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飼育小屋のブロック

作者: 水野星夢

「なんだ、これ!」

私・春井ほのかは友達のうさみちゃん(本名「鈴木うさみ」)と一緒に飼育当番の仕事をしていた。ここの飼育小屋では3カ月ほど前まではうさぎを飼っていたが、今はもういない。死んでしまった。だから今は、掃除や草抜きをしている。私は凸凹(でこぼこ)になっている土をまっすぐにしようと思い、溜まっていた土をほうきではいていた。そうしたら、見知らぬタイルが出てきたのだ。

「どうしたの、ほのかちゃん」

「うさみちゃん! これ、見て!」

私は、駆けつけてきたうさみちゃんにそのタイルを見せた。

「これ、なんだと思う?」

「う〜ん、タイル、かな?」

「私もそう思うんだけど、なんだか気になるんだ。一緒に掘り起こしてみない?」

「いいね! それ、賛成!」

私は持っていたほうきをうさみちゃんに渡した。そして、シャベルを取ってきた。

「いい? 私はスコップでまわりを掘るからうさみちゃんは掘られた土をどかしてね。」

「うん、分かった!」

「いくよ、せーの!」

こうして超小規模工事「飼育小屋工事」が始まった。


——10分後。業間が終わる合図の音楽が流れた。

「ほのかちゃん、大変! 早く教室に行かないと!」

「そうだね。続きは……また来週だね」

「それにしてもびっくりだったね、ほのかちゃん。タイルだと思っていたあれがブロックだっただなんて」

そうなのだ。あれはタイルではなく、ブロックだった。

「そうだね、うさみちゃん。でも、まだブロックだと決めつけないほうがいいかも。まだ全体像が見えていないから」

「確かに、そうかもね。また来週も頑張ろう、ほのかちゃん!」

「私、今週末にある当番総会議の時に『今月あったトピックス』でこのことを言っておくね」

「ありがとう、ほのかちゃん。さあ、急いで教室に帰ろう! 3時間目遅れちゃうよ! 次は……国語の時間だから、国語の先生ブチギレちゃうよ!」



「今日は2月26日金曜日。最後の当番総会議になります。みなさん張り切っていきましょう」

あれから4日後。今日は2月26日で、今は6時間目の後にある特別授業の時間。毎週金曜日は6時間目の後に特別授業があって、今日みたいに当番総会議をしたり、クラスで学活をしたり、クラブ活動をしたりする。

「続いて、『今月あったトピックス』です。当番の仕事をしていて何か困ったことがあったり、いつもと違ったことがあったりしたら教えてください」

いよいよだ。しっかり伝えるぞ! 

「はい」

「では、春井さん」

「はい、先週の当番の仕事をしている時に、飼育小屋の中に見慣れないブロックみたいなものが埋まっていました。ですが、まだ何かはわかりません」

「分かりました。春井さん、ありがとうございました。他に何か、変わったことがあったら教えてください」

ふぅ、なんとか言えた。なんだか私が意見を発表したとき、なんだかざわついていた気が……。まぁ、いっか。気にしないでおこう。うさみちゃんを見ると、少し微笑み、小さな声で、「ありがとう、言ってくれて」と言っていた。

 週明けの月曜日。私は、今日はいつも以上にルンルンしているの! なぜなら、今日は飼育当番の日! 

「今日こそは全体を掘り起こしたいな~♪」

鼻歌交じりでそんなことを言っていると、

「おはよう、ほのかちゃん!」

偶然、うさみちゃんと出会っちゃった! この学校は生徒数が多い「マンモス校」で、一学年につき300人越え! 6学年合わせて1800人越え‼︎ だから、たった一人を見つけ出すのはとても大変なんだ。

「おはよう、うさみちゃん! 偶然だね」

「そうだね。今日は奇跡が起こりそう! まあ、逆に今この瞬間で今日1日の運を全部使っちゃっていて、とんでもない悪いことが起こっちゃうかもしれないけど……。」

 その、「悪いこと」の方に傾きかけているのは、この時はまだ、誰も知らなかった……。


——起立。礼。これで理科の学習を終わります。ありがとうございました。着席。解散。

「ほのかちゃん、行こう!」

「うん!」

意気投合をした直後、放送の合図がなった。私はちょっと、嫌な予感がした。

「ピーンポーンパーンポーン♪」

そして、その「嫌な予感」は、見事に当たってしまった。

「月曜日飼育当番の春井ほのかさん、鈴木うさみさん、今すぐ、職員室前まで集まってください。もう一度言います。月曜日飼育当番の春井ほのかさん、鈴木うさみさん、今すぐ、職員室前まで集まってください。以上、石川先生からでした」

