王太子から婚約破棄された令嬢は号泣する!
「エリザベス様、王太子殿下がお呼びです」
王宮の自室で読書をしていると侍女がやってきてそう告げた。
「何の用かしら?」
「大事な話があると言ってました」
「すぐ行くわ」
本を閉じて私は立ち上がった。王太子は私の婚約者である。1か月後、私の14歳の誕生日に結婚することになっている。
その王太子から話があると言って呼ばれたのだ。
王太子の部屋に入っていくと、そこには醜く太った30歳の王太子が椅子にふんぞり返っていた。
「お呼びでしょうか、リチャード様」と私は言った。
「うん、来たかエリザベス」
「話があると聞きましたが」
「話というのはほかでもない。お前との婚約を破棄する」
「え? 本気ですか?」
「本気だ」
「私に至らないところがあるのですか?」
「大ありだ」
「それはどこですか?」
「胸だ」
「胸?」と私は自分の胸を見下ろした。13歳の私にはまだささやかなふくらみしかない。
「俺はなあ、どうせ結婚するなら巨乳のお姉さんと結婚したいのだ。わかるだろ?」
「国王様は婚約破棄を認めたのですか?」
「認めるわけないだろう。あの老害は頭が固いんだ。だから国王が長期留守にしている今のタイミングでお前との婚約を破棄するんだ。おやじにはあとで俺から話しておくから大丈夫だ」
「わかりました」
「悪いができるだけ早くこの王宮から出て行ってくれよ」
私は自分の部屋に戻って号泣した。
私は海の神ポセイドンと人間の女の間に生まれたハーフだ。ポセイドンは私と母を海辺の国の国王に預けた。私たちを預かった国王は、私たちにとても良い生活を与えてくれた。王宮に住まわせてくれて、王族と同じ生活をさせてくれたのだ。
私と母が王宮で暮らすことと引き換えに、父であるポセイドンはこの国を保護した。以前はたびたび津波が発生して国に甚大な被害が発生することがあったのだが、私たちが王宮に来てからはそれがぱったりとなくなった。それだけではなく、魚もよくとれるようになった。
他国が海から侵略に来たときはその船を嵐で沈めた。
国王には息子がいた。王太子リチャードである。国王は人徳のある素晴らしい人間だったが、子育てには失敗したと言わざるを得ない。
息子のリチャードはろくでなしだった。侍女に性的な暴行を働きトラウマを植え付けたり、ちょっとしたことで癇癪を起し侍従を半殺しにしたりすることは日常茶飯事だった。
しかしそれらの悪行を巧妙に隠蔽する狡猾さもリチャードは併せ持っていた。彼の悪行のほとんどはもみ消されて国王の耳には入らなかったのだ。
国王は私とリチャードの結婚を強く望んだ。私とリチャードが結婚すればこの国は安泰なのだ。私の父ポセイドンもそれを承諾した。そして私とリチャードは婚約したのである。1か月後の私の誕生日に正式な結婚が予定されていた。
その婚約がさっき破棄されたのである。
あの最低最悪の男リチャードと結婚しなくてもよくなったのだ。
私はうれし泣きの涙を拭いて窓の外の美しい海を眺めた。
すぐに荷物をまとめて私と母は船に乗り、王国を離れた。
数日後、海は荒れた。婚約破棄の知らせを聞いたポセイドンが激怒したのだ。豪雨が降り続き洪水が起こった。極めつけは巨大な津波だ。木々も建物もすべて薙ぎ払われ、ほぼすべての国民が命を落とした。リチャードも当然海のもくずと化した。