第五話 地獄行き
幸い、修道院からはそこまで離れていなかったため数分で帰ることができた。俺は息を切らしながら階段を駆け上がり、恋那のいる部屋へと向かった。
「良かった、無事だったか」
どうやら恋那は勉強をしていたらしい、さすが優等生だ。
恋那は俺の必死の形相を見るとすぐにペンを置き立ち上がった。
「だ、大丈夫ですか?」
「な、なんとか」
「私、何か飲み物持ってきますね」
「いや、そんなことより一旦ここから離れるぞ」
俺は恋那の腕をつかむとすぐに修道院を出た。すると外には謎のもやが空中を漂っていた。
「幽華撃」
「!?」
どこからか女性の声が聞こえるとそのもやは薙刀に変形し俺達へと襲い掛かってきた。俺はそれに反応し恋那を抱え横へと倒れこんだ。
「魔法!?」
「新手か……」
声の方を振り向くとそこには一つの影があった。その影が徐々に近づいてくると次第に姿が見え始めた。そいつは俺の想像していた姿とは違い、黒髪の長髪をなびかせ”般若の面”を被っていた。
「あいつの仲間か? 逃げるぞ!」
俺は恋那の手を取ると女から距離をとるために走り出した。
「先輩あの人だれですか?」
「俺も良くわかんねけど、多分、魔女対策課ってところの仲間だ……」
「魔女対策課? なんですかそれ!?」
「わかんねえって言ってんだろ!」
困惑しながらも走っていると今度は前から何かが迫ってきた。
「うおっ!」
俺はそれに気づき、後ろに倒れることで間一髪だが避けることに成功した。
「これさっきの薙刀」
「どっからでも狙えるってわけか」
この間にも女の足音は徐々に近づいてきていた。
(どうする、このままだといつかは追いつかれる。……ならもうやることは一つ)
「もう、戦るしかねえ」
「……わかりました。最後まで先輩についてきます!」
恋那もそれに鼓舞されたのか決意を固め立ち上がった。
「俺があいつと至近距離で殺り合う。お前はできるだけ後ろから援護してくれ」
「できるだけのことはやってみます」
「ウラァァァァ!」
力強く地を蹴ると女の方向へ一直線で向かった。
「ファイアブラスト!」
それと同時に恋那の炎の弾丸が女を襲った。
「幽游乱」
女が呪文を唱えると背後から紫色をした人魂のようなものが現れ炎を包み一瞬にして鎮火した。
「えっ、私の魔法が!?」
「ならこっちはどうだ! バインドボルト!」
両手に電流をまとい女に触れようとするが、女の手にはいつの間にか薙刀が握られておりそれによって防がれてしまう。
(なんだこの女、腕力ありすぎだろ、ゴリラかよ!?)
押し返されそうになっていると後ろからの支援が来た。
「氷槍!」
無数の鋭利なつららが女を襲う、それを避けようと後ろに跳んだ次の瞬間、来叉が次の手を打った。
「この時を待ってたぜ。――雷波紋!」
来叉が地面に手を触れると波紋のように電流が辺りを覆った。
「どうだ!」
「……!?」
女はそれに一瞬驚いたが宙に浮いていた薙刀を引き寄せるとそれを上昇させ空高くで浮遊した。
「お前、浮くのはずるだろ! ……ん? あれは」
俺は下から女を見ているとある一点に視線を引き寄せられた。
「ふっふっふ、お嬢さん油断したな」
「……?」
女は俺の言葉に対し困惑の表情を浮かべた。
「パンツが丸見えだぜ」
「!?……キャッ!」
女はスカートを押さえたが集中が途切れたからか薙刀の魔法が切れ、地面へと落ちていく。
「恋那! 今のうちに畳みかけるぞ!」
「はい! ファイアブラスト!」
恋那が魔法を放つとそれに俺も呼応する。
「バインドボ―――」
「月光」
一瞬の出来事だった。俺が女に触れようとしたその瞬間、胸の辺りを鋭い痛みが襲った。
「先輩!」
恋那が駆け寄ってくる。
「大丈夫? CORNO」
「……FOX」
女は抱き抱えられながら安堵の息を漏らしていた。
「お前は、鍵……峰」
そこには俺が気絶させたはずの狐の仮面の男がいた。
「もう外しちゃっていっか」
そう言うと男は仮面を外し素顔をさらした。
「やっぱり鍵峰さんじゃねえか」
「この状況でもさん付けするんだ礼儀正しいね」
「恋那、早く逃げろ!」
「でも……」
「あーやめときな。この距離だったら僕の射程範囲内だ」
「じゃあどうしろと?」
「安心して、僕たちにもう戦う意思はない」
「は?」
「僕たちも最初は君たちのことを殺すつもりだったんだけど状況が色々変わってね。君たちに一つ提案があるんだ」
「なんだよ・・・」
「君たちを見逃す代わりにうちで働いてみない?」
「は?」
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