第四話 地獄からの使者
7月20日蝉の声がする今日この頃、この国は夏を迎えていた。
「あち~」
俺はサテラさんに促され教会の近くを散歩しているところだった。
いくら俺が家にずっといるからってこんな暑い日に外に出なくてもいいだろ・・・
歩いていると一つの建物に視線を引き寄せられた。
「喫茶店か、まあ休むにはちょうどいいか」
俺はポケットをあさり財布を探した。しかし俺は出るときに財布を置いてきたらしく、ポケットにはハンカチしか入っていなかった。
終わった。
喫茶店に入るのを諦め、歩き出そうとすると後ろから足音が近づいてきた。
「君ちょっといいかな?」
「え?」
振り返ると後ろには黒髪の男が立っていた。顔はまだ幼さが残っており大人には見えなかった。黒いスーツに皮手袋をした明らかに一般人ではない服装をしていた。
「こういうものなんだけど」
男は胸のポケットから警察手帳のようなものを出してきたがエンブレムが警察のものではなかった。そしてそれにはこう書いてあった。
――鍵峰領 魔女対策課
(面倒そうなのが来ちゃったな)
「君、青雲高校二年の黒神来叉くんでしょ」
「なるほど、事件のことですか」
「そうそう、少しお茶でもしながらお話いい?」
鍵峰と名乗る男は喫茶店を指さしながら俺に問いかけた。
(拒否しても面倒そうだしテキトーに話しとくか)
その後喫茶店に入ると窓際の席へと案内された。席に着くと鍵峰はすぐに話しかけてきた。
「急に話し出すのもなんだし、好きなもの頼んでいいよ」
「マジっすか!」
俺は男の言葉を聞くとすぐにメニューを手に取った。
「えーっとそれじゃあクリームソーダとチョコパフェ、チーズケーキ、あと―――」
「待て待て待て、君は遠慮を知らないのか」
「だってなんでも頼んでいいって言うから、普段あんま高級なもん食えないので」
「まあいいけど。高級なものってただの喫茶店だよ」
「俺、修道院に居候してるので外食とかしないんですよ」
「ムーンライト修道院だっけ? ここから近かったよね」
「そんなことまで知ってるんですね」
「一応警察みたいなものだからね、事件にかかわった人の資料にはすべて目を通してるんだ」
「なるほど」
俺達は一旦会話を終えるとウェイターを呼び注文をした。注文を終えると本題である事件について話し始めた。
「あの質問いいですか」
「何?」
「事件の犯人、あれって誰なんですか全員変な仮面被ってましたけど」
「それを今調査しているところだよ、まだ何もわかっていないけど。もちろんわかり次第公表するつもりさ」
(嘘ついてんな)
学校から脱出する際、来叉は犯人の二人を身動きが取れない状態にしていた。あの状況で人を運ぶのは至難の業だろう。確実に一人は捕えているため”まだ何もわかっていない”ということはあり得ないはずだと考えていた。
「それともう一つ、魔女対策課って何ですか?」
「それを君が聞いてどうするの?」
男は少し威圧するように言った。
「ああいや、言えないんならいいんですけど事件の内容に魔女が関わっているのか少し気になって」
「……」
男は少しの間沈黙した後、少し渋りながらも口を開いた。
「んー、難しいところをついてくるね」
急に目つきが変わっな。
「そうだね、結論だけ言うと少しだけ魔女がかかわってる」
「なんでそれがわかるんですか?」
「それはさすがに言えないよ」
「だってさっき犯人について何もわかっていないって言ってたじゃないですか?」
「君はあまり知らない方がいいってことだよ」
(やっぱりこうなるか。テキトーに質問に答えときゃよかったの俺の悪い癖だな、これで俺も晴れてブラックリストの仲間入りか)
「まあいいや、とりあえず僕が答えられるのはここまでだ。次は僕の質問に答えてもらうよ」
「うっす」
「さっき君、犯人は仮面をかぶっていたって言ってたけどその仮面に見覚えはある?」
「ないです」
「学校の女の子とは交流はあった?」
(やっぱそうなるよな)
俺は少し考えた後、質問へと答えた。
「一応委員会で薔草恋那ってやつとは知り合いですけど」
「ああ、その子は知っているよ。生還した報告がこちらにも来ている」
「はい、本当に良かったです」
「仲はいいの?」
(さて、ここはどう答えるか。普通って言うのが無難だがこいつらの情報網のこと考えると怪しまれる可能性もあるが)
運命の人には五キロ―メートル以上契約した魔女から離れられない制約があるため恋那は夏休み期間だけ修道院に泊まることになっていた。もし男がこのことを知っていたら答え方を間違うと怪しまれる可能性があった。
「まあ、それなりには」
「そっか、じゃあ彼女のことを教えてもらえるかな」
「資料があるんじゃないんですか?」
「近しい人にしかわからないこともあるだろうし、人柄については書いてないから」
「そうですか。んー、端的に言うならただの真面目な優等生ですよ」
「なるほど、まあ確かに成績は良かったみたいだしね。ほかには何かある?」
「すみません、最近仲良くなったので詳しいことは」
「そっか、じゃあ今回のお話は終了かな」
「え、もうですか」
鍵峰は興味を無くしたようにすっと席を立った。
「ほかの子たちに聞いたら君が一番彼女と仲いいって言うから聞いてみたんだけど何も知らないなら仕方ないからね」
「はあ」
「あとは本人に聞いてみるよ。ちなみにだけど彼女が今どこにいるか君は知ってる?」
鍵峰は不敵な笑みを浮かべながら来叉へ問いかけた。
やばい、今恋那は修道院だ。それがばれるのもやばいが執拗に質問されすぎたらいつぼろが出るかわからん。
俺は脳をフル回転させて最適解を考えるがどのやり方にも問題があった。
クソっ、こうなりゃやけくそだ!
