第八話 騎士はそこに
「先輩早く起きてください」
恋那の声で俺は目を覚ます。恋那と同じ屋根の下で暮らすなんて数週間前までは考えられないかったことだが今となってはもう慣れたものである。
「朝ごはん早く食べちゃってください」
夏休みから三週間がたち、そろそろ休みも終わろうとしていた今日この頃、俺達は転校こそしたものの夏休みの真っ最中だったため学園に一度も行ったことがなかった。そのため今日は将雅たちに案内してもらう約束をしている。
俺は朝食を食べ終えると届いてからサイズを見るために一回着た切りの制服に袖を通した休暇中だが登校する際は制服が原則らしい。
宝帝学園は有名な私立学校ということもあり制服の素材も良く着心地がとてもいい、前の制服とは大違いだ、まあその分値は張るが経費ということで魔女対策課が出してくれたため俺の財布へのダメージはない。
俺は着替えを終えると恋那が入れてくれたコーヒーを飲みながら恋那が部屋から出てくるのを待った。俺より早く着替え始めていたのだがやはり女子だから時間がかかるのであろう。
ちょうど俺がコーヒーを飲み干すと部屋から恋那が出てきた。
「お待たせしました」
「おう、じゃ、行くか」
家を出て鍵を閉めると俺たちは近くのバス停へと向かった。
「やっぱり宝帝学園の制服かわいいですよね」
「そーだな」
俺はテキトーに相槌を返した。どうせ毎日着ていたら何も感じなくなる。
バス停に着くとそこにはすでに将雅と真耶の姿があった。
「時間ピッタシやな」
将雅がそう言うと道の先からバスの影が見えてきた。
俺達はバスに乗り目的である宝帝学園へと向かった。
「でかいな……」
バスを降り、学園の方を見ると思わずそう口にした。
宝帝学園は部活動にも力を入れているらしく体育館が二つそれに加えサッカーグラウンド、陸上トラック、野球場など校舎でさえバカでかいのにそれらが加わりほかの学校とは比べ物にならないほどの敷地の広さを誇っていた。
「下手な遊園地よりでかいんじゃねーか」
「さすがにそれはないやろ」
門をくぐり学園へと足を踏み入れる。周りからは運動部の声が聞こえてくる、暑い中ご苦労なこった。
校舎の中はさすがの私立の進学校、空調設備が整っており玄関ですら涼しい。
「じゃあ一旦、俺らはここで」
「おう、終わったら電話せいよ」
そう言い俺たちは将雅たちと別れた。学園の案内と言ったが今日は教師との顔合わせも兼ねている。
職員室の扉を二回ノックし中に入る。見知らぬ生徒が入ってきたため教師たちが不思議そうな視線を送ってくるが俺は気にせず用件を告げた。
「転校生の黒神来叉です。教頭先生はいらっしゃいますか?」
俺がそう言うと奥に座っていた一人の男性が近づいてきた。
「おお、君が黒神くんか教徒の稲盛だよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「ああそうだ、君に紹介したい人がいてね。飯田先生」
教頭は窓際に座っていた女性を呼び寄せた。
「初めまして黒神くん、担任の飯田咲よ」
飯田先生が手を差し出してきたので俺はそれを握り、無難に挨拶をして学校に届いていた教材などを受け取り職員室を後にした。
外では既に挨拶を済ませた恋那が待っていた。テキトーに会話しながら将雅たちが待つ、2年C組。俺が通うことになる教室へと向かった。
「もう終わったんか、早かったな」
「まあ挨拶して少し教科書受け取っただけだしな」
「飯田先生、いい人やったやろ」
「なんというか大和なでしこという感じの女性だな、美人だし」
俺がそう言うと何故か横に恋那から視線を感じる。まあこういうのは気にしないのが吉というものだ。
「んじゃ、そろそろ回るとしまっか」
俺たちは教室を出て科学室、体育館、図書室、自習室など使用機会が多いであろう場所を教えてもらった後、昼頃でちょうど良かったため学食に訪れた。
「夏休みなのに学食がやってるんだな」
「部活してる奴らが使うんよ。ここの学食安いし上手いから」
注文は食券制で受付け口の横にある食券機を見る。メニューはざっと見でも10種を超えている、学食と考えると相当多い。
俺は500円を入れラーメンのボタンを押した。受付のおばちゃんに食券を渡すと3分ほどでラーメンが出てきた。
チャーシュー2枚にシナチク、ネギ、ワカメ、これといって特出する素材は無いが今のご時世を考えれば500円でこれは破格だろう。
俺たちは4人がけの席に座り手を合わせた。
「いただきます」
うん、想像通りの味だ、無難に上手い。レトルトの麺に業務用のスープ、よくある味だがこのふたつがシンプルで無難な学食の味を演出している。
「ご馳走様でした」
食事を終え、食器を返却し学園を出た。
「この後はどうするんだ?」
「せなやぁ、ほな近くのショッピングモールにでも行くか」
「この前お給料貰ったしな」
俺が魔女対策課に所属してから二週間ちょっと、案外魔女は見つかりやすいらしく初日の1人を含めて4人魔女を捕まえた。
