第二話 存在しない夜
2XXX年1月16日この国である事件が起こった。事件の概要はこうだ。ある一人の魔女が都市部でテロ行為をしたことがきっかけで国は魔女の存在を危険視し魔女狩り制度というものを制定した。魔女狩り制度はその名の通り魔女をこの国から排除するためにできたものだ。もし魔女を見つけたら国に密告することで懸賞金を受け取ることができるという実に簡単な制度だった。だが世の中そううまくはいかない、別に魔女が見つからなかったわけじゃない、その逆だ、魔女が多すぎたんだ。不自然なほどに、しかし国には魔女を見分ける方法がなかった。その結果起こったのが女性の大量虐殺。懸賞金欲しさに国民は次々と関係のない女性も密告し、制度が終わるまで女性は外に出られないほどだった。そんなこんなでこの国の女性人口は魔女狩り制度以前の一パーセントにまで減ってしまった。この事件を皆はこう呼ぶ。
―――魔女狩り事件と。
目を開けると真っ先に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。病院だろうか、俺は清潔なベットの上に横たわっていた。
近くに人の様子はない。俺一人の個室だろうか。しかし何かおかしい、あまりにも静かすぎる。俺は近くにあった時計を手に取った。12時30分あれから俺は一日近く寝ていたらしい。
俺は近くにナースコールのボタンがないか探した。しかしそのようなものは見つからなかった。俺は仕方ないと体を起こすと部屋の扉を開いた。
「は?」
扉の先は病院とは程遠いどこか見覚えのある民家だった。「どこだここ?」と思いながらも俺は部屋から出た。その瞬間
―――また、会えたね。
頭の中に誰かが話しかけてきたような感覚が走った。
「誰だ?」
周りを見渡すが誰もいない。はっきり言って気味が悪い。俺が早くここを出ようと動き始めると感じたことのない頭痛が俺を襲った。それと同時に謎の光が俺を包み込んだ。
次に目を開けるとそこには誰もおらずいつもの自分の部屋だった。
「何がどうなってんだ・・・」
するとまた強烈な頭痛が襲った。
「なんだこれ!?」
それと同時に俺の脳内に映像が流れ込んできた。そこには恋那と三つの頭を持つ巨大な犬、いわゆるケルベロスといわれるような生物が映っていた。
「恋那!? なんで」
俺は外の様子を確認しようと窓を開けた。するとそこはいつもの街とは違う異様な雰囲気が流れていた。いつもの月とは違う紅い月があり、街頭はすべて消え、そこら中に謎の樹木が生えていた。
「さっきは真昼間だっただろ」
来叉が時計を確認すると針は0時0分00秒で止まっている。
さっきの映像の場所、ここからはそう遠くないはず。
俺はいてもたってもいられなくなり部屋を出ると映像の場所へと向かった。
おかしい、いくら夜中だからって人の気配がなさすぎる。
目的地へ向かっていると後ろから水溜まりを踏むような足音が聞こえてきた。
チャポッ チャポッ
「誰だ!?」
とっさに振り向くがそこには誰もいない。
チャポッ チャポッ
「どこに居やがんだ、さっさと出てこい!」
チャポッ チャポッ
足音は俺へと徐々に近づいてくる。
チャポッ チャポッ
足音はすでに耳元まで近づいていた。
「っ!?」
次の瞬間、俺は本能的に危険を察知し後ろに倒れこんだ。するとさっきまで俺がいた場所には水溜まりができており、その中から何者かが手を伸ばしていた。
俺はそれに対し恐怖を感じ、目的地へ走り出した。
(あいつはなんかやべぇ!)
少しでもそれから距離を放そうと全力走った。
チャポッチャポッチャポッ
しかしそれでも俺に追いつこうと足音の間隔も早くなる。
チャポチャポチャポチャポ
(やばい、追いつかれる!)
雑念が足取りを悪くしたその瞬間。
「うわっ!」
俺は水溜まりの手に足をつかまれてしまった。
「離せコラ!」
抵抗をするが、謎の手は離す気配が一向にない。
「ちょ、おま、やめろ!」
手は水溜まりへと引きずり込もうとしてくる。
「やだ、やだやだやだ!」
地面に爪を立てるが抵抗むなしく足先が水溜まりに付いた。
恐怖からか寒気を感じ始め、指先が震え始める。
最後の抵抗をしようと振り返るとそこにさっきの手はいなかった。水溜まりは凍り、辺りには冷気が漂っていた。
「寒っ! さっきの奴は死んだのか? まあ生きてるしどうでもいいか。とりあえず今は恋那のとこに行かねえと」
俺は紅い月の方向へと走った。しばらく走り続けた後曲がり角を曲がるとそこには二つの人影があった。
「はあはあはあ・・・恋那!」
「先輩!?」
そこには、恋那、倒れたケルベロス、そして剣を持った謎の男がいた。
「お前がこの魔女の運命の人か?」
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