視線が一気に私たちの方に向いたが、無理もないだろう。放送で二人とも呼び出されたんだから。

「石川先生が私たちに何の用だろう」

「でも、『今すぐ』って言っていたよね? 急いでいった方がいいよね……」

「そうだね、行こう!」

 そのあと私たちは、急いで職員室前まで集まった。

「「遅くなりました!」」

飼育当番担任先生の石川先生と、飼育当番副担任先生の竹田先生が職員室前で待っていた。

「よし、二人とも集まったね。まず、春井さん。先週の金曜日、君は飼育小屋に埋まっていたとされる謎のブロックのようなものを発見したと言ってくれたね」

「はい。」

あの謎のブロックのことか。すぐ話を終わらせて、飼育小屋の掃除をしないと。仕方がないので私は話の続きを聞いた。

「見つけたのは、だれと、いつ、どんな感じで埋まっていて、どんな心情になったのかな?」

「はい。うさみさんと、先週の月曜日の業間、浅いところで顔を出していたけどまだまだ奥は深そう.....あ、とても大きそうなもので、『なんでこんなところにブロックが埋まってあるんだろう』と思いました」

「そうか.....。ありがとう。もう少し話を聞いていいかな?」

えぇ、まだ続くの? 適当な理由つけて早く飼育小屋に行きたいと、切実に思った。

「いえ、今日はちょっと.....」

石川先生は、掃除をしっかりとするように、と初めの頃はかなり念を押して指導していたので、掃除となれば許しが出ると思っていた。しかし、先生たちは大人だ。そんなに甘いわけがない。私たちが予想していなかった答えが出てきたのだ。

「なんでかな? 飼育当番の日なのは知っているけれど、とてもきれいだからやらなくてもいいんだよ」

なんで? あんなに熱血に指導していた先生がこんなことを言うなんて……。信じられない。いったい、どのようなきっかけでこのようになってしまったのだろうか。

「……はい、わかりました。で、続きというのは、なんでしょうか」

「そうそう。次は、鈴木さんに話を聞きたいんだ」

え、次はうさみちゃんに? いったい、石川先生は、どんな目的で私たちを混乱させているのだろうか。

「あ、はい。わかりました」

「じゃあ……うさみちゃん、うさみちゃんが見たのは、ズバリこんなものじゃないかな?」

そう言って先生は、私たちに写真を見せた。私たちはは声をあげて驚いた。なぜなら、私が先週見たブロックらしきものとそっくりだからだ。

「それです! でもなんで……。もしかして先生、このブロックらしきものについて何か知っているんですか!?」

「まあね。でも、詳しくはいえないかな」

「どういうことなんですか、先生!」

ちょうどうさみちゃんが正論を言ったところで、業間が終わる合図の音楽が鳴った。もう、どういうことなのかさっぱり分からない。

「二人とも、業間が終わる音楽がなったぞ。さっさと教室に戻れー」

「「はい、わかりました。ありがとうございました」」

もう、まだまだ先生に聞きたいことだらけなのに……。

「ほのかちゃん、あの先生の言っていたこと、どういうことだと思う?」

教室に戻っている最中、うさみちゃんが私に話しかけてきた。

「うさみちゃんもわからないの? 実は私もさっぱりわからないんだよ。本当に、何か知っているんだったら、教えなさいよ、って言う感じだね」

「そうだよ。少しでも教えてくれたらいいのに……」

そして私は、時計を見て叫んだ。

「あっ、うさみちゃん、授業始まっちゃうよ! 急ごう!」

「う、うん!」

ー・ー・ー・ー・ー・

「ただいま帰りました」

私・鈴木うさみが家に帰ると、母は私に、

「おかえりなさい。うさみ、うさみの学校で今週の土曜日にイベントがあるそうよ。しかも、うさみの大好きな飼育小屋で。せっかくだし、行ってみない?」

と言い、チラシを渡してくださいました。でも、びっくりです。なぜなら、学校でやるイベン卜なら、先生が教えてくれると思うからです。ですが、先生からは何も言われませんでした。本当にそんなイベン卜は、やるのでしょうか。明日学校にこの紙を持っていって、先生に確かめようと思います。

