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繋がる絆  作者: 結城由良
2/13

心臓に悪い食事会

残念な美青年が相変わらず爆走中で、アイラが苦労人と化しつつありますが、着地点はなぞです。明日はどっちだ。

「…材料ってどこにあるの?」


 ルシウスの執務室から3階層ほど下の中層区にある第三実習室にたどり着いたアイラは、きょろきょろと中を見回して戸惑っていた。


 実習室そのものは、これまでアイラが所属していた初学者の塔のものとほぼ同じである。前に指導教員が説明をおこなう黒板と教壇があり、その前に魔法陣を描くための空間が確保されてある。さらに、その後ろに6人程度が囲めて小規模の魔法陣なら描ける作業机が4つほど置いてあった。


「アイテム練成の魔法陣はここに書くとして、材料がないと…」


 誰もいない実習室は静まり返っており、その広さが心細さを誘う。時間は昼下がり。明り取りの窓から日光が射し込んではいるものの、窓自体がそれほど大きくはないため、薄暗い。うろうろと用意されているという材料を探していると、教卓の上にあるメモに気がついた。拾って読む。


『材料は、準備室の倉庫から適当に見繕うこと』

「…用意ってそういうことですか」


 アイラはそのアバウトさにがっくりと肩を落とした。


/*/


 マジックアイテムの練成には、複数の材料が必要である。まずは素体と呼ばれる、魔法を付与する器となるものがなければ始まらない。今回は杖ということなので、杖となる長さの棒が必要である。付与する魔法との相性を考えてその素材は選ばれなければならない。


「えーっと、棒、棒…ハムネの木があるといいんだけど。さすがに、ファスコス鋼はないだろうし…」


 杖といっても指揮棒のような「ワンド」なので、それっぽい棒を実習室隣接の準備室付属倉庫からいくつか掘り出して並べていく。軽く魔力を流してみて、その手ごたえから材質を推測するのだが、とりあえずは目視で掘り出していく。まあ、目視といっても緩やかな探索魔法はかけているので、雑然とした中から比較的早く探し出せているほうではある。


「それから、できれば水結晶が欲しいなぁ」


 棒自体に文様を刻み込むなどで魔力を篭めることは可能であるが、できればより効率よく魔法を定着できる魔結晶が欲しい。特に、属性と相性のいいものが望ましい。


「うわ、あった!」


 サンプルだろうか、非常に小粒のものであるが、水属性の魔結晶(略して水結晶)を見つけて、アイラは喜びの声を上げた。


「後は、触媒、触媒…」


 そのほかアイテム合成に必要ないくつかの材料を見繕って、ようやくなんとかなりそうな目処が立った頃にはもうすっかり日が暮れていた。


(だいたい揃ったし、続きは明日にしよう)


 材料の選別と最終チェック、魔法陣の用意は明日にすることにして、アイラは第三実習室を出ようとして…固まった。


「な…っ」


 驚きの余り声が出ない。凝視した相手は、そんなアイラににこにこ笑いかけていた。


「やあ、お疲れ様。晩御飯でも一緒にいかが?」


 アイラは、残念すぎる美青年ことルシウスのその言葉に卒倒しそうになった。


/*/


「えーなんでわたしはこんなところでルシウス様と晩御飯を食べてるのでしょうか」


 緊張の余り味を感じなくなるという言い回しって真実だったんだわ、と第三者的な感想を抱きつつ、誰に言うともなく呟くアイラ。連れて行かれた店は、「魔術師の島」でももっとも高級とされるレストランで、高そうなコース料理であるにも関わらず、味わうどころの騒ぎではなかった。


「それは僕が誘ったからだね?」


 その原因であるルシウスは相変わらずにこにこしながら、食事を片付けている。そのテーブルマナーは、「絵になる」とはこういうことかと言いたくなるほど優美である。


「えーっと、なぜルシウス様が私のようなものを誘われたのでしょうか」


 アイラは疲れてきたのでダイレクトに聞いてみることにした。S級魔術師で水の塔の長がなぜ、一介の見習い魔術師にかまうのかが理解できない。


「んーかわいいから?」


 アイラが盛大にフォークとナイフを突っ込んだせいで、皿に載った鶏肉が30cmほど吹っ飛んだ…と思ったら、床に落ちる前にルシウスの指鳴らしで元の位置に収まった。そばに立っていた給仕の男性は、さすが高級店だけあって(?)、見ていたはずなのに眉すら動かさない。


「いや、ごめんごめん。まあそれもあるけど、僕、実技試験の監督官なんだよね。言い忘れててごめんね」


 あるのかよ!と心で突っ込みつつ、その後の言葉が浸透して行くに従って、アイラの目が大きく見開かれた。


「えええええ!」


 ルシウスいわく、実技試験中の見習い魔術師の健康管理も監督官の仕事のうちらしい。健康管理と言えばおいしいものを食べて、よく寝ることだよね、と、相変わらず輝くような笑顔でのたまわれると、反論もしようもない。


(そばにいるだけで、心臓に悪くて死にそうなんですが!!!)


 叫びそうになった言葉を飲み込んで、この拷問のような時間をさっさと終わらせるべく、料理を片付けることにしたアイラであった。

2011/08/18 修正:魔方陣→魔法陣(1カ所)

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