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繋がる絆  作者: 結城由良
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昇級試験2日目

ルシウス仕事しろ!

「…ずいぶんとご機嫌なようですね」


 にやにやとにこにこの間の表情を浮かべるルシウスに、女性が幾分あきれた色をにじませた声をかけた。


「そう?」


 本人に自覚はないらしい。


「≪第三の眼≫で監視中ですか?」


 神秘的な紫の瞳で空中に漂う魔力の波動を眺めて、女性――長の補佐官を務めるA級魔術師マリエルが尋ねる。腰まで伸びた長い紺色に近い青の髪が、首を傾げると揺れる。≪第三の眼≫は基礎魔法のひとつで、近距離に視覚を飛ばす魔法である。属性は風であるが、難易度は視点を置く場所への距離に比例する。


「うん、なかなか面白いね」

「面白い、ですか?」


 補佐官としては、持ってきた書類をさっさと裁いて欲しいのだが、ルシウスの注意は3層下の第三実習室にあるらしい。


「うん、ラウルを思い出す」

「どなたですか、それは?」


 聞き覚えがない名前にマリエルが首を傾げると、いや人じゃなくてパウチーなんだけどね、とルシウスが言ったので絶句した。パウチーというのは、赤茶色の毛並みをした全長20cmくらいの小動物である。


「いやー昔家で飼っててね。あのつぶらな瞳を見ると思い出すんだよねぇ」

「…それは本人に言わないでくださいね」


 え、なんで?と首を傾げるルシウスに殺意を覚える。なんでこの人は顔も頭もいいのにこんなに残念なんだろう。叩いたら治るかしら、と手にしたワンドを弄んでいると、ルシウスがお、と言う感じで空中を見た。


「幾分戸惑いながらも順調に準備を進めてるね」


 ほう、とマリエルは受験者アイラの試験結果を記憶から掘り出した。


「筆記試験の結果も悪くはないですね」


 でも、と先を続ける。


「ルシウス様おん自ら監督官をされるほどの者ではないのでは?」


 おかげで書類が溜まって困る、と整った眉の片方を上げる。


「書類がめんどくさ…げふんげふん。いや、僕が買って出たのにはそれなりに理由がだね…」

「理由?それは、」


…昔のペットに似てるからだけじゃなくて?――と続けようとした瞬間、ルシウスの表情が硬くなった。


「いかん!」


 一瞬遅れて事態に気がついたマリエルもさっと顔を青ざめた。


/*/


――時は少々遡る。


 アイラは、雑念を振り払いながら、昨日の続きである材料の選別から始めていた。昨日は思わぬ大物との接触で気が動転したが、1日明けてだいぶ落ち着いた。なぜ水の塔の長が自分の監督官なのか、余りに驚きすぎて訊くこともできなかったが、昇級試験の仕組みをそれほど詳しく知るわけでもないアイラにはそれ以上追求しても仕方のないことではあった。


 監督官は不正や事故のないように受験者を見守るのが仕事だと、簡単に説明された。つまり、今もどこからか監視されてるということだ。見習いであるアイラにはまだ探知することはできなかったが、漠然とした気配に居心地が悪く身じろぎした。


 そのミスをしてしまったのは、重なる緊張のせいだったろうか。


 マジックアイテム練成用の魔法陣、床に緻密に描かれたそれに、一箇所だけ文字の書き損じがあった。それはほんとにささやかなミス。だが、魔法を使う者にとっては致命的なミス。


 気づかぬまま、魔法陣の中央に材料を置き、魔力を流し込む。それは、短い時間で済むはずの簡単な練成。だが、魔力は材料に集結せず、魔法陣の上で渦を巻き始めた。


「と、止まらない!!!」


 ルシウスが気がついたのが、その瞬間だった。


/*/


 魔力の荒れ狂う亜空間。第三実習室の扉を開けたルシウスは、その状況を見て舌打ちをした。


 実習室の壁にはこうした事故に備えて、対魔法の魔法が刻み込んである。その壁がみしみしと軋みを上げている。長くは持ちそうにない。


「≪解呪≫」


 どこからともなく取り出した杖を掲げると、ルシウスは魔法を解体する魔法をそこにロードし、起動呪文を詠唱した。


/*/


 遠くで誰かが呼んでいる。


 お母さん?


 そう呼んでいた人の胸に抱かれたのは何時のことだったか。


(気味の悪い子)


 私が水の玉をたくさん作って遊んでたのを見たとき、その人の顔がゆがんだ。


(あの子がここにいるのは怖いのよ)


 吐き捨てるように父と呼んでいた人に言うその人の言葉が、胸に突き刺さる。


 私はお母さんのところにいてはいけなかったの?


 生まれてきてはいけなかったの?


「おかあさ…」


「アイラ、アイラ、大丈夫か?」


 呼びかける声は、低く暖かだった。目をうっすらと開けると、まだ余り慣れない美貌が目に入ってきて…それでもなぜか安心できて…意識がすうっと遠のいた。


/*/


 一旦意識を取り戻したものの、再び気を失ったアイラを見て、ルシウスはちっと舌打ちをした。抱え上げ、遅れて駆けつけてきたマリエルに指示を放つ。


「魔力が枯渇寸前で危険だ!治療の準備を!」


 マリエルは頷いて答えた。


「手配済みです。こちらへ」


 駆けつけるのが遅れたのはその手配をしていたせいだった。


「助かる」


 礼を言いつつ走るルシウスが治療室にたどり着いたとき、呼ばれた治療師も駆けつけたところだった。

入れ忘れていた、ルシウスのペットエピソード入れました。

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