ー・ー・ー・ー・ー・

「ほの、ほのが通ってる学校のことについて、ポスティングされていたわよ。見てほしいんだけど」

放課後。私・春井ほのかは、宿題をしようとしていたところ、お母さんに呼び止められた。

「学校でやるイベント? 宝物を掘り起こせ? 初耳だな~。気になる! お母さん、教えてくれてありがとう!」

「そう? 学校でお知らせされなかったのね~。不思議だわ~」

 翌日。クラスの中では、あのポスティングされていたチラシのことしか会話のネタになっていなかった。他の地区にもポスティングされていたんだ。となると、地区が違ううさみちゃんの家にもポスティングされていたのかな?

「ほのかちゃん、おはよう! 朝から悪いんだけど、このチラシ、ほのかちゃんの家にもポスティングされた?」

席に着くと、私が話しかけようとしていた人が、話しかけてきた。

「おはよう、うさみちゃん。私の家にもポスティングされていたよ」

やっぱり、うさみちゃんの家にもポスティングされていたんだ。

「そうなんだ! このチラシ、本物なのかな?」

え? 私、今から誘おうとしていたのに、うさみちゃんは何とぼけたことを言っているんだろう。

「なぜかというとね、学校でやるイベントなら先生がお知らせしてくれるだろうし、飼育小屋でやるんだったら飼育小屋にチラシがはってあると思うからだよ。それに、ここ! 学校関係なら発行者は教育委員会になっているはずなのに、見たことがない漢字ばっかり!」

確かにうさみちゃんのいう通り、このチラシは不思議だ。学校でお知らせはしないし、校内にチラシがはっていない。さらに普通のチラシならあるはずのホームページにいくためのQRコードすらない。うさみちゃんのいう通り、このチラシは本物ではなく、詐欺かもしれない。参加料をとってそのままイベントをしないという手を使って。しかし、私はあるところを見て目を疑った。

「参加料は……、む、無料!?」

参加料が無料なら、詐欺ではない。じゃあ、どういう意味なんだろうか。本当に、このイベントは開催されるのだろうか。うさみちゃんもそれに気づいて声を上げた。

「ほんとだー! これは……」

「「いくしかない!」」

 当日。私は、校門前でうさみちゃんをまっていた。

「ほのかちゃーん!」

「うさみちゃん! おはよう。あいかわらずうさみちゃんの私服はかわいいね」

うさみちゃんはおしゃれさんで、たくさん私服を持っている。今日の服は水色の生地に白色のギザギザみたいな模様が入ったセーターに、青色のロングスカートに、白色のブーツ。薄黄色のカシューチャをして、薄水色の腕時計までしている。テーマは水色なのだろうか。うさみちゃんの私服を見ると、いつもキラキラ輝いて見える。これが「女子力が高い人」というのだろう。

 それに比べて私は、クローゼットの中から適当に選んだピンク色のワンピース。綺麗に髪の毛がまとまっているうさみちゃんと違って、私は帽子で誤魔化している。うさみちゃんと隣に並ぶのが恥ずかしい。

「あっ! もうこんな時間!? 急いで飼育小屋に行かないと!」

腕時計を確認したうさみちゃんが、声をあげた。

「ほんとだ! 急ごう!」

 開始時間ギリギリにきた私たちのあとは、誰も来なかった。石川先生は、もうこれ以上人が来そうにないことを確認してから、いつもよりか一段階明るい口調で話し始めた。

「え~本日は『飼育小屋の宝を探せ!』に参加いただき、ありがとうございます。まず、皆さんには長靴を履いていただきます。参加人数は、1、2、3、……12。12人ですね。ここにはあの棚の中に中に入っていた5つの長靴と、私たちが用意してきた15個の長靴があります。棚の中にあった長靴には、ここに『飼育小屋』と書いていますので、返す時はあそこの棚の中に綺麗に戻してください。『飼育小屋』と書いていない長靴は、この辺りに返してください。では、早速履いていってくださいね」

私は石川先生に言われる通り、長靴を履いた。飼育小屋でやるイベントだから石川先生が司会をしているのか。竹田先生は、どこにいるのだろう。辺りを見回してみると、準備をしていた。

