と、その……つ、強いんですね」

「ふっ、プロだからな」

 胸を張るキサラギをギルドの職員達は恨みがましい目で見ていた。

 しかしギルドに来たのは何もカードを貰う為だけではない。キサラギはそのままレニーから情報を引き出すことにした。

「実は人を探してるんだ。こいつに関する情報があったら提供して欲しい」

「へぇー……これはまた随分と精巧な似顔絵ですね」

 キサラギが差し出す似顔絵――リートの記録していた画像データを紙にプリントアウトした物にレニーは感心する。

「基本報酬はコレだけだ。あとは情報の中身によって判断する」

「はい。わかりました。……って! ちょっ……情報だけで銀貨五枚も出すんですか!?」

「そうだ。特に居場所と誰と一緒に居るかを提供した奴にはでボーナスを付ける」

 キサラギは無造作に金貨を出すとカウンターに転がす。掲示用にもう一枚の似顔絵も一緒に渡した。

 あっさりと金貨を出したキサラギにギルド内が騒然とする。

「き、きき、金貨! たかが情報だけで金貨ですか!?」

「ああ、そうだ」

 別にキサラギにとってはこの程度の出費は問題でもない。元はグラナ砦から奪ったミスリルの一部を換金した物だ。

 元手が無料なので、キサラギは痛くも痒くもない。

「毎日顔を出す。報告はその時に聞くから頼む」

「わ、わかりました」

「あ……それと依頼を受けるなら適当なことを言って、報酬だけ騙し取ろうとする奴には容赦しないと忠告しておいてくれ」

 キサラギは嘘の情報に金を払うようなお人好しではない。

 用は済んだのでキサラギが帰ろうとすると、これまで事態を静観していたシェラが口を挟む。

「それでキサラギ。こいつは誰なの?」

「そ、そうですよ! 私も気になります。情報だけで金貨一枚って、この人一体何したんですか!?」

 静かだが迫力のあるシェラと、噛み付くような勢いで捲くし立てるレニー、周囲の冒険者達も滅多にない高額依頼の背景を探ろうと聞き耳を立てていた。

 隠すことでもないので、キサラギは有りのまま事実を教える。

「俺の“敵”だ。この世界で一番厄介者な奴だよ。あいつは必ず何かやらかす……いや、既にやった後かもな」

 確証は無いが、心当たりなら付いていた。

 渡した似顔絵を職員が掲示用のボードに張り付ける。

 新しく張られたソレにはくすんだ金髪の男が描かれていた。

 似顔絵の中で男が笑う。口角を吊り上げ獰猛に笑う姿は、名前の通りまるで獅子のようであった。

どうも、如月八日です。

前書きにもありますが今回は少し短めです。

もう少し書いてあったのですが、区切りが悪いので一度切りました。

次回の更新はもう少し早い時間に投稿したいです。

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