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繋がる絆  作者: 結城由良
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ルシウス(1)―悪夢の始まり

これから3話ほどちとハード展開になるので、R15と残酷表現ありのタグ追加させてもらいました。グロくはしないつもりですが、苦手な人はすんません。

 森の中を獣が駆けて行く。


 小柄で、敏捷で、そして傷ついている。


 獣は(はし)る――人間(ヒト)になるために…


/*/


 小さい頃、ソレ(・・)はまだ人間(ヒト)だった。貧しいながらも、小さな村の片隅の小さい家に父母と生まれたばかりの弟と暮らしていた。


 それが壊れたのはいつの頃だったか。隣国との間に戦争が起こり、貧しい暮らしが更に苦しくなった。父が兵隊に取られ、畑が荒れた。母が畑を耕し、内職をして食いつないでいたがぎりぎりで、まだ幼かった弟は流行病(はやりやまい)であっさりと死んだ。


 ソレ(・・)も弟と同じ病に倒れ、死にかかっていた。そのまま死んでいた方が良かったかもしれない。だが、母親は必死で助けを求め、どこからか黒い魔術師を連れてきた。


 魔術師は母親に問うた――死の別れと生の別れとどちらを選ぶか、と。


 普通の手段ではこの子供は助からない。特別な手段でなら助かるが、二度と母と子としては会えなくなるだろう。命を救う対価として、子の人生をもらうことになる。そう魔術師は言った。


 貧しく生きのびるだけで精いっぱいな母親に選択の余地はなかった。その選択が子にとってどれくらい残酷な運命をもたらすかも知らず、二度と会えなくてもいいから救ってくれと、頼み込んだ。


――契約は成立した。黒い魔術師が子に魔法をかけると、子の病は癒えた。涙を流して喜ぶ母親、そして永遠の別れ。子を連れて魔術師は去り、言葉通りその地へ子が戻ることは二度となかった。


/*/


「左翼前方敵騎馬部隊へ≪火弾≫」


 戦場の様子を伺っていた前線指揮官は、敵の騎馬部隊が射程距離に入ったことを見て命令した。傍らに立つ黒いローブをまとった魔術師が、ヒトの形をしたソレ(・・)へ指示を出す。


「4号、左翼前方敵騎馬部隊先頭へ≪火弾≫投下」

「復唱します。左翼前方敵騎馬部隊先頭へ≪火弾≫投下」


 ソレ(・・)は感情の篭らぬうつろな声で、魔術師の指示を復唱しながら、両手を命じられた方角へ上げた。やはりうつろな目が目標を捕捉、開いた両の掌にエネルギーが集められる。圧倒的な火力の集中。生み出された高熱の火の玉を、ためらうことなく目標へ向けて射出する。


 着弾。閃光。爆発。遅れて届く爆音と爆風。


 突撃して来ていた敵の騎馬部隊の前方半数が壊滅し、総崩れとなった敵は撤退を開始した。


「これより掃討戦を開始する。槍部隊、前進して追撃。逃げ遅れた歩兵を狩れ。ただし、深追いはするな。弓部隊および魔術部隊は後方よりこれを援護せよ」


 前線指揮官が味方部隊への指示をおこなう中も、ソレ(・・)は腕を挙げたまま、うつろな目を前方に向けていた。


/*/


「やあ、すばらしい戦果ですな!パルジャン殿のその人間兵器があれば、今後の連戦連勝も間違いなしですな」


 がっはっはと下品な笑い声をあげて、総司令官であるその貴族は、黒ローブの魔術師――パルジャンを賞賛した。陣に張られた天幕で開かれた勝利の祝宴でのことである。人間兵器、と呼ばれたソレ(・・)は、パルジャンの右斜め後ろに無表情に立ち尽くしている。


「量産化計画の方は、どのような状況ですか?」


 その貴族は、パルジャンのパトロンでもあった。パルジャンの研究に必要な資金を提供し、その成果を戦場に投入する。その結果、いくつかの戦いで勝利を修め、貴族は国での立場を強めつつあった。更に戦果を上げれば、より要職に就くことができる。果ては摂政も夢ではないかもしれない。貴族は貪欲に笑った。


「まだ、研究を開始したばかりで、ほとんど進んでませんね。この試作品についても、実験体3つでの失敗の結果、なんとか生き残っただけで、まだ安定してるとは言いがたい。量産化については、もうしばらくデータ収集と調整をかけた上で検討させていただきたく」


 パルジャンの声はソレ(・・)に劣らず感情の篭らない淡々としたものであった。


「むう…ですが、おそらく今後も戦争は拡大を続ける見込みです。絶対的な戦力で敵を圧倒し、早期に戦争を終結させるためにも、貴殿の研究の完成を期待しておりますよ」

「わかっております」


 人間兵器つまり一般人を施術により攻撃魔法の使える魔術師にする研究――不審な魔術師の持ち込んだ怪しげなそれに出資をしたのは気まぐれのようなものであった。しかし、続く戦争に、疲労し戦うことに厭いた魔術師たちが戦場から離脱、あるいは戦死により失われていくにつれ、その重要性は増しつつあった。


「つきましては、実験体の確保について許可をいただきたく」

「近隣の村から調達していただいてかまいません。トラブルにならないように手配しておきますよ」


 宴席にやむなく同席させられ話を聞いていた前線指揮官は、その意味するところを察して顔をしかめた。


 続く数日で、その地区の敵兵は壊滅し、駐留部隊を残して本隊は引きあがることとなった。ソレ(・・)の実戦投入実験は成功を収め、パルジャンはその実験データと近隣の村で確保した実験体を研究施設へ持ち帰ったのだった。

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