「では、さっき履いていた靴は、あの辺りにおいてください」

今からどんなことをするのだろう。ワクワクとドキドキの間に、ソワソワが混じっているような感情だ。

「それでは、ルールを説明します。この飼育小屋の中にはたくさんのものが埋まっています。皆さんにはそれらを探してもらいます。勝ち方は2つ。1つ目は、1番多く宝物を掘り起こした人。2つ目は、これを掘り起こした人。この2つの勝ち方は、別々なので注意してください。どちらかに勝った人には………これ! このメダルが渡されます!」

小さな子たちは、「わーーーーい!」と騒いだ。しかし、そのメダルは、「おめでとう!」と書かれている、100均とかに売っていそうなものだった。

「ルールは以上! このバケツの中にあるスコップをとって、探し始めてください! 制限時間は30分! よーい、スタート!」

みんな友達同士や家族で集まっている感じだった。男子の中には、友達同士で競っているグループもいた。

「ほのかちゃん、探そう!」

「うん!」

私たちの目標は、あの謎のブロックの正体をこの手で判明させることだ。今日はそのためだけにきたのだから。

 先生の言っている通り、たくさんのものが埋まっていた。カプセルトイとか、バスボムの中身とか。さらには、砂場遊びで使うような型とかまで。私たちはそんなものが出てきてもお構いなしに、謎のブロックのためにあちこちを掘り進めた。すると、何か大きなものに当たる音がした。少し掘ってみると、それは例の謎のブロックだった。

「うさみちゃん! あったよ!」

「ほんとだ! いい? 私はスコップでまわりを掘るかほのかちゃんは掘られた土をどかしてね。せーの!」

なんか、思い出すな。このブロックを初めて見つけた時を。私が見つけて、私も似たようなセリフを言ったような気がする。あの時は、まさかこのようなことになるなんて、思ってもいなかったよ。

——5分後

「こ、これ……?」

「だ、よ、ね……?」

私たち二人は、掘り起こされたものを見て唖然(あぜん)とした。なぜなら、何回か見せてもらった写真には表側しか写っていなかったからわからなかったが、それはただのブロックではなく、蓋がついている箱のようなものだったからだ。ゆすってみると、カラカラと音がする。

「なにが入っているんだろう……」

私たちが戸惑っている間に、「終了! みなさん、たくさん見つかりましたか?」と声が聞こえた。そして、「1グループにつき一個ずつかごを渡すから、代表者一名は取りに来てくださいね〜」と言われた。

「じゃあ、私が取りに行くね」

こういう時は、いつもうさみちゃんが率先して前に出る。たまには私がやってあげるのに。

「あ、ありがとう、うさみちゃん」

 その後、石川先生の指示に従って掘り起こせれたものを箱に入れ、マジックペンでグループ名を書き、竹田先生のところへ持っていった。

 5分ほど経ってから、石川先生が声を張った。

「それでは、お楽しみの優勝グループの発表でーす! まず、一番多くの宝物を掘り起こすことができたグループは……『チームピカ⭐︎イチ』さんで、74個でーす! おめでとうございまーす!」

おそらく「チームピカ⭐︎イチ」さんたちであろう幼くフレッシュな男子3人組が、「ヨッシャー!」や、「フ〜フ〜!」などといった嬉しくてたまらなさそうな声を上げていた。そして私は、早鐘を打つ心臓を無理やり押さえながら拍手をした。心臓が早鐘を打っている理由は、言うまでもない。

「続いて、これを掘り起こした人は……『()()()にいる()()ぎさん☀︎』さんで、このようにちゃんと掘り起こしてくれましたー! おめでとうございまーす! そして、ありがとうございます」

私は、さっきよりも二倍以上の速さで打っている心臓がバレないようにしながら先生や拍手をしてくれるみんなにお礼をした。……て、待てよ? さっき、「おめでとうございます。」の後に、「ありがとうございます。」と言っていなかったっけ。ありがとうを言うのは、こちら側なんだけど……。

「さっき、先生は『おめでとう』の後に『ありがとう』って言っていなかったっけ? あれって、どう言う意味なんだろう……」

「確かに、なんでだろうね。何か理由があるんだよ。一生懸命この日のために箱や宝を探してきたとか……。あ! 前、私たちが掘り起こしそうになった時があったでしょ? そのときにぜんぶをほりおこさなくてありがとうなのかも!」

