エダン
「三度目……?」
マリーの怪訝な声が返ってきた。
「……」
「……」
しばし、沈黙がおりる。
誰も言葉を発しない。
兵たちは、物言いたげな顔で、しかし口にはせぬまま視線だけを彷徨わせていた。
対して俺たちは、二の句を失って、ただ互いの顔を見つめていた。
「……覚えていないのも無理ない、か」
なんとか絞り出すようにして、それだけ言った。
無理もない、そう、俺だって。
何かが擦り切れて、正体を失いそうになるくらい、長い時を独りで過ごした。
何度も何度も何度も新たな生を受け、その生涯をお前を探すことに費やした。
そのうち、もはや俺の願いが聞き入れられないことを悟った。
なのに、再び産み落とされる。くだらない死を迎えるか、くだらない生を全うするかの選択を迫られる。
もはや、己の望みもよくわからなかった。
ただ、力を誇示する存在になり果てていた。
滑稽だと知りつつも、それでも構わなかった。
それくらいの時が流れていた。
だが、何故、今になって――それも、何故、反乱軍の首領として――。
何故、何故、いつもこうなのだ。
神は、気まぐれに俺の願いを聞き入れ、いたずらに俺を翻弄する。
「……俺はずっと、お前を探していた」
「そんなことは、知っているわ」
「知っている、と……?」
「あなたは王で、私は反乱軍。あなたは私の首を撥ねに来たのでしょう?」
マリーは焦れたように、早口で捲し立てた。
「違う。お前と共に生きるために、何百年、何千年とお前を探していた」
「何千年……? まさか、自分が男神の生まれ変わりとでも言うつもり?」
「いいや、俺は神などではなかった。お前とて、女神の生まれ変わりなどではない。マリー、お前は人の子であり、この私、ヴィシュタインの愛し子だった」
「は……」
マリーは顔を歪め、息をついた。
「覚えていないのか、私のことをヴィーと呼んでいた日を。生まれ変わったら、共に生きようと願ったことを」
「全く身に覚えがないわ」
答えは、間髪入れずに返ってきた。
この声。こんなにもマリーを感じるというのに。
芯が通っていて、ぶれない。恥じらいも物怖じもなく、率直な思いを伝えてくれる。
その声で、「ええ、覚えているわ」と返してくれれば、どんなに良かったか。
「そうか、ならば……」
「ならば?」