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繋がる絆  作者: 結城由良
4/13

魔術師の島

シリアス展開になってしまいました(´・ω・`)。

 押し込めていた記憶、忘れたつもりでいた痛み。でも、思い出してしまった。


/*/


 アイラが「魔術師の島」へやってきたのは、数えで10になった年だった。なにかれとなく彼女に気を配ってくれていた祖母が死に、半ば親に売られるようにしてやってきたのだった。売られる――それは、貴重な才能の確保には投資を惜しまない「魔術師の島」からの資金提供を意味していた。今でも彼女がここ(・・)にいるために、「魔術師の島」は彼らに資金提供を続けている。


 彼ら――気の弱い父と、彼女を嫌悪の目でしか見ない母、そして彼女には与えられない愛情を与えられた弟と妹。


 それでもまだ、別の場所へ売られるよりはいいのだと、自分を慰めてきた。ここでならば学べる。成長を、成果を出すことを期待されている。彼女の才能――魔術師としての素養だけだったけれど、求められている。


 だから生きられる、生きていてもいいと思える。


 だけど、もし、魔法が使えなくなったら?


 暗闇の中で、凍てつくような恐怖にのど元を掴まれて、アイラは立ち尽くした。


/*/


 魔術師としての才能は血統に出る。両方が魔術師である親から生まれれば、素質の強弱はあっても、魔術師の才を持つ。


 魔術師の才のない者と魔術師の間の子供に魔術師の才があるものは半数。世代を経ればその確率はもっと下がる。


 アイラは父方の曾祖母が魔術師であるという、いわゆる先祖がえりの子供であった。


 時代が違えば、曾祖母の時代であれば、もっと魔術師というものが受け入れられたかもしれない。


 だが、アイラが生まれたこの時代――先の大戦で魔術師が戦略兵器として用いられ、その被害が世界規模におよんだその爪あとからの復興にもがいているこの時代には、魔術師は恐ろしいものと認識されていた。


 個ではとても魔術師には勝てない一般人も、衆を頼めば強い。あるいは、いかな力の強い魔術師といえど、完全に孤立しては生きられない。人間である限り、つながりを求める限り、孤立しては生きられない。


 先の大戦後、各国の保護を得られなかった魔術師の中には追われて狩られたものもいた。国の保護を受けられた魔術師も、兵器として不当に扱われるものも多かった。自由を制限され、人殺しを押し付けられる。そんな暮らしの中で心を病んで命を絶つものも後を絶たなかった。


 かつては多数とは言わないまでもそれなりの数いた魔術師が激減したのは、そんな事情からであった。


 そのような現状を憂い、立ち上がって仲間を集め、「魔術師の島」を作ったのが、塔主会議の先代議長アル=クラインだった。彼はその絶対的な魔力と外交力で多数の国を相手に、魔大陸に対する防衛拠点として作られたこの都市を魔術師の自治地区として勝ち取ったのであった。


 それが十数年前。


 まだ「魔術師の島」という組織は若く、それゆえ試行錯誤を続けている段階であった。


/*/


 アイラの見習い1級への昇格実技試験は、魔力と体力の回復に安静1週間を要したため、中断・保留扱いとなった。治療師の完治診断をもって再開という予定であったが、更なるトラブルの発生によって、無期保留となった。


 アイラが魔術が使えなくなったのである。


「精神的なものですね」


 あの事故の時点からアイラの治療に当たってきた治療師――タイサは、刈り込んで短くしたプラチナブロンドの頭を横に振りながら、そう告げた。魔力自体は回復している。切り傷を中心とした外傷も完治している。だが、魔力の暴走に対する恐怖が、心に傷となって残り、魔力の行使を妨げているのだろう、と。


「わたし…わたし…」


 アイラの顔が歪む。簡単な≪明かり≫の呪文さえ、使うことができない。空中の魔素を指先に集めて光素へ変換する、ただそれだけのことなのに。前は、息をするよりも簡単にできていたことなのに。体の中の魔力を集めて操作しようとすると、何かに阻まれる。怖い。


「無理にがんばろうとしないほうがいいです。焦らないで。今はまだ心に深い傷が残ってますから、まずはそれを治すことを考えましょう」


 タイサが慰めるのへ、アイラがしがみつく。


「治りますか?わたし…また、魔術が使えるようになりますか」

「ええ、きっと…」


 しかし、タイサの瞳に浮かんだ色は不安を帯びていた。

誤字修正。

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