「あ、そうなのかもしれないね」

うさみちゃんの言う通り、あの時の行動にありがとうなのかもしれない。

「それでは、ただいまより授賞式を始めます。『チームピカ☆イチ』さん、『()()()にいる()()ぎさん☀︎』さん、前に出てきてください」

私たちは「授賞式」と名前がつく場面で前に出て証書をもらう機会が少ないからか、ロボットよりもぎこちない歩き方をして前に出た。「チームピカ☆イチ」さんたちは、とてもうきうきした様子で前に出た。

「賞状 チームピカ☆イチ殿 あなたたちは『飼育小屋の宝を探せ!』において掘り起こし個数74個と最多掘り起こし部門で優秀な成績を収めましたのでこれを賞します 令和6年3月17日 石川正良 竹田秀信  おめでとう!」

一斉に拍手が沸き起こった。賞状と3つのメダルを受け取った「チームピカ☆イチ」さんたちは、とてもすがすがしい笑顔をみんなに見せた。真っ白な歯が輝いて見えた。

「賞状 ()()()にいる()()ぎさん☀︎殿 あなたたちは『飼育小屋の宝を探せ!』において目的のものを掘り起こしてタイムカプセル掘り起し部門で優秀な成績を収めましたのでこれを賞します 令和6年3月17日 石川正良 竹田秀信  おめでとう!」

少し沈黙が続いた後、拍手が沸き起こった。私たちは、賞状と2つのメダルを受け取った後、顔を見合わせた。そして、首を傾げ合った。

「あ、そういえば、この箱の中身を教えていませんでしたね。失礼いたしました。それでは、ただいまよりタイムカプセル開封式を始めます。皆さん、こちらに集まってください」

ざわざわした様子でみんなが前に集まった。

「では、オープン!」

開けられた箱の中身に、目からウロコが出るかと思った。

「皆さんご察しかもしれませんが、これは私・石川正良とこちらにいる竹田秀信先生のタイムカプセルなんです。先生たちは小学生の時、ここの小学校、すなわち、あやね小学校に通っていました。一年生の時からとても仲がよかった先生達は、先生の提案で小学校卒業のタイミングでタイムカプセルを埋めたんです。『今から25年後——37歳の時になったら、これを掘り起こそうよ。そのために、教師になってまたこの学校に戻ってくるという夢を叶うまで持ち続けようぜ』って約束して。しかし、昨年に竹田先生にタイムカプセルを埋めた場所がどこか覚えているかと聞いたら、先生と同じくタイムカプセルの埋めた場所をすっかり忘れてしまったらしいんです。これじゃあ、先生たち二人しかいないのにこの広い広い飼育小屋を全て掘り起こさないといけないのかと思い、今日このイベントを開催したんです。『()()()にいる()()ぎさん☀︎』さん、改めてこのタイムカプセルを掘り起こしていただき、本当にありがとうございます」

「い、いえ、そこまでのほどではありません。こちらこそ、楽しくお手伝いさせていただき、ありがとうございます」

「私からも、お礼申し上げます」

深々と下げられた先生たちを見て、思わずこちら側もお礼を言ってしまった。しんとした空気の中、先生と私たちの言葉が空気に響いた。いい話だと感心したのか、再び拍手が沸き起こった。恥ずかしがり屋のうさみちゃんを見ると、顔を真っ赤に染めていた。

「おっと、もうこんな時間になってしまいましたね。タイムカプセルの中身はこちら側で回収します。掘り起こしたものを持って帰りたい人は、先生か竹田先生のどちらかに申し出ください。では、本日は『飼育小屋の宝を探せ!』に参加していただき、改めてありがとうございました! あやね小の皆さんは、また明後日会いましょう! もしも教室に戻りたいと思っている人がいるのなら、先生か竹田先生に伝えてくださいね。では、さようなら〜」

全員で大きな声で「さようなら〜!」といい、四方八方に帰って行った。私たちは、「謎のブロック」——石川先生と竹田先生のタイムカプセルに目を向けた。

「じゃあ、帰ろっか、うさみちゃん」

「うん、そうだね。先生、さようなら!」

「はい。さようなら、春井さん、鈴木さん」

私たちは虹がかかっている空を眺めながら飼育小屋を後にした。

                                  Fin.

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