魔女の強さにもよるが1人捕まえて約一万、そして固定給で週に十万。高校生にとっては大金だ。
「んじゃ、そうする......か」
何だこの頭の中を走る異物感は、まるであの夢に入った時のような......。
その瞬間、誰かの声が頭の中に流れてきた。
ーーこっちにおいで。
頭の中にあの夢と同じように1つの映像が流れこんでくる。どこかの交差点に少女と口が裂けたペガサスのような怪物。
俺はそこに行ったことないはずなのに身体が勝手にその場所へと向かい始めた。
「先輩!? 急にどうしたんですか!?」
「あの時とおなじだ。あの夢の時みたいに」
「夢? あの時の夢がどうしたんですか?」
3分ほど走り続けると映像の場所へとたどり着いた。映像に映っていた少女が泣きながら魔法らしきもので怪物の攻撃を防いでいた。
「将雅!」
俺がそう言うと将雅は返事もせず怪物へと正面から突っ込んで行った。
「ーー空雷!」
雷を帯びた拳を将雅が前へと突き出す、雷が宙へと放たれ大砲のような響きと共に怪物命中する。
怪物はその衝撃で少し後方へと強制的に後退させられ、その瞬間に真弥が少女を魔法で自分の手元へと引き寄せた。
「なんやこの化け物」
「将雅たちも見た事ないのか?」
「当たり前やろ、こんな化け物は物語の敵役でしか知らんわ」
この反応からするに将雅たちはあの夢を見たことがないのか......まあ見たことあるからと言って今この状況を打破する方法は思いつかないんだが。
「しゃーない、全員覚悟決めろや」
「やるしかないか」
俺は小刻みにジャンプし戦闘態勢を取る。
「ーー氷槍」
恋那のその一言と共に俺と将雅は怪物へ向け走り出した。
俺と将雅の射程は武器がない今長く見積もっても5メートル、決して不利では無い。相手が魔法を使ってこない場合はだが。
「キエェェェエェェ」
怪物がけたたましい咆哮をあげる。そしてそれと同時に怪物の上空に魔法陣のようなものが現れた。
めんどくせぇ。
怪物が生み出した魔法陣から黄色い2本の光線が放たれ、地面を伝って俺と将雅を狙ってくる。
幸い威力は強いがスピードはなく避けるのは容易い。かと言って反撃はできないため攻撃は後方の恋那と真弥に任せる他ない。
「雷波紋!」
怪物の動きを止めるため魔法を放つ、ダメージを食らう様子はないが電撃で麻痺し少しの間動きが止まった。
「サンダーフィスト!」
将雅が拳に魔法をまとわせ怪物の顔面を殴る。魔法をまとったとは言え人間、怯む程度だ。
「なんやこいつ硬すぎやろ」
恋那と真弥も既に何発か魔法を当てているが少し傷が付くぐらいで倒れる様子は全くない。
「キエェェェエェェ」
怪物が叫び、また魔法を発動する。その攻撃はさっきのよりも激しく避けるのが精一杯になり、後ろの3人にまで注意が行かなくなった。俺がすこし怪物から目を離したその瞬間、怪物は俺と将雅の間を通り抜け3人のもとへ突進していった。
ーーまずい!
俺がそう思ったのと同時に少女が小さく呟いた。
「助けて」
地面が揺れる。ーー少女の言葉と共に影が立体化したような5メートルほどの人型の謎の者。
それは怪物を押さえ付けると怪物の頭をつかみ首元から引きちぎった。
怪物は最後の悲鳴を上げ絶命する。するとそこには元から何もいなかったように謎の影は消えていた。
「あなたがやったの?」
真弥が少女に問いかけた。しかし少女は泣き続けるばかりで返答はしない。
「しゃーない、とりあえず銀さん呼ぶか」
将雅はそう言って懐から携帯を取りだし電話をかけた。それからそう時間が経たないうちに床沼さんが現れた。
「スゥ......ふぅ」
床沼さんはタバコを吸いながら怪物の死体を眺めたり、触ったりしている。
ただ怪物の姿に驚いている様子はなく淡々と現場検証をしているようだった。
「で、問題の女の子はそいつか」
床沼さんがうずくまっている少女を指さす。燃え尽きたタバコをその場に捨て踏み潰すと少女に近ずいた。
「嬢ちゃん名前は?」
やはり少女は答えようとしない。
「どうしたもんか......」
床沼さんは頭を書きながら面倒くさそうにため息をつく。
「しょーがない、お前らが面倒見てやれ」
「そんな急に言われてもなぁ」
「じゃあその子をほっとくってのか」
「そっちでどうにかできないんか?」
床沼さんは少し考えたあと後ろを向き「無理だ」と答えた。
「その子が魔女に関わっている以上俺らは見過ごすことも出来ない、だからお前たちが引き取れ」
床沼さんがそう言うと将雅は「しゃーないか」と諦めた。
「それと1つ約束をしてくれ。その子を絶対にほかの隊員に見せるな、存在を匂わすな。家から出す時は最新の注意を払え」
「なんでや?」
「何でもだ」
それだけ言うと床沼さんは怪物の死体を袋の形をした魔道具の中にしまい、車で走り去った。
ご愛読ありがとうございます。
ブックマークと評価をよろしくお願いします。