エピローグ
エピローグでやんす。
初学者の塔の中庭で、木を背にその女性は本を読んでいた。
本に影が落ちたので、ふと顔を上げる。このところ彼女になついている少女が立って、本を覗きこんでいた。
「この本に興味があるのかな?エリー」
名前を呼びながら微笑みかける。
「ねえ先生」
だが、少女が訊きたかったのは他のことだったようだ。
「先生はなぜ、先生になったの?」
お勉強ができるから?と首をかしげる。女性の笑みが深くなる。
「それはね。もらったものを返すためよ」
「もらったものを返すため?」
エリーの眉がしかめられた。
「先生が先生になるまでに、先生はたくさんのものを、先生の先生や、お父さんやお母さん、助けてくれた多くの人たちから、もらってきたの。そのもらってきたものを、エリーやみんな、そしてこれから教えることになる沢山の子たちに返したくて、先生になったのよ」
「先生の先生には返さなくていいの?」
返そうとしたら、断られてね、と彼女が笑う。エリーたちに返してあげてくれって頼まれたんだよ、と、エリーの頭をぽんぽんと撫でた。
まだわからないかもしれないけど…
「もし、エリーが私に何か返したくなったら、それはいつかエリーが大きくなったときに、エリーの子どもや、周りで困ってる子どもに返してあげてね」
――そうやって、絆は繋がっていくのだから。
少女は、戸惑いながらも頷いた。
「いい子ね」
女性――アイラは、少女の頭をくしゃっと撫でるのだった。
<Fin>