誕生
俺は山で育ったようだ。ようだというのはその前の記憶がまったくないことが原因だ。
今覚えている中で最古の記憶は山のなかで血にまみれて立ち尽くしていた俺だった。
近くには大きな狼の死体と鎧を着た人間数十人の身体と身体であった塊だった。
たしか俺は泣いていた気がするがあまり覚えていない。そこから俺は放浪のたびに出ていた。どのくらい放浪していたのかも覚えていない。そうして魔王様に拾われて今に至ると言った感じだ。
見ず知らずの敵である人間。すなわち俺を別け隔てなく拾って育ててくれた魔族のみんなにはとても感謝している。力になりたいとも考えている。だが、この世界はとても魔族には厳しい世界だった。
魔族の特性として高い魔力量、種族による身体能力を持ちながら肩身の狭い思いをしている。その理由は人間側による魔族排他の思想と魔族領の環境の厳しさにあるだろう。
少し街から外れれば強力な魔物が徘徊し、かといって魔族領から出てしまえば次は人間側から命を狙われると言った絶体絶命の状況なのだ。
だが、今は魔王様の手腕によるおかげか、魔族領は落ち着きの様相を保っている。しかし、人間側からの多用の攻撃による戦線の影響は計り知れないほどである。
そのため、主要メンバーで会議を開いているが対応に四苦八苦していた。
現在この会議室には第1師団長から第5師団長、そして魔王様の6人で毎回何かあれば会議をしている。
「第1師団長現在の戦況の報告をしろ」
「はっ!現在最前線の魔の森では人間側は木の伐採や森に火を放ち視界の悪さを軽減しようと躍起になっているところですがこちらの被害は軽微といったところです。
ただまだ大きな衝突は無いものの着々と人間側の総数が増えてきております。近い内に衝突するものと思われます。」
今、報告し終えたのは第1師団長のホーリス、種族はリッチで魔法を得意としていたはずだ。
古くから魔王様に使えていて先代魔王様にも仕えていた時期もあったという。
その報告を聞いて魔王様はおもむろに目を細めて口を開いた。
「して、そなたはどう対応していくのが良いと思う?」
「私は集まる前の早期決着。今すぐにでも突撃すべきと進言致します。」
「そうか。そなたはそれで勝ち目があると?」
「我らは誇り高き魔族でございます。人間ごときに負ける筋合いはありますまい。」
「ふむ。たしかにそなたはそれで勝てるやも知れん。だが部隊の被害も相当なものとなろうな。」
「今更我が部隊には突撃を誇りに思えど死に臆するものはございませぬ。」
「そこは信頼しておるよ。だが、そなたの部隊の一兵卒も我が臣民にかわりはない。失わない方法を模索したいものだな。」
そうなのだ。うちの魔王様は身内に甘い。甘すぎるのだ。
「それにそなたの部隊は魔法職が中心であろう。不測の事態にそれだけは心もとないな」
その時俺は手を挙げた。
「魔王様、それでしたら我が第5師団を戦線に参加したく存じます。」
「そなたがか?どういう風の吹き回しだ?」
「いえ、私は敵と同じ種族の人間でございます。少しここらで皆の信用を勝ち得るべく魔族の未来に貢献しようかと」
「何を今更。そなたの信心は誰も疑っておらぬよ。」
「この場では皆様の温かい思慮により負い目を感じることはございませんがほかの部員たちは違うのではないでしょうか?」
「ふむ。たしかに今だにたまにそういう話があったりするな。」
「と、ここまでかっこつけた物言いをしましたが個人的な理由もございます。」
「ほう。申せ。」
「私は生まれてこの方自分以外の生きてる人間を見たことがないのですよ。ここらでよい機会ですので少し見ておこうと思いまして。」
「なるほどな。」
魔王様は顎の下に手を置き少し考えたあと顔を上げ口を開いた。
「良かろう。そなたの信心をこちらも信用し、余も許可しよう。」
「ありがたき幸せ。」
「では、今後はそのようにしていこう。」
「「「「「はっ!」」」」」
こうして今回の会議は終わった。
日頃から口が達者な俺は特に気にすることも察されることもなく無事に終わることができた。背中には緊張による汗がびっしょりと服をぬらしていた。
こうして俺は少し嘘をついた。目的のために。