「それじゃあ、僕は帰――」
「あの、恋那なんですけど事件のことで今落ち込んでるので少しの間事件のことについて聞くのはやめてもらえませんか?」
鍵峰は少し動きを止めた後すぐに答えた。
「確かにそれもそうだね」
(あれ上手くいった?)
「ああそうだ、お代ここに置いとくから後はごゆっくり」
「あ、ごちそうさまです」
鍵峰はそのあとすぐに店を出て行った。
「こちらご注文の品になります」
「ああ、ありがとうございます」
そのあと注文したものを食べ終えると喫茶店を後にした。
(にしても何だったんだあいつは、魔女対策課ってのも初めて聞いたし)
俺はさっきの会話を思い出しながらこれからのことについて考えていた。すると曲がり角を曲がったあたりで何か違和感を感じた。
さっきから視線を感じるな、でも近くに人はいないし、まさか
――!?
俺は上からの気配を察知し、後ずさった。すると上から直立の刀が降ってきた。
「あれ、今の避けるんだ」
その刀の持ち主は体勢を立て直すと俺の方を向いた。そいつは狐の仮面、そして”黒いスーツに皮手袋”をしていた。
まさかこいつ!?
「次は外さない」
男は刀を構えると来叉へと鋭い斬撃を繰り出した。しかし俺は体をかがませ間一髪で避ける。
「あぶな!?」
「今のも避けるんだ、君、反射神経いいね」
「そりゃどうも、てかあんた鍵峰さんだろ」
「さあ、誰のことかな」
「あくまで白を切るつもりですか」
「どうせ君はここで死ぬんだから僕が誰でもいいでしょ」
そういうと男はまた刃を俺へと向ける、それと同時に俺は男とは逆の方へと走り出した。
「逃がさないよ」
男は力強く大地を蹴り一直線に突進し、刀を突き出してくる。
「うおっ!」
またも俺はそれを間一髪で避けた。
「ちょこまかと動いて面倒くさいな……もういいや」
(何が来るんだ!?)
「炎雨」
男が手を天へと突き出し、呪文を唱えた。すると男の手からマグマが火山のように噴出した、そしてそのそれが雨のように俺を襲う。
(こいつ、運命の人かよ!?)
必死に逃げるがやがて俺の上をマグマの雨が覆った。
(あ、終わった)
そう思った時にはマグマは俺の頭上へ降り注いでいた。
「お仕事終了かな……?」
「熱っ! ……くない?」
マグマの雨を浴びながら立ち上がると自分の体に火傷をしていないか確認した。
「君……熱くないの?」
「なんとも……」
「魔法が効かない人なんて初めてだよ」
すると男は魔法を止め、刀を構える。
どうする、さっきみたいに逃げたところで追いつかれるのは目に見えてる、なら。
「死ぬ覚悟はできた?」
「まったく!」
深呼吸をすると足を踏ん張り歯を食いしばった。
――戦るしかないだろ。
男は走り出し鋭い斬撃を繰り出す。
俺は斬撃を避けると男の懐へと潜り込んだ。
「―――バインドボルト!」
次の瞬間、激しく轟く電撃が俺の手を覆い、やがて男を襲った。
「くほっ……!?」
「一矢報いさせてもらうぜ」
しばらくすると男は電撃に耐えられず刀を落とし前へ倒れこんだ。それをみると攻撃をやめ、男から少し距離をとった。
「それだけ電撃くらったらしばらく動けないでしょ」
「やっぱり君、運命の人だったか」
「それじゃ、俺はこの辺で」
俺は不案を抱えながらも教会修道院へと向かった。
(何かあった時のために恋那に魔法を教えてもらってたが、まさか使う時が来るとは。しっかし何もねえといいけど……)
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