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最終プレゼンテーション

JINが動いたのは、健人が構えを完了するのと、ほぼ同時だった。


否、コンマ数秒、早い。絶対的な強者が持つ、絶望的なまでの速度。


「――消えろォッ!」


黒曜石の大剣が、咆哮と共にダイスケへと振り下ろされた。それは、先遣隊を壊滅させた連合軍の連携や、ギルドハウスの罠に対する鬱憤の全てを乗せた、純粋な破壊の化身だった。


ダイスケは巨大な盾を構えてそれを受け止めるが、凄まじい衝撃に耐えきれず、壁まで吹き飛ばされる。


「ダイスケ!」


チグサの悲鳴が響く。だが、JINは止まらない。返す刃で、今度はチグサとハヤトに襲いかかった。圧倒的な個の力。一人で、熟練のパーティを蹂躙していく。これが、サーバー最強の男。


絶体絶命。誰もがそう思った、その時だった。


健人の、氷のように冷静な声が、司令室に響き渡った。


「――最終プレゼンテーション、開始」


その声は、戦闘の号令ではなかった。それは、全てが計画通りに進んでいるプロジェクトマネージャーの、落ち着き払った声だった。


「チグサ、回復はダイスケではなくハヤトを優先。彼のスキルクールタイムは残り5秒、その直後がカウンターのチャンスだ!」


「ッ……了解!」


健人の脳内では【議事録作成(絶対記憶)】スキルが、JINの剣筋、呼吸、魔力の流れ、その全てをタイムスタンプ付きのログとして完璧に記録していく。


そして【未来予知(Excel)】スキルが、その膨大なログをリアルタイムで分析し、数秒先の未来を確率として弾き出していた。


(JIN視点)


おかしい。何かが、おかしい。


俺の攻撃は、全て見切られている。大振りにはカウンターを合わされ、スキルを使えば、そのクールタイムを狙ったかのように連携攻撃が飛んでくる。まるで、俺という存在が、完全に解析され尽くしているかのようだ。


こいつら、俺と戦っているんじゃない。まるで、仕様書通りに動くバグを修正しているかのような、無機質で、完璧な連携……!


(健人視点)


「ハヤト、俺がプレゼン(幻覚魔法)で彼の視線を3秒間、右に誘導する。君はその隙を突き、彼の体勢を崩せ!」


「任せろ!」


健人が杖を振るうと、JINの右側に、アカリんの幻影が一瞬だけ映し出された。


「!?」


JINの意識がコンマ数秒、幻影に逸れた。その致命的な隙を、ハヤトの短剣が逃さない。JINの鎧の継ぎ目を的確に打ち、その体勢をぐらつかせる。


「ダイスケ、3秒後に広範囲攻撃が来る! 防御プロトコル『ウォール・オブ・コンプライアンス』実行!」


「おう!」


体勢を立て直したJINが、怒りのままにスキルを放つ。だが、その攻撃は、予測通りに割り込んできたダイスケの巨大な盾によって、完全に防がれた。


「な……ぜだ……」


JINの呟きが、司令室に響く。


「なぜ、俺の全てが読まれる……!」


健人は、静かに答えた。


「君の戦闘スタイルという『仕様』は、あまりにも情報が多すぎた。全てのログは、記録させてもらったよ」


そして、健人は最後の指示を出す。


「全員、最終工程に移行する! このプロジェクトを、完了させるぞ!」


ダイスケが、最後の力を振り絞ってJINに突進し、その動きを封じる。


ハヤトが、JINの注意を引きつけるように陽動を仕掛ける。


チグサが、JINの防御力を下げる最大級のデバフ魔法を、完璧なタイミングで叩き込む。


三人の連携によって生み出された、わずか数秒の、絶対的な好機。


健人は、その中央で静かに杖を掲げた。


「承認、感謝します。これにて――」


彼の前に、荘厳な光を放つ、巨大なプレゼンテーションスライドが出現した。


それは、一枚の紙ではない。これまで彼らが積み上げてきた、全ての努力と計画が凝縮された、光の事業計画書。円グラフが回転し、棒グラフが伸び、無数のテキストが流れ星のように降り注ぐ。


「【プロジェクト・アフターファイブ】、最終報告!」


全ての光が、一つに収束した。


それは、ただの魔法ではなかった。仲間との絆、緻密な計画、そして、決して折れなかった社畜の魂が練り上げた、必殺のプレゼンテーション。


光の奔流が、JINを飲み込んだ。



光が晴れた後。


そこに立っていたのは、健人と、その仲間たちだけだった。


JINは、最強の鎧を砕かれ、その場に膝をついていた。


「なぜだ……なぜ俺が、こんな……馴れ合いに……」


その虚ろな呟きに、健人は静かに首を振った。


「君は、一人だった。だが、俺たちにはチームがあった」


健人は、木の棒(に見える杖)を静かに下ろすと、告げた。


「プロジェクトは、完了だ」

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