大団円
ということで畳む!
数日後、アイラの元へ父親が弟と妹を連れてやってきた。これから、魔術師の島で暮らすのだという父親に、アイラは驚きつつ喜んだ。
「えっと…お母さんは?」
アイラの問いにマルキスはさびしそうに笑った。
「お母さんは、心を病んでしまってね。実家へ戻って療養することになったんだよ」
「そう…」
複雑な思いだったが、ほっとしたのも確かだった。
父親が新しく開いた小物の店、それを手伝いながら母親代わりに弟や妹を育てる日々に、アイラ自身がゆっくりと癒されていった。
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「≪錬成≫」
床に描いた魔法陣が光り、中央に置いた材料が一つにまとまっていく。
光が消えるとともに、中央にはでき上がっていた「魔術師の杖」が出現した。課題は成功した。
「やったー!できたー!」
できあがった「魔術師の杖」を手に跳ねるアイラ。
ばん!と実習室の扉が開いて、招かねざる客が飛び込んできた。
「あいらちゅああああん、おめでとおおお!」
涙と鼻水をまき散らして抱きつこうとする残念すぎる人を、アイラはひらりと避ける。ここ1年ですっかり慣れたらしい。
「避けるなんてひどいよう」
すかった挙句、床に盛大なスライディングキスをかましたルシウスが、えぐえぐと文句を言った。
「乙女に抱きつくのはセクハラです」
「セクハラです!」
遅れて姿を現したマリエルが、冷やかに評する。アイラがそれに唱和した。
「ともあれ、錬成成功おめでとう。それを提出しますか?」
「はい、お願いします」
できた「魔術師の杖」をマリエルに渡すアイラの表情は緊張していた。
「水系魔術の増幅効果は中といったところですね。錬成は安定してますね。そうねぇ」
マリエルがにっこりと笑った。
「80点と言ったところかな。合格です。おめでとう」
緊張に固まっていたアイラの顔が、ぱあっと明るくなった。
「ああああ、ありがとうございます!」
杖ごとマリエルの手を握り締め、跳ねる。
「マリエルばっかりずーるーいー。僕が採点官もやりたかったのにー」
そしたら、アイラに手を握り締められるのは僕だったのにーと、床にのの字を書いていじけているルシウスに、マリエルが呆れた。
「そういうことばっかり言ってるから外されるんですよ。いい加減アイラ離れしてください」
「してください!」
えーっと口を尖らせるルシウスに、2人は顔を見合わせて笑った。
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家でもお祝いが行われた。父親が作った料理に、買ってきた焼き菓子。
「アイラ、1級合格おめでとう」
「「おねーちゃんおめでとー」」
家族のお祝いの言葉に、アイラが頬を染める。
「ありがとう。これもみんなのおかげだよ」
ぎゅうと弟と妹を抱きしめて、嬉しそうに笑った。その様子を目を細めて父親が見ていた。
「アイラはこれからどうするんだい?魔術師にはなるんだろうけど、その後は何をしたいんだい」
父親がふとアイラに尋ねる。
「うん、あのね。魔術師の島には先生が不足してるんだって。これからもっと魔術師候補の子どもたちが増えていくんだけど、その子どもを教える先生が増えないんだって」
だからね、とアイラが続ける。
「私、初学者の塔で先生をしたいな、と思ってるの。あ、まだ、思ってるだけなんだけど」
照れて、手に目を落とす。父親の微笑みが深くなった。
「とてもいい夢だね。アイラにとても似合ってる。アイラならきっとなれるよ」
「うん!」
晴れやかな笑顔は、とてもまぶしかった。
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「アイラちゃん!その夢は必ず僕がかなえさせてあげ…あた、あた、あたたた」
「覗き禁止。この痴漢。セクハラ男。変態。ロリコン」
「マリエルちゃん、やめて!それマジで死んじゃう…!!!」
水の塔で惨劇があったとか、なかったとか…